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さあ、監視生活の始まりだ
「旦那様、失礼を承知で申し上げますが……気持ち悪いです」
「なっ……なんだと!? 無礼な!」
「いや、だって……発想がもう下衆極まりないというか、男の私から見ても軽蔑します。奥様のことをあまりにも馬鹿にし過ぎですよ……」
相手の気持ちを一切顧みず、私利私欲のためだけに動く姿に、吐き気すら覚える。
自分が仕えていた主人がここまで卑しい人間だったとは——情けなくて仕方がない。
「仕方ないだろう! セシリアが、キャサリンと接触しないことを婚姻継続の条件に掲げていたのだから、接触すれば離婚を突きつけられることになる! それでは困るんだ!」
「別に、キャサリン様と接触しなければいい話では? それとも接触したいのですか?」
「いや……そういうわけじゃない。だが、またキャサリンが世を儚んだらと思うと……」
「それはもう放っておきましょうよ。たとえ本気でキャサリン様が命を絶ったとしても、旦那様のせいではないのですから」
「駄目だ! そんなことになれば寝覚めが悪い!」
「……あのですね、旦那様がそうやって構うからキャサリン様もつけあがってしまうのです。お二人の関係はもう”赤の他人”ですよ? 旦那様がキャサリン様からの”会いたい”という願いを叶える必要がどこにあります?」
「それは……でも……」
煮え切らない態度のエリオットに執事は心底呆れた。
元婚約者と接触さえしなければ全て上手くいくはずなのに、何故そうしないのかが不思議で仕方ない。
最適な方法を選ばず、最悪な方法を選ぶ主人の頭が本気で心配になってくる。
「今のままでは最悪の結果を招きかねませんよ? 旦那様はキャサリン様の気持ちは慮るくせに、奥様の御気持ちは蔑ろにする。キャサリン様の願いは聞くくせに、奥様の願いは一切聞かない。こんな状況では奥様と結婚なさっている意味がありません。旦那様は離婚は嫌なのですよね? でしたらキャサリン様などどうでもいいですから、奥様を尊重すべきかと」
執事の指摘に、エリオットはかなり驚いていた。
どうやら自分がそんなふうにしていたなんて、まったく気づいていなかったらしい。
その反応に執事は「正気か?」という態度を隠しもしなかった。
なんなら口に出していたかもしれない。エリオットが気まずそうに目を逸らしたから。
「言われてみて、ようやく気づいた。――僕は、そんなことをしていたのか」
「むしろ今まで気づかなかったことに驚きました……。旦那様は女性への接し方──いえ、人との接し方を学んでこなかったのですか?」
使用人の立場であるにもかかわらず、かなり失礼なことを口にしてしまったと思う。
だが、この主人は、言葉にされなければ理解できないようだ。
「それは流石に無礼だぞ! 僕を何だと思っている!」
「奥様に恨みでもあるのかというくらい、ひっどい扱いをするひっどい夫だと思っております。そのくせ、未練のない元婚約者を大切にするという意味の分からない行動をとる方だとも思っております」
ハッキリと言われ、エリオットは真っ赤になって口ごもった。
指摘されて恥ずかしくなったのかもしれない。
「旦那様、あなたは奥様と離婚をしたいのですか? それともしたくないのですか?」
「そんなの、したくないに決まっているだろう!」
「それは何故です? 何故、奥様と離婚したくないのですか?」
「何故って……それは、離婚になれば伯父上の顔に泥を塗ることになる。そうなればもう伯父上は僕を支援しないとおっしゃった。それは……かなり不味い」
「え? それって不味いのですか……?」
「ああ、かなり不味い……。僕一人ではどう領地をまわしていけばいいのか分からない……」
この人、当主のくせして情けないことを言うな……と執事は呆れた顔でエリオットを見た。
妻に対する行いは、既に公爵閣下の顔に泥を塗りたくっているも同然のものだと思うが、それをこの人は気づいているのかいないのか……。
「……でしたら、なおさら奥様に対する態度を改めませんと。半年間キャサリン様に会わない、そして閨を共にしない。それだけで婚姻を継続してくださるのですから、守ればいいではありませんか?」
「それは……そうだが、それでキャサリンにもしものことがあったら……。それにセシリアは妻なのだし、寝室を共にしないというのも……」
「聞き分けのないことをおっしゃらないでください! とにかく、離婚をしたくないのであればその通りにしてください! 私どもも協力いたしますから」
「協力? 協力ってどうするつもりだ?」
「まず、旦那様がキャサリン様と接触できないように使用人全員で全力をもって阻止します。それと、旦那様が奥様と接触しないよう全力で阻止します。それこそ昼夜問わず、半年間ずっと」
「え……!? い、いや……それはちょっと……」
「つべこべ言わないでください! 旦那様が自主的に出来ないのですから、仕方ないでしょう? とにかく本日から実行に移しますのでそのつもりでいて下さい」
執事の有無を言わせぬ迫力に圧倒され、エリオットは何も言い返せなかった。
