どうして許されると思ったの?

わらびもち

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不要物の片づけ

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 これは嫡子である姉も執事から聞かされるまで知らなかったのだが、父には使用人の給金を出し渋る悪癖があったようだ。しかも執事のように転職が難しい年嵩の使用人に対してのみ行っていたのだというから余計に質が悪い。多少の給金未払いがあっても他に勤めるという選択肢がない彼等にならば構わないだろうと。

 それを聞いて恥ずかしくなった。使用人に給金を支払うという当たり前のことを渋る父の器の小ささに。対価も払わずして尽くしてもらおうなどというみみっちい考えをしている者に誰が忠義を持つというのか。こういう図々しい部分がメグに受け継がれたのだなと情けなくなった。

 家督が移ったら心なしか古参の使用人達の表情が明るくなった気がする。
 それだけ父に辟易していたのだろう。労働者に対価を支払うという当然の義務すら果たさず威張っていたなどまったく恥ずかしい。

 父親を手にかけてしまったことに罪悪感は覚えなかった。
 家を守る次代の当主として、家に害を及ぼす敵を払いのけただけだ。
 当主として時には冷酷な判断も必要だと教えてくれたのは父なのだし、その教えに従って家に仇成す者を排除しただけ。

 もう一人のを排除すればゼット家は安泰だ。
 本人は拒否しているが貴族の子女の結婚は当主に決定権がある。だからいくらメグが結婚を嫌がろうとも関係ない。あんな犯罪者を引き取ってくれる先方には感謝せねば。

 先方が結婚の予定を早めたいと言うのならそれに否やはない。
 こちらとしてもあの泥棒を一日でも早く家から追い出したいから丁度いい。

 強制的に嫁がされると知った泥棒好きな男性レイモンドに助けを求める為にわざわざ鉱山まで足を運んだようだが、どうして助けてもらえると思うのか理解しがたい。二度も妻に逃げられる原因となった挙句、彼の家の財産を横領しておいてぬけぬけと助けてもらおうと考える神経が分からない。厚顔無恥を越えて頭がイカレているとしか思えない所業だ。

 姉の目には妹が人の皮を被った化け物に見えた。
 好きな男性にここまでの非道な所業を繰り返しておいて、その人の愛人にしてもらえると思うこと自体が有り得ない。まさか妹がここまで人の心が無い化け物だとは思わなかった。

 こんな化け物を引き取ってくれる相手には感謝しかない。
 お相手は平民で、結婚後妹は生涯馬車馬のように働かされると聞いたが何も問題ない。
 外見も内面も美しくない妹を娶らせてしまいこちらの方が申し訳ないくらいだ。

 妹の支度が済んだあたりで縁談相手の馬車が門前に到着した。
 降りてきたのは年若い男性が一人。聞いていたお相手の年齢よりも大分下なのを不思議に思っていたら、なんと彼は本人ではなく使用人だという。

 夫となる男性が自ら迎えに来ないばかりか、使用人に花嫁の迎えを頼むというのは不作法に値する行為だ。
 だが、不思議とそんな不作法にも怒りは感じない。とにかくこの犯罪者を引き取ってさえくれたら有難いと思ってしまう。

「え!? お姉様、この方が縁談相手なの?」

 先方の使用人と名乗った若い男性はそれなりに見目が好かった。
 この妹は“使用人”という言葉を聞いていなかったのか、目の前の見目麗しい若い男性が自分の夫になる人物だと都合よく解釈した。もちろんそれは否定したが、その男性に釘付けになっている妹には届かない。

 まあ、別にいいか。嫌がって暴れることを想定して無理やり馬車に乗せるために力の強い使用人を控えさせておいたがこの分だとその必要もなさそうだ。

 そんな姉の予想は的中し、メグはうっとりとした表情で若く美しい男性使用人にエスコートされ馬車へと乗車した。使用人が「持って行く荷物はございますか?」と尋ねたので首を横に振る。犯罪者にゼット家の物は着ているドレス以外何一つ持って行って欲しくない。

 メグを乗せた馬車が段々と遠ざかり、見えなくなった辺りで姉は執事にこう告げた。

「今夜は祝杯をあげましょう。とっておきのお酒を邸中の皆に振る舞ってあげて」

 邸のの片づけが済んで気分がいい。

 清々しい気持ちで姉は邸内へと戻っていった。
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