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一方その頃自宅に帰ったメグは……
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さて、ベロア侯爵の従者によって無理やり馬車に乗せられ自宅に帰らされたメグはというと……
「ちょっとメグ! 何処に行っていたのよ!? もうすぐ先方がお見えになるから早く支度なさい!」
「え!? ちょっと待ってよ、来るのは明日だって言っていたじゃない!」
「明日は急なご予定が入ったらしく急遽予定を今日に変更されたのよ。いいから早く着替えなさい!」
「はあ!? 何でそんな大切なこと勝手に決めるのよ!」
「お黙り! 泥棒風情が文句を言う権利なんてないわよ! こっちは一日でも早く出て行って欲しいのだから丁度いいの。ぐだぐだ言っていないでさっさとおし!」
「泥棒ですって!? ひどい! 実の妹に向かって何てひどいことを言うのよお姉様!」
「他人様の財産を勝手に使った泥棒女を妹なんて思いたくもないわ! お前と血の繋がりがあること自体がおぞましい! いいからさっさと支度なさい!」
メグを出迎えたのは彼女の姉だ。娘しかいないゼット男爵家では長子である彼女が跡継ぎとして婿を迎えて家を継いでいる。姉は以前から幼馴染ばかりを追いかけて年頃になっても縁談ひとつ受ける気の無いメグを疎んじていた。いつまでも小姑がいるというのは体裁が悪い。あの家は娘にまともな縁談ひとつ与えられないのかと社交界で馬鹿にされてしまうからだ。
実際、姉は社交に出る度メグのことを引き合いに出され嘲笑されることにウンザリしていた。父に抗議しても「そのうちレイモンドが愛人として迎えてくれるから」の一点張り。もう十年以上関係が幼馴染から進展していないのに、今更そんな男女の仲になれる可能性など皆無に等しいとメグも父も理解していないことが信じられない。
そうこうしているうちにメグがフレン家の財産を横領していることが発覚し、それを聞いた姉は発狂しそうになった。ただでさえこの妹のせいで他家の夫人から嘲笑されるという屈辱を受けているのに、今度は妹の連座で命まで奪われるかもしれないなど耐えられない。
しかし、フレン家の新たな女主人は寛大にも使い込んだ金を全額返済すれば罪には問わないと言ってくれた。しかも支払いが出来ないのなら張本人である妹を借金のカタに身売りさせることで終いにするとも。
主家に仇成す家臣に対してなんという好条件を出してくださるのだろうと姉はそれを聞いた時にそこにいないシスティーナに対して感謝を捧げた。罪を公にしないどころか罪を犯した張本人に片をつけさせるなんて、姉にとってシスティーナはまさに女神にも等しい存在であった。
しかしながらそんな女神の有難い申し出に水を差したのが現当主である父だった。
父は借金のカタに平民へと嫁がされる娘を不憫に思ったのか借金をしてでもゼット男爵家の資産から返済するなどというとち狂ったことを言い出したのだ。
冗談じゃない。ただでさえ裕福とは言い難いゼット男爵家が借金などすれば一家の生活に影響を及ぼすだけではすまなくなる。領主が借金を追えば必然的に領民に増税を強いることになってしまう。豊かな生活とは言い難い領民の暮らしに更に負担をかけるとなれば反乱を招く恐れが出てくる。
そもそもこの父がもっと早くにメグをどこかに嫁に出していればこんなことにはならなかった。父の落ち度によることなのに自分達や領民が迷惑を被るのは納得できない。カッとなった姉は近くに置いてあった燭台で父を殴り倒してしまった。
倒れた父めがけて再び燭台を振りかざそうとしたその時、騒ぎを聞きつけた執事が止めてくれて我に返った。唖然とする姉に向かって執事はなんと「お嬢様、旦那様は転倒して頭を打ったことに致しましょう」と罪を隠蔽するよう進言したのだ。
それを聞いた姉はすぐさま凶器となった燭台を処分するよう命じ、父が転倒して家具の角に頭をぶつけたという不慮の事故に見せるよう隠蔽した。幸いにして執事以外目撃者はおらず、呼びつけた医者は金さえ握らせれば余計なことは言わず“転んで頭を打った”と診断してくれた。
これ幸いに姉は父が当主としての仕事が困難という理由で家督を奪い、昏睡状態にある父を病院へと入院させた。晴れて当主となった姉が初めにしたことはシスティーナと面会し、妹がしたことへの謝罪と妹の身売りをお願いすること。
これで家族と使用人、そして領民が守れると安堵した。
犯罪者となった妹も、それを庇う父は最早家族ではない。ゼット男爵家に仇成す敵だ。
敵はこの家にはいらない。
