どうして許されると思ったの?

わらびもち

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もうやめて、もう無理

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「そのお茶は前のフレン伯爵夫人も、その前の夫人も大層お気に入りでしてね。それ目当てでよくを訪れたものですよ」

「前の奥方達が……? まあ……ミスティ子爵夫人は前の奥方達と深い親交がお有りだったのですね」

「ええ、それはもう……。彼女達は私の前でご夫君にも見せないお顔を見せてくださいました。貴女もそうなってくれればいいのですけれど……」

 どことなく気味の悪い口ぶりに鳥肌が立つ。
 しかし、システィーナはそんなことはおくびにも出さず、貼り付けたような笑みの仮面も崩さない。

「あらあら……仲がよろしくて結構ですこと」

 前の奥方とどれだけ仲がよかったとしてもシスティーナには関係のない話だ。
 前任者がそうだったからといって、後任者までそうである必要性はどこにもない。

 そんな動じないシスティーナに夫人は面白くなさそうな顔で話題を変える。

「ところで……ご夫君は元気でしょうか?」

「ええ、おかげさまで」

「そうですか。私の事は何か言っていましたでしょうか?」

「夫人のことを? いえ、わたくしは何も聞いていませんわ。何かございましたか?」

 何を言う気かは知らないが、明らかに何らかの揺さぶりをかけていることは丸わかりだ。その『こんなことを奥様に言うのは忍びないのですが』と言わんばかりの表情に吹き出してしまいそう。

「実は、先日とあるパーティーでご一緒させていただきまして……。とても愉しいひと時を過ごさせていただきましたわ」

「……ッ!! そうなのですね……」

 拒絶された思い出をよくもまあそんな風に改竄できるものだとシスティーナは思わず笑いだしそうになるのを必死にこらえた。その低くしなやかな声や熱っぽく潤んだ瞳がいかにも何かありました(・)と匂わせる。実際は色っぽいことなど何もなかったというのに。

「伯爵様は穏やかに見えて……意外と情熱的なのですね」

「………………ッ!!?」

 もう無理、とシスティーナは震えながら俯いた。
 表情筋はもうプルプルと揺れ、必死に笑いをこらえていると分かってしまうような顔をしている。それを見られないように目線を極力下へと向ける。

 それを嫉妬や困惑だと勘違いしたエルザは勝ち誇ったように笑った。

「余韻を楽しむことなく別れてしまったことが残念でならなくて……。ああ、すみません。こちらの話です」

 何の余韻だよ、と思うとますます笑いが込み上げてしまう。
 冷たく拒絶されたことをよくもまあ……情事があったかのように匂わせることができたものだと感心する。

「あのような激情に駆られたお姿は……きっと妻の貴女にも見せたことはないのでしょうね」

 もうやめて、もう無理。はしたなくも大笑いしたくなる衝動が抑えきれない。
 システィーナは「それはそうよ、わたくしはレイモンド様に拒絶されていないもの」と言いたくなるのを必死にこらえていた。もう全身がプルプルと震えて仕方ない。

 それを大いに勘違いしたエルザの口角がますます上がっていく。
 二人の様子を静観している侍女は「ここまで笑いをこらえていらっしゃる奥様は初めて見た」とばかりに驚いた表情を見せる。それにますます勘違いに拍車をかけたエルザの妄想は止まらなかった。
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