どうして許されると思ったの?

わらびもち

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素直なところが好ましい

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「大丈夫か!? 怪我は?」

「わたくしも子爵も怪我はありませんでしたわ。お茶も温かったようですし」

「よかった……。火傷でもしていたらどうしようかと……」

 安堵したレイモンドはシスティーナを腕の中に閉じ込めきつく抱き締めた。
 
「……さぞかし怖かったことだろう。傍にいてやれなくてすまなかった……」

「旦那様……」

 別にあの程度のことシスティーナにとっては恐怖の対象ですらない。
 それにレイモンドがあの場にいたとして妻を守れたかというと微妙なところだ。

 内心でそう思いつつもシスティーナは空気を読んでそれを表に出さなかった。
 感激したような声で「旦那様……」と呟き腕を夫の背に回す。

「システィーナ……」

 満足そうな夫の反応が可愛い。妻は守る必要が無いくらいの強者だというのにこうして守ろうとしてくれる気概が愛らしく思える。

「それにしても許せないな、君にそんな真似をするなんて……。私からもパメラに抗議しておこう」

「それには及びませんわ、旦那様。貴方から接触があろうものならむしろ喜んでしまうでしょうから。わたくしの方できちんと制裁を加えさせていただきます」

「え? 喜ぶ? どうしてだ?」

「だってパメラ嬢は旦那様のことをお慕いしているようでしたから。お茶をかけられそうになったのだって、わたくしと旦那様が愛し合っていると言ったからですもの」

「パメラが私を……?」

 キョトンとするレイモンドはハッと気付いたように「今、システィーナと私が愛し合っていると……」と別の話題に食いついた。どうやら幼馴染のことよりも可愛い妻が自分を愛していると言ってくれたことが嬉しいようだ。

「ええ、わたくしは旦那様を愛しておりますわ。旦那様もわたくしのことを愛しているのですよね?」

「勿論だ!」

「ふふ、嬉しいです」

 華やかな笑みを零す妻にレイモンドの目は釘付けとなる。
 自分の妻はなんと美しいのかと。

 こんなにも美しく愛らしい妻がいながら幼馴染との交流を続けようとした過去の自分が情けない。幼馴染がこちらに好意を向けていたと知らず、昔のような友情を保とうとしたせいでパメラは妻を害そうとしたのだ。こうなる前にもっと早く彼女達と距離をとっていればと悔やんでならない。

「すまない、こうなったのも私のせいだ……。成人しても異性の幼馴染と頻繁に交流するのは不適切だった。こうして君に被害が及んでから気づくだなんて私はなんという愚か者だ……。君だけではなく前妻達にまで嫌な思いをさせてしまったし、幼馴染達の婚期を遅らせることにもなった。私が鈍感なばかりに何人もの人を傷つけてしまい情けないよ……」

 考え無しだった過去の自分をレイモンドは酷く恥じた。
 成人した者として、貴族家の当主として、他者との関わり方を改めねばならなかったのにそれをしなかった。しようともしなかった。

 それがこうして大切な妻を傷つけ、面倒ばかりをかけてしまう結果となった。
 そのことがひどく情けなくて恥ずかしい。

「旦那様……」

 神妙な顔で夫の独白を聞くシスティーナだが、本心では「気づくのが遅いわね」と呆れていた。

(もっと早くに気づくべきことですけど、こうして素直に反省できるのは旦那様の長所よね)

 鈍い夫だが素直に己を顧みることが出来るところは好ましい。
 これで他責志向のひどい傲慢な男だったならとっくに見限っているところだ。

「旦那様、後悔したところで時間は戻りませんわ。反省なさるのは大切ですが、前を向きませんと。今必要なのは起こったことについてどう対処するかです。前の奥様達の傷を癒すことは出来ないかもしれませんが、彼女達が使わざるを得なかったお金については返せます。そして、幼馴染のお嬢様方の婚期も……まあどうにかなるかもしれませんわ」

 この時のシスティーナは恐ろしいほどに美しい笑みを浮かべていた。
 それは見た者を震えさせるほど凄惨で残酷な微笑み。丁度彼女を抱きしめているせいでレイモンドはそれを見ずに済んだが、もし目にしていたらきっと腰を抜かしていたことだろう。そして幼馴染達が碌な目に遭わないであろうことも察せたはずなのに。
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