あの時執事が助言してくれたおかげで事が上手く運んだ。どうして主人を裏切ってまで味方になってくれたのか。
その理由は父のとある悪癖にあった。
「ちょっとメグ! 何処に行っていたのよ!? もうすぐ先方がお見えになるから早く支度なさい!」
「え!? ちょっと待ってよ、来るのは明日だって言っていたじゃない!」
「明日は急なご予定が入ったらしく急遽予定を今日に変更されたのよ。いいから早く着替えなさい!」
「はあ!? 何でそんな大切なこと勝手に決めるのよ!」
「お黙り! 泥棒風情が文句を言う権利なんてないわよ! こっちは一日でも早く出て行って欲しいのだから丁度いいの。ぐだぐだ言っていないでさっさとおし!」
「泥棒ですって!? ひどい! 実の妹に向かって何てひどいことを言うのよお姉様!」
「他人様の財産を勝手に使った泥棒女を妹なんて思いたくもないわ! お前と血の繋がりがあること自体がおぞましい! いいからさっさと支度なさい!」
メグを出迎えたのは彼女の姉だ。娘しかいないゼット男爵家では長子である彼女が跡継ぎとして婿を迎えて家を継いでいる。姉は以前から幼馴染ばかりを追いかけて年頃になっても縁談ひとつ受ける気の無いメグを疎んじていた。いつまでも小姑がいるというのは体裁が悪い。あの家は娘にまともな縁談ひとつ与えられないのかと社交界で馬鹿にされてしまうからだ。
実際、姉は社交に出る度メグのことを引き合いに出され嘲笑されることにウンザリしていた。父に抗議しても「そのうちレイモンドが愛人として迎えてくれるから」の一点張り。もう十年以上関係が幼馴染から進展していないのに、今更そんな男女の仲になれる可能性など皆無に等しいとメグも父も理解していないことが信じられない。
そうこうしているうちにメグがフレン家の財産を横領していることが発覚し、それを聞いた姉は発狂しそうになった。ただでさえこの妹のせいで他家の夫人から嘲笑されるという屈辱を受けているのに、今度は妹の連座で命まで奪われるかもしれないなど耐えられない。
しかし、フレン家の新たな女主人は寛大にも使い込んだ金を全額返済すれば罪には問わないと言ってくれた。しかも支払いが出来ないのなら張本人である妹を借金のカタに身売りさせることで終いにするとも。
主家に仇成す家臣に対してなんという好条件を出してくださるのだろうと姉はそれを聞いた時にそこにいないシスティーナに対して感謝を捧げた。罪を公にしないどころか罪を犯した張本人に片をつけさせるなんて、姉にとってシスティーナはまさに女神にも等しい存在であった。
しかしながらそんな女神の有難い申し出に水を差したのが現当主である父だった。
父は借金のカタに平民へと嫁がされる娘を不憫に思ったのか借金をしてでもゼット男爵家の資産から返済するなどというとち狂ったことを言い出したのだ。
冗談じゃない。ただでさえ裕福とは言い難いゼット男爵家が借金などすれば一家の生活に影響を及ぼすだけではすまなくなる。領主が借金を追えば必然的に領民に増税を強いることになってしまう。豊かな生活とは言い難い領民の暮らしに更に負担をかけるとなれば反乱を招く恐れが出てくる。
そもそもこの父がもっと早くにメグをどこかに嫁に出していればこんなことにはならなかった。父の落ち度によることなのに自分達や領民が迷惑を被るのは納得できない。カッとなった姉は近くに置いてあった燭台で父を殴り倒してしまった。
倒れた父めがけて再び燭台を振りかざそうとしたその時、騒ぎを聞きつけた執事が止めてくれて我に返った。唖然とする姉に向かって執事はなんと「お嬢様、旦那様は転倒して頭を打ったことに致しましょう」と罪を隠蔽するよう進言したのだ。
それを聞いた姉はすぐさま凶器となった燭台を処分するよう命じ、父が転倒して家具の角に頭をぶつけたという不慮の事故に見せるよう隠蔽した。幸いにして執事以外目撃者はおらず、呼びつけた医者は金さえ握らせれば余計なことは言わず“転んで頭を打った”と診断してくれた。
これ幸いに姉は父が当主としての仕事が困難という理由で家督を奪い、昏睡状態にある父を病院へと入院させた。晴れて当主となった姉が初めにしたことはシスティーナと面会し、妹がしたことへの謝罪と妹の身売りをお願いすること。
これで家族と使用人、そして領民が守れると安堵した。
犯罪者となった妹も、それを庇う父は最早家族ではない。ゼット男爵家に仇成す敵だ。
敵はこの家にはいらない。
あの時執事が助言してくれたおかげで事が上手く運んだ。どうして主人を裏切ってまで味方になってくれたのか。
その理由は父のとある悪癖にあった。
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