この日より、エリオットの終わりなき監視生活が始まったのである。
「なっ……なんだと!? 無礼な!」
「いや、だって……発想がもう下衆極まりないというか、男の私から見ても軽蔑します。奥様のことをあまりにも馬鹿にし過ぎですよ……」
相手の気持ちを一切顧みず、私利私欲のためだけに動く姿に、吐き気すら覚える。
自分が仕えていた主人がここまで卑しい人間だったとは——情けなくて仕方がない。
「仕方ないだろう! セシリアが、キャサリンと接触しないことを婚姻継続の条件に掲げていたのだから、接触すれば離婚を突きつけられることになる! それでは困るんだ!」
「別に、キャサリン様と接触しなければいい話では? それとも接触したいのですか?」
「いや……そういうわけじゃない。だが、またキャサリンが世を儚んだらと思うと……」
「それはもう放っておきましょうよ。たとえ本気でキャサリン様が命を絶ったとしても、旦那様のせいではないのですから」
「駄目だ! そんなことになれば寝覚めが悪い!」
「……あのですね、旦那様がそうやって構うからキャサリン様もつけあがってしまうのです。お二人の関係はもう”赤の他人”ですよ? 旦那様がキャサリン様からの”会いたい”という願いを叶える必要がどこにあります?」
「それは……でも……」
煮え切らない態度のエリオットに執事は心底呆れた。
元婚約者と接触さえしなければ全て上手くいくはずなのに、何故そうしないのかが不思議で仕方ない。
最適な方法を選ばず、最悪な方法を選ぶ主人の頭が本気で心配になってくる。
「今のままでは最悪の結果を招きかねませんよ? 旦那様はキャサリン様の気持ちは慮るくせに、奥様の御気持ちは蔑ろにする。キャサリン様の願いは聞くくせに、奥様の願いは一切聞かない。こんな状況では奥様と結婚なさっている意味がありません。旦那様は離婚は嫌なのですよね? でしたらキャサリン様などどうでもいいですから、奥様を尊重すべきかと」
執事の指摘に、エリオットはかなり驚いていた。
どうやら自分がそんなふうにしていたなんて、まったく気づいていなかったらしい。
その反応に執事は「正気か?」という態度を隠しもしなかった。
なんなら口に出していたかもしれない。エリオットが気まずそうに目を逸らしたから。
「言われてみて、ようやく気づいた。――僕は、そんなことをしていたのか」
「むしろ今まで気づかなかったことに驚きました……。旦那様は女性への接し方──いえ、人との接し方を学んでこなかったのですか?」
使用人の立場であるにもかかわらず、かなり失礼なことを口にしてしまったと思う。
だが、この主人は、言葉にされなければ理解できないようだ。
「それは流石に無礼だぞ! 僕を何だと思っている!」
「奥様に恨みでもあるのかというくらい、ひっどい扱いをするひっどい夫だと思っております。そのくせ、未練のない元婚約者を大切にするという意味の分からない行動をとる方だとも思っております」
ハッキリと言われ、エリオットは真っ赤になって口ごもった。
指摘されて恥ずかしくなったのかもしれない。
「旦那様、あなたは奥様と離婚をしたいのですか? それともしたくないのですか?」
「そんなの、したくないに決まっているだろう!」
「それは何故です? 何故、奥様と離婚したくないのですか?」
「何故って……それは、離婚になれば伯父上の顔に泥を塗ることになる。そうなればもう伯父上は僕を支援しないとおっしゃった。それは……かなり不味い」
「え? それって不味いのですか……?」
「ああ、かなり不味い……。僕一人ではどう領地をまわしていけばいいのか分からない……」
この人、当主のくせして情けないことを言うな……と執事は呆れた顔でエリオットを見た。
妻に対する行いは、既に公爵閣下の顔に泥を塗りたくっているも同然のものだと思うが、それをこの人は気づいているのかいないのか……。
「……でしたら、なおさら奥様に対する態度を改めませんと。半年間キャサリン様に会わない、そして閨を共にしない。それだけで婚姻を継続してくださるのですから、守ればいいではありませんか?」
「それは……そうだが、それでキャサリンにもしものことがあったら……。それにセシリアは妻なのだし、寝室を共にしないというのも……」
「聞き分けのないことをおっしゃらないでください! とにかく、離婚をしたくないのであればその通りにしてください! 私どもも協力いたしますから」
「協力? 協力ってどうするつもりだ?」
「まず、旦那様がキャサリン様と接触できないように使用人全員で全力をもって阻止します。それと、旦那様が奥様と接触しないよう全力で阻止します。それこそ昼夜問わず、半年間ずっと」
「え……!? い、いや……それはちょっと……」
「つべこべ言わないでください! 旦那様が自主的に出来ないのですから、仕方ないでしょう? とにかく本日から実行に移しますのでそのつもりでいて下さい」
執事の有無を言わせぬ迫力に圧倒され、エリオットは何も言い返せなかった。
この日より、エリオットの終わりなき監視生活が始まったのである。
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