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廃嫡?(王太子視点)
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国王の唯一の子である私は必然的に王太子となった。
婚約者であり幼馴染でもあるケンリッジ公爵令嬢のビクトリアは華やかな美貌の持ち主で、私はそんな彼女に幼い頃から夢中だった。
私の唯一の愛、ビクトリア。
私達は生涯共にあると信じて疑わなかったのに、ケンリッジ公爵のせいで私達は引き裂かれてしまった。
ビクトリア以外と結ばれる気はなかったが、婚約者がいなければ私は王太子の座に就けない。
そのためマーリン公爵令嬢のブリジットがビクトリアの代わりに私の婚約者となった。
可憐な美少女だったが、ビクトリアのみに愛を捧げると決めた私は彼女に少しも惹かれなかった。
それどころかビクトリアとの違いを見つけては彼女に嫌悪を募らせた。
『ビクトリアならもっとこうしてくれた』
『ビクトリアならそんなこと言わない』
私は事あるごとにビクトリアと比べてはブリジットを責め立てた。
ブリジットとビクトリアは違う人間なのだから、発言も行動も異なって当たり前なのは分かっている。
だが私はビクトリアを失ったことが悲しくてたまらず、彼女と異なる言動をするブリジットが許せず責め続けた。
それに、婚約者ならば私の悲しみに寄り添うべきだ。
婚約者ならば私の好み、つまりはビクトリアのように振る舞うべきだ。
なのにどうしてブリジットはそうしないのだ?
そんなことを続けて1年、少しもビクトリアに似せた言動をとろうとしないブリジットはあろうことか私に反抗してきた。
ビクトリアと比べるな、と。
そんなにビクトリアがいいのなら帝国まで取り返しにいったらどうだ、と言われたが私だって出来るならそうしたい。でもそんなことしたら父上に叱られるから仕方なくお前で我慢してやってるんじゃないか。
そんな私の優しさも知らずに反抗的な態度をとるブリジットはあろうことかこの私を『嫌い』だと言う。
馬鹿な……! この私を嫌う令嬢なんているはずないのに……!
そう呆気にとられているうちにブリジットは王宮を出てしまい、二度と戻らなかった。
そのうち反省して頭を下げてくるだろうと思ったが、いくら待っても手紙一つ寄こさない。
なんて女だ……! 王太子である私に不敬な態度をとるなど許せん!
不敬罪で罰してやりたいが、父上は何故かブリジットではなく私を責める。
おまけに母上はビクトリアよりもブリジットの方が優秀だなんて言うのだ。
マーリン公爵夫妻も娘の失礼な態度を詫びるどころか我が王家を責めるとは、一家揃って礼儀知らずな連中ばかりだ。
やはり私にはビクトリアしかいない。彼女でなくては駄目だ。
ブリジットが言うように彼女を取り戻そう。
そう決意した私は帝国にいるビクトリア宛てに何通も恋文を送った。
恋文を3通ほど送り終えたある日、なんとビクトリアが帝国から戻ってきた!
私の愛が届いたのだと歓喜したのも束の間、玉座の間に呼び出された私は父上に叱責を受けた。
「帝国の皇太子の婚約者であるビクトリアに恋文を送るとは何事だ!! お前はこの国を潰したいのか!?」
父上の隣には母上もいて、こちらを冷たい目で見ている。
何だ……? どうして父上はこんなに怒っていて、母もこんなに冷たい目をするんだ?
愛する女性に恋文を送ることの何がそんなに悪いと言うのだ?
「馬鹿だと思ってはいたが……ここまでとは……。お前の愚行のせいで我が国は帝国に賠償金を支払わねばならないのだぞ!? なんのつもりで帝国皇太子の婚約者であるビクトリアに横恋慕するような真似をした!」
「横恋慕だなんて……ビクトリアは元々私の婚約者であり想い合う相手です!」
「何を訳のわからぬことをぬかしておる! それに想い合うだと!? お前を捨てて帝国に行った娘がお前を想っているわけがないだろう!!」
「父上……ですからそれはケンリッジ公爵の命令で……」
「はあ? 帝国へ行ったのはビクトリア本人の意思でもあるぞ? 我が国の王太子妃よりも帝国の皇太子妃の方が贅沢が出来るから、などというふざけた言い訳を直接この儂と王妃に伝えてから行きおったわ……」
なんだって……?
ビクトリアがそんなことを……?
「嘘をつかないでください! ビクトリアがそんなことを言うわけない!!」
「嘘なものか! お前が信じずとも構わぬがアレはお前が思うような女じゃない! 帝国から『ふしだらな女』と烙印を押されて帰されたような女だ! そんな取るに足らない存在に執着し、国を窮地に陥れおって……! ブリジット嬢の英断で事なきを得たが、下手をすれば帝国と戦が起こっていたかもしれなのだぞ!?」
なっ……ビクトリアがふしだらな女だって?
それにどうしてここでブリジットの名前が出てくるんだ?
