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「私の兄のことはシスティーナから聞いておるか?」
「あ、はい。不祥事を起こして廃嫡されたと……。その不祥事の内容も聞いております」
「そうか、ならその部分の説明は省こう。それで先ほども言ったように私の兄は婚約当初からやたらと婚約者よりも上に立ちたがっていた。男だから、という何とも不透明な理由でな。しかし能力も身分も婚約者の方が上だ。そこで兄は婚約者を自分よりも下の立場にするため、彼女を貶めてその価値を下げるという最も愚かな策に出た。その結果、婚約破棄のうえに廃嫡だ。婚約者という対等な関係においてどこまでも上に拘った結果がこれだ。まったく愚か極まりない」
侯爵はこの時代の男性にしては珍しく婚約や結婚において男の方が上であるべきという考えをしていなかった。
「兄は常々言っておった。男の方が上だと女に知らしめないと舐められると。だから最初のうちに立場を分からせてやって従わせる必要があると。私はその考えがさっぱり分からなかったな。別に立場を分からせる必要などないと思わないか? 婚約者や夫婦の間に上下関係を持ち出した時点で破綻するものだろう。私が女ならばそんなことを言ってくるくだらない男などごめんだ」
そう言われると確かにくだらない。
上の立場にしがみつき伴侶を貶めるような言動をする男など好きになる女がいるとは思えない。そして、ベロア侯爵ほどの男であればたいていの女は従順であろうとするはずだ。
「そんなことをしておきながら兄は本当は婚約者を愛していたそうだ。婚約者の座が兄から私に移行することが決まった時は泣きながら文句を言われたな。この泥棒が、と金切り声で罵られもしたが自業自得だと返したよ。余計な真似さえしなければ当主の座も婚約者も兄のものであったはずなのにな。レイモンド君、君もシスティーナとフレン家当主の座を手放したくないのなら愚かなことは考えない方がいい」
もしかしなくともこれは釘を刺されているのではないかとレイモンドは冷や汗を垂らす。
行動を間違えてしまえばベロア侯爵の兄のように愛する人も地位も失うことになるのだぞと忠告されているような気がしてならない。
「は、はい……勿論です」
「そういう素直な部分は君の長所だな。もしそうでなく、兄のように捻くれていたら君は全てを失っていただろうよ」
まるでシスティーナを貶めるような真似をしたのならお前は終わりだったと言われているかのよう。いや、実際にそうなのだろう。幸いにもレイモンドは妻に絶対服従であるからこそベロア侯爵もこうして友好的でいてくれるのだろう。そうでなかったら徹底的に潰されていたかもしれない。
夫として妻よりも上でありたいと思う気持ちはある。
だが、ここまで能力差があるとそれは無理だなと早々に諦めてしまった。
その選択を我ながら情けないと思う事もあるが、今考えるとそれが最適解だったのかもしれない。
「私も、そしてシスティーナも君を気に入っている。どうかその期待を裏切るような真似はしないでくれよ」
「は、はい……もちろんでございます」
気に入られていると言われるのは嬉しいが、同時に気に入られなければどうなるのだろうかという恐怖心が湧いた。
「あ、はい。不祥事を起こして廃嫡されたと……。その不祥事の内容も聞いております」
「そうか、ならその部分の説明は省こう。それで先ほども言ったように私の兄は婚約当初からやたらと婚約者よりも上に立ちたがっていた。男だから、という何とも不透明な理由でな。しかし能力も身分も婚約者の方が上だ。そこで兄は婚約者を自分よりも下の立場にするため、彼女を貶めてその価値を下げるという最も愚かな策に出た。その結果、婚約破棄のうえに廃嫡だ。婚約者という対等な関係においてどこまでも上に拘った結果がこれだ。まったく愚か極まりない」
侯爵はこの時代の男性にしては珍しく婚約や結婚において男の方が上であるべきという考えをしていなかった。
「兄は常々言っておった。男の方が上だと女に知らしめないと舐められると。だから最初のうちに立場を分からせてやって従わせる必要があると。私はその考えがさっぱり分からなかったな。別に立場を分からせる必要などないと思わないか? 婚約者や夫婦の間に上下関係を持ち出した時点で破綻するものだろう。私が女ならばそんなことを言ってくるくだらない男などごめんだ」
そう言われると確かにくだらない。
上の立場にしがみつき伴侶を貶めるような言動をする男など好きになる女がいるとは思えない。そして、ベロア侯爵ほどの男であればたいていの女は従順であろうとするはずだ。
「そんなことをしておきながら兄は本当は婚約者を愛していたそうだ。婚約者の座が兄から私に移行することが決まった時は泣きながら文句を言われたな。この泥棒が、と金切り声で罵られもしたが自業自得だと返したよ。余計な真似さえしなければ当主の座も婚約者も兄のものであったはずなのにな。レイモンド君、君もシスティーナとフレン家当主の座を手放したくないのなら愚かなことは考えない方がいい」
もしかしなくともこれは釘を刺されているのではないかとレイモンドは冷や汗を垂らす。
行動を間違えてしまえばベロア侯爵の兄のように愛する人も地位も失うことになるのだぞと忠告されているような気がしてならない。
「は、はい……勿論です」
「そういう素直な部分は君の長所だな。もしそうでなく、兄のように捻くれていたら君は全てを失っていただろうよ」
まるでシスティーナを貶めるような真似をしたのならお前は終わりだったと言われているかのよう。いや、実際にそうなのだろう。幸いにもレイモンドは妻に絶対服従であるからこそベロア侯爵もこうして友好的でいてくれるのだろう。そうでなかったら徹底的に潰されていたかもしれない。
夫として妻よりも上でありたいと思う気持ちはある。
だが、ここまで能力差があるとそれは無理だなと早々に諦めてしまった。
その選択を我ながら情けないと思う事もあるが、今考えるとそれが最適解だったのかもしれない。
「私も、そしてシスティーナも君を気に入っている。どうかその期待を裏切るような真似はしないでくれよ」
「は、はい……もちろんでございます」
気に入られていると言われるのは嬉しいが、同時に気に入られなければどうなるのだろうかという恐怖心が湧いた。
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