どうして許されると思ったの?

わらびもち

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ミスティ子爵夫人の奇行

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 この晩餐会より前、茶会のすぐ後辺りに子爵より改めて直接の謝罪があった。
 当事者である夫人は来ていなかったが、当主からの正式な謝罪ということで受けることにしたのだが、その際、驚くことに子爵はシスティーナの好物であるブランデーケーキを贈り物として持参してきたのだ。

 詫びの品として毛織物や嗜好品などの高価なものを、そして手土産といった形でさりげなくシスティーナの好物を用意した。知る者は少ないシスティーナの好物を。

 華美な菓子で茶会を彩ることが主流のこの国ではブランデーケーキは見た目が地味なのでそういった場でお目にかかることはない。なので、システィーナがそれを好んで食す姿を見る者は少なく、ましてや好物がそれだと知る者はごくわずか。

 偶然かと思ったが、なんと子爵は「お好きだと伺ったので」と言ってきた。
 知る者の少ない情報を知り得る手腕に素直に驚いた。

 会話を重ねるうちに、子爵がベロア家との繋がりを持ちたいと考えていることが分かった。今までもそういった者を何人もあしらってきたシスティーナだが、彼の垣間見える有能さを思うとこのまま関係を絶つのは惜しい気がしてならない。

 行動が的確で早く、情報収集能力も長けている。何より自身の商売を繁盛させているという実績もある。繋がっておいて損はないどころか有益な人物であることが伺えた。

 ひとつだけ欠点をあげるとすればそれは彼の妻の存在だ。
 貴族社会の常識も分かっておらず、礼儀知らずでもある。おまけに既婚者でありながら他人の夫に思いを寄せる非常識で倫理観が欠如した、およそお近づきになりたくない人物だ。おまけに人を唆して横領をさせるという、とんでもない一面もある。

 今のところ彼の有能さよりも、彼の妻の危険性の方に天秤が傾く。
 しかし、それでもこのまま子爵を退けるのは惜しいと考えてならない。

 とりあえず、試しに少しだけ交流を図ってみるかと思い晩餐会に招待することにした。
 そこで夫人がどういう態度に出るかを観察し、それで判断しようと考えた。
 家の為、夫の為に良妻として振る舞うのかどうかを。

 そして、好きな相手への恋慕を妻であるシスティーナに悟られないようにするのか。
 それとも見当違いな牽制の言動に出るのか。茶会の時のように嫌がらせをするのか。

 出来れば過去に夫の幼馴染達を唆した件についてなんらかの形で償いはさせたい。

 それも夫人の出方次第だと迎えた当日、まさか夫人がここまで非常識で変人な行動に出るとは流石のシスティーナも想像すらしていなかった。しかも、彼女は結局一度も茶会での非礼をシスティーナに詫びていない。夫に謝罪させて済ます礼儀の無さに呆れてしまう。

(子爵はどうしてこのような女性を妻に迎えたのかしらね……)

 呆れた様子を出さぬよう、表向きは優雅に食事と会話を進めるシスティーナ。
 自分を凝視してくる変な女に戸惑いを隠せないレイモンド。
 妻の奇行に頭の血管が切れそうなほど怒りに満ちたミスティ子爵。
 そして、他人の夫に一点集中するミスティ子爵夫人。

 食卓は混沌と化していた。

「食事の最中に失礼します。少々、中座させていただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ……もちろんです」

「ありがとうございます。エルザ、行くぞ」

 中座を告げた子爵は素早い速さで夫人を立たせ、腕を掴み無理やりその場から連れ出した。退出させられそうになった夫人は慌てた声で「え!? 何? あなた、ちょっと……!」と騒ぐも子爵は耳を貸すことなく速足で食堂から出て行った。

「…………ああ、驚いた。夫人のあの行動はいったい何だ? 気味が悪い……」

 子爵夫人がいなくなり、レイモンドは緊張の糸が切れたように脱力した。
 好いた相手に好感どころか嫌悪感を持たせるなんて、夫人は恋の駆け引きどころか人間関係の構築も下手な人である。

「これはあくまでわたくしの考えなのですが、ミスティ子爵夫人は旦那様にただならぬ想いを抱いているのかと……」

「ただならぬ想い? 何だ、それは?」

「おそらくは……恋情、だと思われます」

 システィーナの返答にレイモンドは不快そうに顔を引きつらせて「恋情!?」と声を荒げた。
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