「レイモンド、貴方が選ばなかったブリジット嬢が帝国に嫁入りすることで此度の件は事なきを得ました。あちらの皇太子殿下は初めからブリジット嬢を望んでいたのです。お前と違って女性を見る目がお有りのようね」
母上が私を蔑むように見据えながらそう言った。
皇太子は初めからブリジットを望んでいただと!?
ならケンリッジ公爵が余計なことをしなければ、ビクトリアは私の婚約者のままで、代わりにブリジットが帝国に行っていたということか?
ではケンリッジ公爵が全て悪いのではないか!
なのにどうして私が叱責を受けなければならない!?
「はあ……お前は自分の行動の何が悪かったか全く理解できていないようね? 他国の皇族の婚約者に恋文を送る行為がどれだけ罪深いことかを……」
ため息をつきながら母上は残念な者を見る目を向ける。
どうしてこんな目で見られなきゃならないんだ?
愛する人に恋文を送ることをどうして咎められる?
「例えばですが……お前と婚約していた頃のブリジット嬢が他の男性から恋文を貰い、あまつさえそれをお前に喜々として見せつけたなら……お前はどう思います?」
「はあ!? そんなの不貞ではないですか! 婚約者以外から恋文を貰って喜ぶだなんてふしだらな!」
「そうですか。つまりそれと全く同じ状況なのは理解できてます? ブリジット嬢とビクトリアを入れ替え、その“他の男性”がお前、というのが此度の状況ですよ」
「あっ………………」
そうか……確かに想像するだけで不快だ。
ブリジットのことは別に愛してもいないが、それでも婚約者に別の男が言い寄っている様を聞かされるのは不愉快に思う。
ビクトリアを取り戻したいという気持ちでいっぱいでそこまで考えていなかった。
「お前の馬鹿さ加減にはもううんざりだ! もうお前など廃嫡だ! こんな馬鹿を王太子にしようとしたことがそもそもの間違いだったわ!」
「は!? 私が廃嫡? 馬鹿な! 私は父上の唯一の子ですよ!?」
「はんっ! 実の子にこだわった結果がこれだぞ? 最初からお前になぞこだわらなければこんなことにはならかったわ!」
「そんな……私以外の誰が王太子の座に就くというのですか!?」
「それをお前が知る必要はない! お前は落ち着くまで部屋で謹慎してろ! おい、誰かレイモンドを部屋まで連れていけ!!」
父上から命令を受けた近衛兵が私を無理矢理その場から連れ出した。
廃嫡だなんてそんな……ちょっと帝国を怒らせたくらいでそこまでするなんて酷いじゃないか!
婚約者であり幼馴染でもあるケンリッジ公爵令嬢のビクトリアは華やかな美貌の持ち主で、私はそんな彼女に幼い頃から夢中だった。
私の唯一の愛、ビクトリア。
私達は生涯共にあると信じて疑わなかったのに、ケンリッジ公爵のせいで私達は引き裂かれてしまった。
ビクトリア以外と結ばれる気はなかったが、婚約者がいなければ私は王太子の座に就けない。
そのためマーリン公爵令嬢のブリジットがビクトリアの代わりに私の婚約者となった。
可憐な美少女だったが、ビクトリアのみに愛を捧げると決めた私は彼女に少しも惹かれなかった。
それどころかビクトリアとの違いを見つけては彼女に嫌悪を募らせた。
『ビクトリアならもっとこうしてくれた』
『ビクトリアならそんなこと言わない』
私は事あるごとにビクトリアと比べてはブリジットを責め立てた。
ブリジットとビクトリアは違う人間なのだから、発言も行動も異なって当たり前なのは分かっている。
だが私はビクトリアを失ったことが悲しくてたまらず、彼女と異なる言動をするブリジットが許せず責め続けた。
それに、婚約者ならば私の悲しみに寄り添うべきだ。
婚約者ならば私の好み、つまりはビクトリアのように振る舞うべきだ。
なのにどうしてブリジットはそうしないのだ?
そんなことを続けて1年、少しもビクトリアに似せた言動をとろうとしないブリジットはあろうことか私に反抗してきた。
ビクトリアと比べるな、と。
そんなにビクトリアがいいのなら帝国まで取り返しにいったらどうだ、と言われたが私だって出来るならそうしたい。でもそんなことしたら父上に叱られるから仕方なくお前で我慢してやってるんじゃないか。
そんな私の優しさも知らずに反抗的な態度をとるブリジットはあろうことかこの私を『嫌い』だと言う。
馬鹿な……! この私を嫌う令嬢なんているはずないのに……!
そう呆気にとられているうちにブリジットは王宮を出てしまい、二度と戻らなかった。
そのうち反省して頭を下げてくるだろうと思ったが、いくら待っても手紙一つ寄こさない。
なんて女だ……! 王太子である私に不敬な態度をとるなど許せん!
