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わらびもち

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そんな……ビクトリアが……(王太子視点)

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 父上から謹慎していろと言われたものの、最愛のビクトリアの顔が見たい。
 
 あの華やかな笑みに癒され、柔らかで指通りのよい髪を撫で、甘やかな香りを堪能したい。

 少し前に城を訪ねてくれたのに、父上が出入り禁止にしたものだから一度も会えていない。
 せっかく帰国してくれたというのに……。どうして父上はビクトリアのことをそんなに怒っているんだ?

 まあいい。ビクトリアが城に来れないならばこちらから会いにいくまでだ。
 こっそりと部屋を抜け出してケンリッジ公爵家へ向かおう。

 部屋の前には護衛いるので、私は窓からこっそり抜け出し徒歩でケンリッジ公爵邸に向かう。
 久しぶりに訪れた邸は以前よりも寂れて心なしか使用人の数も少なかった。
 それを不思議に思ったが、愛するビクトリアの姿が目に入った瞬間どうでもよくなってしまった。

「レイ? 来てくれたのね! 会いたかったわ!!」

 出迎えてくれたビクトリアが飛びつくように私に抱き着いた。
 
「ビクトリア! 私もずっと会いたかったよ……! もっと顔をよく見せておくれ……」

 愛しい顔をもっと見たいと思った私は彼女の頬に手を添え、優しくこちらを向かせる。
 彼女の華やかな美貌を想像していた私はここであることに気が付いた。

 ―――ん? あれ? ビクトリアはこんな顔だったか……?

 白く透き通るようなビクトリアの肌はくすみ、吹き出物が顔中に出来ていた。
 手触りもザラザラとしてどことなく脂っぽい。
 それに髪に触れると艶がなくパサパサしていて、指通りも悪い。

 以前の華やかな美貌は衰え、どことなく醜さを覚える容貌に思わず唖然としてしまった。

「ビ、ビクトリア…………」

「ん? なあに?」

 愛する女性相手に「綺麗じゃなくなったね?」とはさすがに聞けず、誤魔化すように彼女の体を抱きしめた。

 ん……? なんだか変な匂いがする……。
 
 ビクトリアはいつも花のようにいい香りがしたはずなのに、今はドブのような異臭がする。

「あの、ビクトリア……何かあった?」

 肌や髪が荒れたことや体から異臭を放つことをそのまま伝えるわけにはいかず、ぼかすような言い方でそう訊ねる。

「やっぱり分かった!? 実はお父様が帝国に賠償金支払ったせいでお金がなくなっちゃったの! だから使用人の数も減っちゃって……専属侍女もいないから以前のように身支度もしてもらえないのよ~!」

 そういえばケンリッジ公爵が帝国に多額の賠償金を支払ったという話を聞いたな。

 ふん、きっと欲をかいた罰が下ったのだろう。
 
 それはいい気味だと思うが、私のビクトリアにまで被害が及んだじゃないか!
 愛娘の身だしなみを整える金くらい何とか捻出すればいいのにまったく……。
 これだから欲に塗れた無能な男は嫌なんだ。

「食事もろくなもの出してくれないし、お風呂にも入れないの! ドレスも宝石も買えないし……もうこんな生活が続くと思うと耐えられない! ねえ、レイ……なんとかならない?」

 潤んだ瞳で上目遣いをしてくるビクトリア。
 以前なら胸がときめいたであろうその仕草も今の彼女の容貌ではむしろ目を逸らしてしまいたくなる。
 
 まずいな……ではちっとも気分が盛り上がらない。
 やはり以前の姿に戻ってもらわないと……。

「分かったよビクトリア、私が何とかしてみせるからね!」

「ほんと!? 嬉しいわ! レイ、大好きよ!」

 頬にキスされたが思わず体に怖気が走ってしまった。

 うん……いや、仕方ないんだこれは。以前の美しい姿に戻ればきっと大丈夫なはず。

 そうだ、王宮の女官に体を磨いてもらえばまた以前の美しいビクトリアに戻ってくれるはずだ! 
 
 さっそく手配しよう!
 
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