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幼馴染の嫁入りと妻の嫉妬
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「そんなことがありましたのよ、旦那様」
「なんてことだ……。忠告をしたはずなのに、アリーはまた来たのか……」
その日の夜、妻から昼間にあったことを報告されたレイモンドは愕然とした。
まさか自分の幼馴染がそこまで非常識で物分かりの悪い人間だったとは思っていなかったのだ。
「すまないシスティーナ……。私が幼馴染との距離感を誤ったせいで君にこんな迷惑を……」
「まったくですわ。大いに反省してくださいませ」
妻の怒った様子にレイモンドは慌て出した。
「すまない! 本当にすまない……! まさかアリーがここまで非常識だとは思わなかった……」
「わたくしもそう思いましたわ。あそこまで貴族社会における常識も礼儀も知らない方は初めてお目に罹りました。ダスター男爵家ではどのような教育を施しているのやら……。子供にまともな教育も出来ないならばいっそ家自体を潰してしまった方がよろしいかしらね……」
「え!? い、いや……それは流石にやり過ぎではないか?」
「そうかしら? 毒にしかならない家臣を切り捨てることも当主として必要なことですよ、旦那様」
何を甘い事を言っているのか。そう言わんばかりの妻の冷たい視線にレイモンドは居た堪れない。
「しかし……男爵には私が両親を亡くした時に支えてもらった恩義がある。システィーナの怒りは最もだが、どうかそれだけは勘弁して貰えないだろうか……」
必死に懇願するレイモンドと、それを泰然とした様子で眺めるシスティーナ。
完全に力関係が通常の貴族家とは反転している光景であった。
「旦那様がそこまでおっしゃるのなら仕方ないですね。男爵家を潰すのは勘弁して差し上げます」
「本当か!? ありがとうシスティーナ……」
「ですが、アリー嬢を何処かに嫁がせることは決定です。異論は認めませんわ。……わたくし、嫌だったのですよ? アリー嬢が旦那様を愛称で呼んだことが……」
「……っ!! システィーナ!」
愛しい妻の可愛らしい嫉妬に歓喜したレイモンドはたまらずシスティーナを抱き寄せた。
そのまま唇を重ね、妻の夜着に手をかけようとしたが……
「こら、駄目ですよ。まだお話の途中です」
ペチッと軽く手を叩かれておあずけを食らいレイモンドは悲しそうな顔で妻を見た。
「ええ……駄目か?」
すぐにでも可愛い妻と愛し合いたい。正直もうアリーのことはどうでもよかった。
「駄目です。きちんと幼馴染の嫁ぎ先を把握してください」
「うう……分かった。我慢する」
「ええ、そうなさってください。それでアリー嬢の嫁ぎ先なのですが、実は農場か牧場かどちらにしようか迷っておりますの」
「ん…………? 農場か牧場?」
一瞬働き口の話かと錯覚したが、間違いなく妻は“嫁ぎ先”だと言っていた。
「はい。ベロア家と取引のある大農場の経営主か、大牧場の経営主の子息あたりが引き取ってくださると思いますので」
「え? え……? もしかして平民に嫁がせるのか? 貴族家ではなく?」
てっきり貴族相手に嫁がせるものだと考えていたレイモンドは目を丸くして驚いた。
あれでも一応は貴族の令嬢なのに、と。
「……旦那様、アリー嬢では貴族家に嫁ぐことは無理ですよ?」
「確かに適齢期はとうに過ぎているが……後妻ならば可能だろう?」
「年齢の問題ではございません。アリー嬢は言動が粗野で幼稚なうえに礼儀作法がまるでなっておりません。後妻とはいえ貴族家に嫁ぐのであれば最低限のマナーは必須。何より、ベロア侯爵の娘であるわたくしに盾突いた令嬢を迎え入れたがる貴族家などございません。ベロア家を敵に回したも同然ですから」
「…………っ!? 確かに……」
「貴族が駄目なら平民に嫁がせる他ございません。幸いにして平民でも資産家であれば妻を何人でも娶れますので、第五夫人あたりなら可能かと」
「え……? 正妻ですらないのか……?」
「既に正妻がおりますし、跡継ぎも産まれております。そうなるとその座を奪うのは無理かと。それで、農場と牧場のどちらがいいと思われます?」
「う、うーん……それはダスター男爵に選んでもらおうか……。ところでアリーが使い込みをした分の返済をしないまま嫁がせていいのか?」
「いえ、勿論返してもらいますよ? 嫁ぐといいましても、農場にせよ牧場にせよ労働力として扱われますので。その分の給与はこちらに回してもらいます」
「え? 労働力……?」
労働力とはつまり幼馴染が平民のように働くということ。
曲がりなりにも貴族令嬢が泥に塗れながら働くというのは可哀想な気がしてならない。
だが、冷静に考えてみれば確かにアリーは礼儀作法が全くなっていない。あれでは貴族に嫁ぐなどどう考えても無理だ。そうなるともう平民に嫁ぐ以外の選択肢はない。だが……
「なあ、システィーナ……」
「もう話は終わりなので、夫婦の時間にしてもらって構いませんよ?」
「本当か!?」
嫁入りは考え直してくれないか、と言いかけたところで妻からのお誘いが入る。もうおあずけを食らっていた身としてはたまらず可愛い妻に飛びついた。
