どうして許されると思ったの?

わらびもち

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早くお戻りください

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「侍女長が協力者……? そうなの?」

「は? なんでそんな他人事みたいに言うんだ……?」

「いや……だって知らなかったもの、侍女長が関わっていたなんて。簡単に邸に入れてくれることがそんなおかしなことだと思わなかったし……。貴方の愛人を名乗ろうって言いだしたのはパメラだったし、侍女長が協力していたことなんて今初めて知ったわ」

「パメラが……? じゃあ……首謀者はパメラということか?」

「そ……そうよ! パメラが悪いのよ! 私やアリーはただパメラに唆されただけなの!」

 嬉々としてパメラに責任転嫁をしようとするメグの姿にひどく失望した。
 互いを大切な幼馴染だと思っていたのは自分だけで、実際は己の利益しか考えていない関係性でしかなかったのだ。

 初めから大切にするほどの関係性ではなかった。
 そんなまやかしを信じていた自分が本当に情けなくて恥ずかしい。

「侍女長はきっとパメラの手先なのよ! 私達はただ騙されただけなの! ねえ、信じてくれるわよね?」

「いいや、そうは思わない。君もアリーも同罪だ。嫌なら断ればよかっただろう? やってしまった以上その罪は無かったことにならない。使った分の金は勿論返してもらう」

「そんなこと言わないで! お願い、許してよ! このままだと私……借金のカタに平民と結婚させられてしまうのよ! 嫌よ、そんなの!」

「それは仕方ないのではないか? だってそれ以外の方法で返せないだろう?」

「ひ、ひどい……! なんでそんなに冷たいのよ!? 私はずっと貴方のことが好きだったのに! 本当なら妻になりたかったのよ!? でも家格が足りないから無理だって……だからせめて愛人でもいいから傍にいたかっただけなのに……!」

「……私は君達をそういう目で見たことは一度もない。成人しても幼い頃と同じような距離で接してしまい勘違いさせたのだったら謝る。だが、それとこれは別だ。他家の資産を勝手に使うことは犯罪なんだぞ? 本当なら処罰してもいいくらいなのに何処かに嫁ぐだけでいいなんて破格の条件じゃないか?」

「なんでそんなことを言うの! レイはそんなことを言う人じゃなかったのに……あの女と結婚したら変わってしまったわ! あの女が来てから何もかも上手くいかないもの……!」

「私の妻を侮辱するのは止めてもらおう。自分のことしか頭にない視野の狭い君達や私と違ってシスティーナは伯爵家の発展や領民の生活の事を第一に考えてくれる素晴らしい人だ」

 妻を褒め称えるレイモンドにメグは絶句した。

「な、なんで……どうして? あの女よりも私の方がずっと貴方のことを愛しているのに……。貴方騙されているわよ! あんな若い女が嫁に来るなんて何か良からぬことを企んでいるに違いないわ!」

 ここにシスティーナがいたら少し驚いた顔で「あら、鋭いわね」と心の中で呟いたことだろう。確かに鉱山目当てで嫁いだからメグの言い分は何も間違ってはいない。だが、そんなことなど知らないレイモンドは怒りに震えるのだった。

「妻を侮辱するなと言ったはずだ! 家と領地の為に心を尽くしてくれる妻を侮辱する資格が君にあるのか? 我が家の財産を勝手に浪費した君が! もうこれ以上話を続けるつもりはない。帰ってくれ!」

「いや! いやよ! あの家にいたら強制的に嫁入りさせられちゃう! お願いよ、レイ……私を貴方の邸に匿って!」

「どうして私の家に匿わなくてはならない? 我が家の財産を勝手に使った加害者の君を!」

 腕に縋りつくメグを振り払おうとしたその時だった。
 いきなりメグの体が後ろへと引っ張られていく。

「きゃあっ!? 何?」

「他人の旦那様にみだりに触れるのはお控えくださいませ、ゼット男爵令嬢」

 そこに立っていたのはベロア侯爵が連れていた年若い従者であった。
 どうやら彼がメグの腕を掴みレイモンドから引き離してくれたようだ。

「フレン伯爵様、主人がお待ちですので早急にお戻りください。こちらの令嬢はわたくしにお任せを」

 なかなか戻らないレイモンドを探しにここまでやってきたのだろう。
 決して心配したからではない。その証拠にベロア侯爵を待たせるなんて有り得ないという不満が彼の顔に浮かんでいる。

「あ、いや……そこまでやってもらうわけには……」

「いえ、お気になさらず。もう一度言います。主人が待っていますので早急にお戻りください」

 何度も言わせんなコラ、とばかりの圧に負けてレイモンドは激しく首を縦に振った。

「わ、分かった……! すまないが、後はよろしく頼む……」

 ぎゃあぎゃあと喚くメグを従者に任せ、レイモンドは建物の中へと入っていった。
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