どうして許されると思ったの?

わらびもち

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僅かな期待は打ち砕かれる

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「さあさあ皆、アリーを美しく磨き上げてちょうだい。旦那様となる方にがっかりされぬようにね!」

 ダスター男爵夫人の指示に従いメイド達は淡々とアリーの身支度を整えていく。
 何が何だか分からないアリーは抵抗することも無くただされるがままだ。

「だ、旦那様……? お母様、いったい何を言って……」

「言ったでしょう? 貴女の“嫁入り”支度よ。娘の嫁入りの準備をするのは母親としての最後の仕事。嫁いだらもう娘は婚家の人間となるのだから、母親といえども他家の人間が口出ししていい立場でなくなるもの」

「は? いや……そういうことを聞いているのではなくて……」

 この状況について尋ねたというのに、嫁入りの心構えのようなものを言われて唖然とした。違う、そんなことは聞いていない。どうしていきなり嫁入りなんて話になっているのか。

「……物分かりの悪い子ね。貴女の嫁ぎ先が決まったと言っているのよ、もっと喜んだらどう? 三十路を過ぎた令嬢を貰ってくれるなんて中々無いわよ」

「は? 本気で言っているの……? 私はレイモンド以外の妻になる気はないって言っているでしょう!?」

 男爵夫人は娘の反論を鼻で笑った。
 また馬鹿なことを……とでも言いたげな顔だ。

「いい年をしてまだそんな夢みたいなことを言っているの? いい加減現実を見なさい。この先何十年経って老婆になっても結ばれることなんて無いと断言できるわよ」

「なっ……!? いくらお母様でも言っていい事と悪い事があるわよ!」

の区別がついていない貴女に言われたくないわ。貴女の恋は多方面に迷惑をかけるものだといい加減自覚しなさい」

「は? 迷惑? 何それ?」

「……本気で分かっていないの……?」

 母親の低い声音にアリーはビクッと身を震わせた。
 これは母の本気で怒っている時の声だと気づき顔を青くする。

「貴女……フレン家の財産を“横領”していたらしいじゃないの? フレン伯爵の愛人を騙って商会で物を購入し、その代金をフレン家へと請求したそうね?」

「え……? な、なんでそれをお母様が知っているの!?」

 娘の反応に夫人は「本当にやっていたのね……」と残念そうに呟く。
 母親として心のどこかで嘘であってほしいという願いはあった。
 自分の娘が犯罪の手を染めていると認めたくなかった。
 だが、そんな僅かな期待を打ち砕く娘の反応に夫人はひどく落胆した。

「貴女……馬鹿なの? それは犯罪なのよ? 罪が明るみに出れば一家全員死罪も有り得ると分かっていて……?」

「え!? や、やだお母様ったら、驚かせないでよ! そんな大袈裟な話じゃないわ!」

 事の重大さを理解していない娘にカッとなった夫人は近くにあった陶器の置物を足元へと投げつけた。ガシャン!という音と共に陶器が割れて破片がアリーの足元付近に散乱する。

「ひっ!? な……なにするの! 危ないじゃない!」

「お黙り! お頭の弱い子だとは思っていたけれどここまでとは……。本当はその呑気な顔を打ってやりたいけれど……嫁入り前の顔に傷をつけるわけにはいかないわ」

 夫人は本当ならば事の重大さを理解していない呑気な娘の顔に平手打ちをしてやりたかった。だが、嫁入り前の顔に傷をつけては先方に申し訳が立たないので代わりに物を投げつけることで怒りを鎮める。何せこの縁談はベロア家が絡んでいる大切なものだ。ケチをつけるなどとんでもない。

「なんでそんなに怒るのよ!? だって私はいずれレイの愛人になるのよ? だったら嘘じゃないわ!」

「お前がフレン伯爵様の愛人になれる日など一生こないわ。それに愛人でないのに愛人を騙ることはどう考えても嘘よね? 馬鹿なことを言うのはお止めなさい。いったい誰からそんな馬鹿な(・)されたの?」

 頭の弱い娘だからこそ、愛人の名を騙って商会から物を購入してその代金をフレン家へ請求するなんて大それたことを思いつくわけないと夫人は考えた。

 おそらく娘に余計な入れ知恵をした者がいるはずだ。
 娘をそそのかして犯罪に手を染めさせた人物が……。
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