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正気の沙汰じゃない
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「な、な……なによ、これ!?」
その場にいる者達は皆騎士に剣を突きつけられ、恐怖のあまり床にへたり込んでしまった。隊長格の騎士が場の様子をぐるりと見渡し、システィーナの前に恭しく跪く。
「奥様、お怪我などございませんか」
「ええ、問題なくてよ。迅速な行動に感謝するわ」
「勿体ないお言葉にございます。この者達はいかがなさいますか?」
「全員捕縛のうえフレン邸の地下牢へ連行してちょうだい。……ああ、ミスティ子爵夫人だけは別の馬車に乗せておいて」
「はっ! 仰せのままに!」
システィーナの命令を受けた騎士たちが、次々に部屋にいる者たちを縄で縛っていく。
抵抗しようにも騎士の力に勝てるはずもない。皆、困惑した表情を浮かべたまま成す術もなく捕縛されていった。
「な、なんなのよ……。どうしてこんなにたくさんの騎士が……? なんで……どういうことよ!?」
何が起きているのか分からず、エルザは顔を青ざめさせただ喚き散らすしかなかった。
どうしてこんな大勢の騎士がいきなり雪崩れ込んできたのか、彼等は今までいったいどこに潜んでいたのか、そして何故“茶会”にここまでの武力を投入させようとしたのか。さっぱり分からない、システィーナの考えというものが。
「今宵で決着がつく予感がしていたからです。長きに渡りフレン家とレイモンド様を苦しめていた元凶を排除できる予感が……。わたくしはこの機会を逃すまいと全力で挑むことを最初から決めておりましたの。ここまで言えばもうお分かりかと思いますが……貴女たちは“終わり”です。泣こうが、喚こうが、落とし前をつけていただきますよ」
システィーナの冷酷で絶対的な言葉はまるで審判の宣告のように彼女を絶望へと突き落とした。
現実を否定したくても、脳裏にはっきりと響く。もう終わりだ、と。
「最期ですし、餞別にもう少し詳しく教えて差し上げましょうか。貴女は“お茶会”の時間を昼ではなく夜に、そして自宅ではなくこんな密やかな場所を指定したでしょう? もうその時点で『罠ですよ』と言っているも同然です。罠だと分かっているのに無防備にも丸腰で挑むのは愚か者だけ。だからこの館の周辺に当家の騎士を配置しておりましたの。茶会の場に連れていけるのは侍女だけですので、護身用にと武器を所持させました。女性でも簡単に扱える小型の銃をね。小型とはいえ発砲音はなかなかのもの、外にいる騎士達の耳にも届くほどの音量です。だから、騎士達にはこう命じましたの。『発砲音が聞こえたら一斉に部屋へ入ってきなさい』と。……分かります? 貴女たちがわたくしを害そうとしなければ侍女は銃を使うこともなかった。この事態を招いたのは……自分で自分を破滅へと追い込んだのは、紛れもなく貴女たちですよ」
これを聞いた瞬間、エルザの青ざめた頬を涙がとめどなく流れ落ちた。
まさか、“茶会”の場にこれほど度を超えた武力を投入してくるとは。こんなの正気の沙汰じゃない。
エルザはずっとシスティーナのことを好きな人の妻の座を横取りした憎い女とだけ思っていた。まさかこんな、エルザでは到底思いつかないほどの突き抜けた発想をするイカれた女だったとは知らなかった。
知っていれば……いや、途中でそのことに気づいていれば……敵対しようなんて絶対に思わなかった……。
腕に食い込む縄の痛みが遅すぎる後悔を引きずり出す。
どうして、こんな正気とは思えない頭の持ち主に盾突いてしまったのか……。
「わ……わたしは、これからどうなるの……?」
涙を流しながらエルザが問いかけると、システィーナは扇子を広げてつまらなそうに告げる。
「貴女は一まだミスティ子爵家の夫人という立場にありますので、これから御主人に貴女の身柄を引き取ってもらえるかを確認しに参ります」
「え……い、いや! まって……! 主人には言わないで!」
「……それに対してわたくしが『わかりました』と申し上げるとでも? ここまでしておいて、御主人には内緒というわけにはいかないのですよ。……さっさと連行して」
システィーナは冷たい声で騎士に命じる。
その瞬間、エルザの中で何かが崩れ、絶望とともに項垂れた。
「夜更けの訪問となるのは少々気が引けるわ。だけど、罪を犯したのはご自分の妻だもの、子爵には然るべきご対応を願わなくてはね」
