初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

文字の大きさ
44 / 165

さあ、監視生活の始まりだ

しおりを挟む
「旦那様、失礼を承知で申し上げますが……気持ち悪いです」

「なっ……なんだと!? 無礼な!」

「いや、だって……発想がもう下衆極まりないというか、男の私から見ても軽蔑します。奥様のことをあまりにも馬鹿にし過ぎですよ……」

 相手の気持ちを一切顧みず、私利私欲のためだけに動く姿に、吐き気すら覚える。
 自分が仕えていた主人がここまで卑しい人間だったとは——情けなくて仕方がない。

「仕方ないだろう! セシリアが、キャサリンと接触しないことを婚姻継続の条件に掲げていたのだから、接触すれば離婚を突きつけられることになる! それでは困るんだ!」

「別に、キャサリン様と接触しなければいい話では? それとも接触したいのですか?」

「いや……そういうわけじゃない。だが、またキャサリンが世を儚んだらと思うと……」

「それはもう放っておきましょうよ。たとえ本気でキャサリン様が命を絶ったとしても、旦那様のせいではないのですから」

「駄目だ! そんなことになれば寝覚めが悪い!」

「……あのですね、旦那様がそうやって構うからキャサリン様もつけあがってしまうのです。お二人の関係はもう”赤の他人”ですよ? 旦那様がキャサリン様からの”会いたい”という願いを叶える必要がどこにあります?」

「それは……でも……」

 煮え切らない態度のエリオットに執事は心底呆れた。
 元婚約者と接触さえしなければ全て上手くいくはずなのに、何故そうしないのかが不思議で仕方ない。
 最適な方法を選ばず、最悪な方法を選ぶ主人の頭が本気で心配になってくる。

「今のままでは最悪の結果を招きかねませんよ? 旦那様はキャサリン様の気持ちは慮るくせに、奥様の御気持ちは蔑ろにする。キャサリン様の願いは聞くくせに、奥様の願いは一切聞かない。こんな状況では奥様と結婚なさっている意味がありません。旦那様は離婚は嫌なのですよね? でしたらキャサリン様などどうでもいいですから、奥様を尊重すべきかと」

 執事の指摘に、エリオットはかなり驚いていた。
 どうやら自分がそんなふうにしていたなんて、まったく気づいていなかったらしい。

 その反応に執事は「正気か?」という態度を隠しもしなかった。
 なんなら口に出していたかもしれない。エリオットが気まずそうに目を逸らしたから。

「言われてみて、ようやく気づいた。――僕は、そんなことをしていたのか」

「むしろ今まで気づかなかったことに驚きました……。旦那様は女性への接し方──いえ、人との接し方を学んでこなかったのですか?」

 使用人の立場であるにもかかわらず、かなり失礼なことを口にしてしまったと思う。
 だが、この主人は、言葉にされなければ理解できないようだ。

「それは流石に無礼だぞ! 僕を何だと思っている!」

「奥様に恨みでもあるのかというくらい、ひっどい扱いをするひっどい夫だと思っております。そのくせ、未練のない元婚約者を大切にするという意味の分からない行動をとる方だとも思っております」

 ハッキリと言われ、エリオットは真っ赤になって口ごもった。
 指摘されて恥ずかしくなったのかもしれない。

「旦那様、あなたは奥様と離婚をしたいのですか? それともしたくないのですか?」

「そんなの、したくないに決まっているだろう!」

「それは何故です? 何故、奥様と離婚したくないのですか?」

「何故って……それは、離婚になれば伯父上の顔に泥を塗ることになる。そうなればもう伯父上は僕を支援しないとおっしゃった。それは……かなり不味い」

「え? それって不味いのですか……?」

「ああ、かなり不味い……。僕一人ではどう領地をまわしていけばいいのか分からない……」

 この人、当主のくせして情けないことを言うな……と執事は呆れた顔でエリオットを見た。
 妻に対する行いは、既に公爵閣下の顔に泥を塗りたくっているも同然のものだと思うが、それをこの人は気づいているのかいないのか……。

「……でしたら、なおさら奥様に対する態度を改めませんと。半年間キャサリン様に会わない、そして閨を共にしない。それだけで婚姻を継続してくださるのですから、守ればいいではありませんか?」

「それは……そうだが、それでキャサリンにもしものことがあったら……。それにセシリアは妻なのだし、寝室を共にしないというのも……」

「聞き分けのないことをおっしゃらないでください! とにかく、離婚をしたくないのであればその通りにしてください! 私どもも協力いたしますから」

「協力? 協力ってどうするつもりだ?」

「まず、旦那様がキャサリン様と接触できないように使用人全員で全力をもって阻止します。それと、旦那様が奥様と接触しないよう全力で阻止します。それこそ昼夜問わず、半年間ずっと」

「え……!? い、いや……それはちょっと……」

「つべこべ言わないでください! 旦那様が自主的に出来ないのですから、仕方ないでしょう? とにかく本日から実行に移しますのでそのつもりでいて下さい」

 執事の有無を言わせぬ迫力に圧倒され、エリオットは何も言い返せなかった。

 この日より、エリオットの終わりなき監視生活が始まったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、恋愛3位ありがとうございます。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

【完】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 第18回恋愛小説大賞で、『奨励賞』をいただきましたっ! ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。 ※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)  

処理中です...