どうして許されると思ったの?

わらびもち

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訪れた先は

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 流石に本人の部屋の前で本人を悪く言うのはよろしくない。老齢の侍女に連れられ、少し離れた場所まで歩く。するとその侍女は再び口を開いた。

「奥様はね、出自はお世辞にも良い家柄とは言えないけど、見た目はすこぶるいいでしょう? 若き日の旦那様はそんな奥様を見初め、ご両親や親戚の反対を押し切って結婚したの」

 それは元侍女長も知っていることだが、そんな事情を目の前の彼女が知るわけもないので当主夫妻の馴れ初めを詳しく説明しだした。
 
 この邸における元侍女長の認識は『フレン家から紹介された侍女』のみ。エルザの子飼いだと知る者は一人もいない。

「馴れ初めだけを聞けばまるで恋愛物語のようにロマンチックよね。でも、現実は物語のように上手くいかないわ。他家の夫人が当たり前のように出来ることを奥様はちっとも出来やしないの。家政も、社交も。そもそも貴族としての常識が備わっていないのよ、あの方は。先程も言ったように、他家……しかもフレン家の奥方から紹介を受けた侍女をクビにするような真似なんて常識があればしようとは思わない。そういったことを知らない、知ろうともしない方だから旦那様にとうとう愛想をつかされてしまったのだわ。今までも何度か離婚の危機はあったけど、何だかんだと旦那様は許していたから。でも、今回は無理ね。なんたってあのフレン伯爵夫人に無礼を働いたのだから」

 その名を聞いて一瞬ドキッとした。
 元侍女長の中ではもうすっかりシスティーナが恐怖の対象となっている。

「フレン伯爵夫人はベロア家のご令嬢でしょう? ベロア家に盾突くなんて正気とは思えないわ……。奥様だけでなく旦那様や御子様達にまで累が及ぶかもしれないということを考えられないのだもの。流石の旦那様も愛想がつきるというものよ」

「そ、そんなにベロア家は恐ろしいのですか……?」

 ベロア家のお嬢様であるシスティーナの恐ろしさは身をもって分かっているはずなのだが、前の前の侍女が身震いする様に自分の考えはまだ甘いのではないかと思い始める。

「あら、貴女知らないの? ベロア家に盾突いた者は関係者も含めていつの間にか消されてしまうらしいわよ。家も、人も、まるで最初からいなかったようにね……」

 おお、恐ろしいと震える老齢の侍女よりも遥かに元侍女長の方が震えていた。
 顔色も青いを通り越して白くなっている。

──不味い、不味い……。もしエルザ様がフレン伯爵夫人に前の奥方達と同じ目に遭わせようとしたら……私まで消されるんじゃ……。

「あら……貴女、大丈夫? 顔色がかなり悪いわよ……」

「あ、は……はい、ちょっと気分が優れないので失礼します……」

 ガクガクと震える足でその場から離れた。
 頭の中にまるで警鐘が鳴っているみたいで落ち着かない。
 居ても立っても居られず、元侍女長はふらつく足である場所へと向かうのだった。


「あら、久しぶりね」

「はい……ご無沙汰しております」

 元侍女長が訪れた先は元いた場所であるフレン家だった。
 ダメもとでシスティーナへお目通りを頼むと、なんとあっさりと承諾が下り中へと通される。

 案内された先は陽当たりのよいサロン。システィーナはここを好んでおり、午後のお茶を嗜む際はよく利用している。

 相変わらず優雅で美しく、そして堂々とした自信に満ち溢れているフレン家の女主人は元侍女長に少しだけ目を向け、すぐに視線を手元の紅茶へと戻した。
 
 優雅な仕草でカップを口に運び紅茶を一口飲んだ後、柔らかくも鋭さを含んだ声で問いかける。

「貴女がわざわざわたくしを訪ねてきたということは……何かを伝えたいことがあるのね」

 相変わらず鋭い彼女はすぐに元侍女長の心を見透かしたように尋ねた。
 元侍女長は一瞬ビクリと身を震わせ、緊張しながら答える。

「はい……さようでございます」

 システィーナは無言で頷き、再び紅茶のカップを持ち上げる。

「それは、ミスティ子爵夫人関係かしら?」

「は、はい……その通りです。どうしてもお伝えしなければならないことがございまして……」

 口に出すことが憚られるような内容に言葉が詰まる。
 その様子にシスティーナは「続けて」と淡々と促した。
 深呼吸を一つした元侍女長は決心したように口を開く。
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