口ではそう言うが、システィーナは少しも気にする様子もなく子爵邸に向かうよう指示を出した。
その場にいる者達は皆騎士に剣を突きつけられ、恐怖のあまり床にへたり込んでしまった。隊長格の騎士が場の様子をぐるりと見渡し、システィーナの前に恭しく跪く。
「奥様、お怪我などございませんか」
「ええ、問題なくてよ。迅速な行動に感謝するわ」
「勿体ないお言葉にございます。この者達はいかがなさいますか?」
「全員捕縛のうえフレン邸の地下牢へ連行してちょうだい。……ああ、ミスティ子爵夫人だけは別の馬車に乗せておいて」
「はっ! 仰せのままに!」
システィーナの命令を受けた騎士たちが、次々に部屋にいる者たちを縄で縛っていく。
抵抗しようにも騎士の力に勝てるはずもない。皆、困惑した表情を浮かべたまま成す術もなく捕縛されていった。
「な、なんなのよ……。どうしてこんなにたくさんの騎士が……? なんで……どういうことよ!?」
何が起きているのか分からず、エルザは顔を青ざめさせただ喚き散らすしかなかった。
どうしてこんな大勢の騎士がいきなり雪崩れ込んできたのか、彼等は今までいったいどこに潜んでいたのか、そして何故“茶会”にここまでの武力を投入させようとしたのか。さっぱり分からない、システィーナの考えというものが。
「今宵で決着がつく予感がしていたからです。長きに渡りフレン家とレイモンド様を苦しめていた元凶を排除できる予感が……。わたくしはこの機会を逃すまいと全力で挑むことを最初から決めておりましたの。ここまで言えばもうお分かりかと思いますが……貴女たちは“終わり”です。泣こうが、喚こうが、落とし前をつけていただきますよ」
システィーナの冷酷で絶対的な言葉はまるで審判の宣告のように彼女を絶望へと突き落とした。
現実を否定したくても、脳裏にはっきりと響く。もう終わりだ、と。
「最期ですし、餞別にもう少し詳しく教えて差し上げましょうか。貴女は“お茶会”の時間を昼ではなく夜に、そして自宅ではなくこんな密やかな場所を指定したでしょう? もうその時点で『罠ですよ』と言っているも同然です。罠だと分かっているのに無防備にも丸腰で挑むのは愚か者だけ。だからこの館の周辺に当家の騎士を配置しておりましたの。茶会の場に連れていけるのは侍女だけですので、護身用にと武器を所持させました。女性でも簡単に扱える小型の銃をね。小型とはいえ発砲音はなかなかのもの、外にいる騎士達の耳にも届くほどの音量です。だから、騎士達にはこう命じましたの。『発砲音が聞こえたら一斉に部屋へ入ってきなさい』と。……分かります? 貴女たちがわたくしを害そうとしなければ侍女は銃を使うこともなかった。この事態を招いたのは……自分で自分を破滅へと追い込んだのは、紛れもなく貴女たちですよ」
これを聞いた瞬間、エルザの青ざめた頬を涙がとめどなく流れ落ちた。
まさか、“茶会”の場にこれほど度を超えた武力を投入してくるとは。こんなの正気の沙汰じゃない。
エルザはずっとシスティーナのことを好きな人の妻の座を横取りした憎い女とだけ思っていた。まさかこんな、エルザでは到底思いつかないほどの突き抜けた発想をするイカれた女だったとは知らなかった。
知っていれば……いや、途中でそのことに気づいていれば……敵対しようなんて絶対に思わなかった……。
腕に食い込む縄の痛みが遅すぎる後悔を引きずり出す。
どうして、こんな正気とは思えない頭の持ち主に盾突いてしまったのか……。
「わ……わたしは、これからどうなるの……?」
涙を流しながらエルザが問いかけると、システィーナは扇子を広げてつまらなそうに告げる。
「貴女は一まだミスティ子爵家の夫人という立場にありますので、これから御主人に貴女の身柄を引き取ってもらえるかを確認しに参ります」
「え……い、いや! まって……! 主人には言わないで!」
「……それに対してわたくしが『わかりました』と申し上げるとでも? ここまでしておいて、御主人には内緒というわけにはいかないのですよ。……さっさと連行して」
システィーナは冷たい声で騎士に命じる。
その瞬間、エルザの中で何かが崩れ、絶望とともに項垂れた。
「夜更けの訪問となるのは少々気が引けるわ。だけど、罪を犯したのはご自分の妻だもの、子爵には然るべきご対応を願わなくてはね」
口ではそう言うが、システィーナは少しも気にする様子もなく子爵邸に向かうよう指示を出した。
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