不敬罪で罰してやりたいが、父上は何故かブリジットではなく私を責める。
おまけに母上はビクトリアよりもブリジットの方が優秀だなんて言うのだ。
マーリン公爵夫妻も娘の失礼な態度を詫びるどころか我が王家を責めるとは、一家揃って礼儀知らずな連中ばかりだ。
やはり私にはビクトリアしかいない。彼女でなくては駄目だ。
ブリジットが言うように彼女を取り戻そう。
そう決意した私は帝国にいるビクトリア宛てに何通も恋文を送った。
恋文を3通ほど送り終えたある日、なんとビクトリアが帝国から戻ってきた!
私の愛が届いたのだと歓喜したのも束の間、玉座の間に呼び出された私は父上に叱責を受けた。
「帝国の皇太子の婚約者であるビクトリアに恋文を送るとは何事だ!! お前はこの国を潰したいのか!?」
父上の隣には母上もいて、こちらを冷たい目で見ている。
何だ……? どうして父上はこんなに怒っていて、母もこんなに冷たい目をするんだ?
愛する女性に恋文を送ることの何がそんなに悪いと言うのだ?
「馬鹿だと思ってはいたが……ここまでとは……。お前の愚行のせいで我が国は帝国に賠償金を支払わねばならないのだぞ!? なんのつもりで帝国皇太子の婚約者であるビクトリアに横恋慕するような真似をした!」
「横恋慕だなんて……ビクトリアは元々私の婚約者であり想い合う相手です!」
「何を訳のわからぬことをぬかしておる! それに想い合うだと!? お前を捨てて帝国に行った娘がお前を想っているわけがないだろう!!」
「父上……ですからそれはケンリッジ公爵の命令で……」
「はあ? 帝国へ行ったのはビクトリア本人の意思でもあるぞ? 我が国の王太子妃よりも帝国の皇太子妃の方が贅沢が出来るから、などというふざけた言い訳を直接この儂と王妃に伝えてから行きおったわ……」
なんだって……?
ビクトリアがそんなことを……?
「嘘をつかないでください! ビクトリアがそんなことを言うわけない!!」
「嘘なものか! お前が信じずとも構わぬがアレはお前が思うような女じゃない! 帝国から『ふしだらな女』と烙印を押されて帰されたような女だ! そんな取るに足らない存在に執着し、国を窮地に陥れおって……! ブリジット嬢の英断で事なきを得たが、下手をすれば帝国と戦が起こっていたかもしれなのだぞ!?」
なっ……ビクトリアがふしだらな女だって?
それにどうしてここでブリジットの名前が出てくるんだ?
「レイモンド、貴方が選ばなかったブリジット嬢が帝国に嫁入りすることで此度の件は事なきを得ました。あちらの皇太子殿下は初めからブリジット嬢を望んでいたのです。お前と違って女性を見る目がお有りのようね」
母上が私を蔑むように見据えながらそう言った。
皇太子は初めからブリジットを望んでいただと!?
ならケンリッジ公爵が余計なことをしなければ、ビクトリアは私の婚約者のままで、代わりにブリジットが帝国に行っていたということか?
ではケンリッジ公爵が全て悪いのではないか!
なのにどうして私が叱責を受けなければならない!?
「はあ……お前は自分の行動の何が悪かったか全く理解できていないようね? 他国の皇族の婚約者に恋文を送る行為がどれだけ罪深いことかを……」
ため息をつきながら母上は残念な者を見る目を向ける。
どうしてこんな目で見られなきゃならないんだ?
愛する人に恋文を送ることをどうして咎められる?
「例えばですが……お前と婚約していた頃のブリジット嬢が他の男性から恋文を貰い、あまつさえそれをお前に喜々として見せつけたなら……お前はどう思います?」
「はあ!? そんなの不貞ではないですか! 婚約者以外から恋文を貰って喜ぶだなんてふしだらな!」
「そうですか。つまりそれと全く同じ状況なのは理解できてます? ブリジット嬢とビクトリアを入れ替え、その“他の男性”がお前、というのが此度の状況ですよ」
「あっ………………」
そうか……確かに想像するだけで不快だ。
ブリジットのことは別に愛してもいないが、それでも婚約者に別の男が言い寄っている様を聞かされるのは不愉快に思う。
ビクトリアを取り戻したいという気持ちでいっぱいでそこまで考えていなかった。
「お前の馬鹿さ加減にはもううんざりだ! もうお前など廃嫡だ! こんな馬鹿を王太子にしようとしたことがそもそもの間違いだったわ!」
「は!? 私が廃嫡? 馬鹿な! 私は父上の唯一の子ですよ!?」
「はんっ! 実の子にこだわった結果がこれだぞ? 最初からお前になぞこだわらなければこんなことにはならかったわ!」
「そんな……私以外の誰が王太子の座に就くというのですか!?」
「それをお前が知る必要はない! お前は落ち着くまで部屋で謹慎してろ! おい、誰かレイモンドを部屋まで連れていけ!!」
父上から命令を受けた近衛兵が私を無理矢理その場から連れ出した。
廃嫡だなんてそんな……ちょっと帝国を怒らせたくらいでそこまでするなんて酷いじゃないか!
応援ありがとうございます!
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