愛する妻に夢中になったレイモンドは幼馴染のことなど頭から吹っ飛んでしまった。
「なんてことだ……。忠告をしたはずなのに、アリーはまた来たのか……」
その日の夜、妻から昼間にあったことを報告されたレイモンドは愕然とした。
まさか自分の幼馴染がそこまで非常識で物分かりの悪い人間だったとは思っていなかったのだ。
「すまないシスティーナ……。私が幼馴染との距離感を誤ったせいで君にこんな迷惑を……」
「まったくですわ。大いに反省してくださいませ」
妻の怒った様子にレイモンドは慌て出した。
「すまない! 本当にすまない……! まさかアリーがここまで非常識だとは思わなかった……」
「わたくしもそう思いましたわ。あそこまで貴族社会における常識も礼儀も知らない方は初めてお目に罹りました。ダスター男爵家ではどのような教育を施しているのやら……。子供にまともな教育も出来ないならばいっそ家自体を潰してしまった方がよろしいかしらね……」
「え!? い、いや……それは流石にやり過ぎではないか?」
「そうかしら? 毒にしかならない家臣を切り捨てることも当主として必要なことですよ、旦那様」
何を甘い事を言っているのか。そう言わんばかりの妻の冷たい視線にレイモンドは居た堪れない。
「しかし……男爵には私が両親を亡くした時に支えてもらった恩義がある。システィーナの怒りは最もだが、どうかそれだけは勘弁して貰えないだろうか……」
必死に懇願するレイモンドと、それを泰然とした様子で眺めるシスティーナ。
完全に力関係が通常の貴族家とは反転している光景であった。
「旦那様がそこまでおっしゃるのなら仕方ないですね。男爵家を潰すのは勘弁して差し上げます」
「本当か!? ありがとうシスティーナ……」
「ですが、アリー嬢を何処かに嫁がせることは決定です。異論は認めませんわ。……わたくし、嫌だったのですよ? アリー嬢が旦那様を愛称で呼んだことが……」
「……っ!! システィーナ!」
愛しい妻の可愛らしい嫉妬に歓喜したレイモンドはたまらずシスティーナを抱き寄せた。
そのまま唇を重ね、妻の夜着に手をかけようとしたが……
「こら、駄目ですよ。まだお話の途中です」
ペチッと軽く手を叩かれておあずけを食らいレイモンドは悲しそうな顔で妻を見た。
「ええ……駄目か?」
すぐにでも可愛い妻と愛し合いたい。正直もうアリーのことはどうでもよかった。
「駄目です。きちんと幼馴染の嫁ぎ先を把握してください」
「うう……分かった。我慢する」
「ええ、そうなさってください。それでアリー嬢の嫁ぎ先なのですが、実は農場か牧場かどちらにしようか迷っておりますの」
「ん…………? 農場か牧場?」
一瞬働き口の話かと錯覚したが、間違いなく妻は“嫁ぎ先”だと言っていた。
「はい。ベロア家と取引のある大農場の経営主か、大牧場の経営主の子息あたりが引き取ってくださると思いますので」
「え? え……? もしかして平民に嫁がせるのか? 貴族家ではなく?」
てっきり貴族相手に嫁がせるものだと考えていたレイモンドは目を丸くして驚いた。
あれでも一応は貴族の令嬢なのに、と。
「……旦那様、アリー嬢では貴族家に嫁ぐことは無理ですよ?」
「確かに適齢期はとうに過ぎているが……後妻ならば可能だろう?」
「年齢の問題ではございません。アリー嬢は言動が粗野で幼稚なうえに礼儀作法がまるでなっておりません。後妻とはいえ貴族家に嫁ぐのであれば最低限のマナーは必須。何より、ベロア侯爵の娘であるわたくしに盾突いた令嬢を迎え入れたがる貴族家などございません。ベロア家を敵に回したも同然ですから」
「…………っ!? 確かに……」
「貴族が駄目なら平民に嫁がせる他ございません。幸いにして平民でも資産家であれば妻を何人でも娶れますので、第五夫人あたりなら可能かと」
「え……? 正妻ですらないのか……?」
「既に正妻がおりますし、跡継ぎも産まれております。そうなるとその座を奪うのは無理かと。それで、農場と牧場のどちらがいいと思われます?」
「う、うーん……それはダスター男爵に選んでもらおうか……。ところでアリーが使い込みをした分の返済をしないまま嫁がせていいのか?」
「いえ、勿論返してもらいますよ? 嫁ぐといいましても、農場にせよ牧場にせよ労働力として扱われますので。その分の給与はこちらに回してもらいます」
「え? 労働力……?」
労働力とはつまり幼馴染が平民のように働くということ。
曲がりなりにも貴族令嬢が泥に塗れながら働くというのは可哀想な気がしてならない。
だが、冷静に考えてみれば確かにアリーは礼儀作法が全くなっていない。あれでは貴族に嫁ぐなどどう考えても無理だ。そうなるともう平民に嫁ぐ以外の選択肢はない。だが……
「なあ、システィーナ……」
「もう話は終わりなので、夫婦の時間にしてもらって構いませんよ?」
「本当か!?」
嫁入りは考え直してくれないか、と言いかけたところで妻からのお誘いが入る。もうおあずけを食らっていた身としてはたまらず可愛い妻に飛びついた。
愛する妻に夢中になったレイモンドは幼馴染のことなど頭から吹っ飛んでしまった。
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