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前妻の生家
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ダスター家でひと悶着が起きている頃、システィーナはとある邸を訪ねていた。
「こちらでお待ちくださいませ。只今主人をお呼びいたします」
品の良い老婦人がシスティーナを応接間へと案内し、ゆっくりと頭を下げた。
案内された応接間は広いのに調度品がやけに少なく、寂しげな雰囲気が漂っている。
よく見れば床や壁に何か置かれていた跡が見られる。
もしかするとそこには且つて壺や絵画が設置されていたのかもしれない。
「失礼いたします」
声と共に扉が開かれ、先程の老婦人を伴った一人の老紳士が現れた。
「ごきげんよう、子爵様。こうして会っていただきましたこと、心から感謝いたします」
システィーナが優美な淑女の礼を披露すると、老紳士は一瞬見惚れたように立ちすくんだがすぐに我に返り「とんでもございません」と頭を横に振った。
「こちらこそ高貴な御身にこのような辺鄙な場所まで足を運ばせてしまい誠に申し訳ございません。お越しくださりましたこと、誠に光栄に存じますフレン伯爵夫人」
恐縮した姿で頭を深く下げる老紳士と老婦人。
二人はレイモンドの離婚した二人目の妻、前フレン伯爵夫人の両親である。
テーブルを挟んだソファーにシスティーナと前妻の父親である子爵が対面式に着席すると、前妻の母親である子爵夫人がお茶の用意を始めた。客人に茶を用意するのは本来ならば使用人の仕事なのに女主人自らするのはかなり珍しい。
(使用人の仕事を女主人がしなければならないほどなのね……。この家の財政が傾いているという話は本当みたい)
娘がフレン家の嫁いでいた当初は裕福であったはずの子爵家は、いまや使用人を雇う余裕もないほど困窮しているらしいと耳にした。こうして実際の状況を目の当たりにすると事態はかなり逼迫しているのかもしれない。
「それでは、早速本題に入らせていただきます。その昔、ご息女がフレン伯爵家に嫁いでおりました頃に愛人もどきの散財分を補填したことがございますよね? あの分を本日お返しにあがりました」
システィーナの予想外の申し出に二人は「へっ?」と目を丸くして驚いた。
「ど、どうしてそのことを貴女様がご存じで……?」
「当家におりますお頭の弱い侍女長より聞き出しましたの。どうやらご息女はレイモンド様の幼馴染を愛人だと誤解されたようですね。おまけにその侍女長がその誤解をあたかも真実のように語ったとか……。そのせいでその愛人もどきたちの散財分を健気にも妻として補填なさったらしいですね。しかし、それは詐欺の被害にあったも同然です。わたくしがフレン家の女主人となったからにはいくら過去のこととはいえ家内での犯罪を見逃すつもりはございません。加害者にはきっちり制裁を、そして被害を受けられた方には救済をするつもりです。そういったいきさつがあり本日参った次第でございます」
絶対権力者の如き堂々とした態度に子爵夫妻は気圧された。
何か言葉を返すべきなのに、目の前の少女のあまりにも威風堂々とした様に声も出ない。
「こちらで金額を算出させていただいたのですが、お間違いないかよくご覧になってください」
システィーナがスッと片手をあげると背後に控えていた侍女が数枚の書状を夫妻の前に差し出す。
「拝見いたします……」
絞り出すような声で書状を手に取った子爵は中身に目を通した。
読み終えるとフーっと息を吐いてそれを机の上に置く。
「こちらでお待ちくださいませ。只今主人をお呼びいたします」
品の良い老婦人がシスティーナを応接間へと案内し、ゆっくりと頭を下げた。
案内された応接間は広いのに調度品がやけに少なく、寂しげな雰囲気が漂っている。
よく見れば床や壁に何か置かれていた跡が見られる。
もしかするとそこには且つて壺や絵画が設置されていたのかもしれない。
「失礼いたします」
声と共に扉が開かれ、先程の老婦人を伴った一人の老紳士が現れた。
「ごきげんよう、子爵様。こうして会っていただきましたこと、心から感謝いたします」
システィーナが優美な淑女の礼を披露すると、老紳士は一瞬見惚れたように立ちすくんだがすぐに我に返り「とんでもございません」と頭を横に振った。
「こちらこそ高貴な御身にこのような辺鄙な場所まで足を運ばせてしまい誠に申し訳ございません。お越しくださりましたこと、誠に光栄に存じますフレン伯爵夫人」
恐縮した姿で頭を深く下げる老紳士と老婦人。
二人はレイモンドの離婚した二人目の妻、前フレン伯爵夫人の両親である。
テーブルを挟んだソファーにシスティーナと前妻の父親である子爵が対面式に着席すると、前妻の母親である子爵夫人がお茶の用意を始めた。客人に茶を用意するのは本来ならば使用人の仕事なのに女主人自らするのはかなり珍しい。
(使用人の仕事を女主人がしなければならないほどなのね……。この家の財政が傾いているという話は本当みたい)
娘がフレン家の嫁いでいた当初は裕福であったはずの子爵家は、いまや使用人を雇う余裕もないほど困窮しているらしいと耳にした。こうして実際の状況を目の当たりにすると事態はかなり逼迫しているのかもしれない。
「それでは、早速本題に入らせていただきます。その昔、ご息女がフレン伯爵家に嫁いでおりました頃に愛人もどきの散財分を補填したことがございますよね? あの分を本日お返しにあがりました」
システィーナの予想外の申し出に二人は「へっ?」と目を丸くして驚いた。
「ど、どうしてそのことを貴女様がご存じで……?」
「当家におりますお頭の弱い侍女長より聞き出しましたの。どうやらご息女はレイモンド様の幼馴染を愛人だと誤解されたようですね。おまけにその侍女長がその誤解をあたかも真実のように語ったとか……。そのせいでその愛人もどきたちの散財分を健気にも妻として補填なさったらしいですね。しかし、それは詐欺の被害にあったも同然です。わたくしがフレン家の女主人となったからにはいくら過去のこととはいえ家内での犯罪を見逃すつもりはございません。加害者にはきっちり制裁を、そして被害を受けられた方には救済をするつもりです。そういったいきさつがあり本日参った次第でございます」
絶対権力者の如き堂々とした態度に子爵夫妻は気圧された。
何か言葉を返すべきなのに、目の前の少女のあまりにも威風堂々とした様に声も出ない。
「こちらで金額を算出させていただいたのですが、お間違いないかよくご覧になってください」
システィーナがスッと片手をあげると背後に控えていた侍女が数枚の書状を夫妻の前に差し出す。
「拝見いたします……」
絞り出すような声で書状を手に取った子爵は中身に目を通した。
読み終えるとフーっと息を吐いてそれを机の上に置く。
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