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逃がしてあげる
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「貴女の“幸せ”な生活の終焉に対して私は何の責任も無いけど、貴女だけ逃がしてあげることは出来るわよ。どうする?」
「えっ…………? 逃がすって……何から?」
床に膝をついたままジェシカは顔をあげた。
こちらを見下ろすアリッサの表情はそれまでと違い、まるで女王のような迫力に満ちている。そこにはいつも浮かべている淑女の笑みは無い。視線だけで人を委縮させ威圧する王者の顔がそこにあった。
「決まっているじゃない、尋問からよ。近いうちに王宮の騎士団が邸にやってくると言ったでしょう? 使用人達は幸いにも身分が低いから事情聴取だけで解放されるでしょうけど、貴女や侯爵様はそうはいかないわ。妻ではなく愛人だから連座で罪に問われるわけではないけど、共犯とはみなされるでしょうね」
「え? え……尋問? 共犯? いったい何のこと……?」
呆けた表情でジェシカはアリッサを見上げた。
いきなり出てきた不穏な単語に動揺し、忙しなくまばたきを繰り返す。
「本当に何も知らないの? 栽培禁止の植物が領地で栽培されている疑いがあるのよ」
「え? 栽培禁止の植物? よく分からないけど……それってそんなに不味いことなの? 王様が騎士団を派遣するほどのこと?」
どうやらジェシカはそれがどれほどの罪なのか理解していないようだった。
だから尋問だの共犯だの言われてもいまいちピンとこない様子だ。
「そうね、かなり不味いわね。捕まったらまず二度と外へは出られないわ。よくて労役、悪くて処刑かしら」
ジェシカが理解していなくとも、そこまで詳しく説明する義理も無いので簡潔にどういう罰を受けるかのみを伝えた。しかしそれでも十分効果があったようで見る見るうちにジェシカの顔色が悪くなっていく。
「は……? はああ!? なんでアタシが? アタシは何もしていないし、何も知らないのに? そんなの理不尽じゃない!!」
「貴女が本当に何も関わっていないのなら、確かに理不尽ね。私は理不尽が大嫌いなの。だから、貴女が理不尽な目に遭う前に助けてあげてもいいわよ?」
「本当!? だったら助けて! 労役も処刑も冗談じゃないわ!」
「分かったわ。ならすぐに着替えて荷物を纏めて。遅くとも明日の朝にはこの邸を出る準備を整えて」
「えっ!? 明日の朝? そんなすぐに?」
「そうよ。もしかするとそれでも遅いかもしれないもの。出来ることなら今すぐにでも出て行った方がいいくらいよ」
「え、ええ……。そんな急に言われても……」
「嫌なら別にいいのよ? 貴女が捕縛されても私は困らないもの。勘違いしないでほしいのだけど、私はあくまで善意で言っているだけなのよ?」
「う……。で、でも……いきなりそんなこと言われても……」
まだ会って数日しか経っていない相手、しかも恋人の花嫁候補としてこの邸に来た女の突拍子のない話を信じろというのは土台無理な話だ。もしかすると大袈裟な嘘をついて自分を邸から追い出し、その後ちゃっかり彼の妻に収まる心積もりなのかもしれないと疑った方がよほど簡単である。
「ちょっと待って、アタシだけって……マクスはどうなるの?」
「侯爵様はここに残って責任を取ってもらうわ。あの人はこの領地の責任者だもの」
「そんなっ……! マクスを置いていくなんて出来ないわ! 一緒に連れて行っていいでしょう? お願いよ!」
「それは無理よ。侯爵様を連れていたら逃げきれないわ。だってあの人はこの地の責任者よ? あの人が逃げたら誰が責任を負うの」
「そんなっ……! 無理! 無理よ! マクスを置いていくなんてアタシ……」
「そうよね、恋人だもの。離れたくないわよね。でもね、二人一緒に逃がすのは無理な話だわ。どうするかは貴女が決めてちょうだい。出て行くなら貴女一人で明日の朝までに私の部屋を訪ねて。そうしたら逃がしてあげる」
「そんな……それまでに来なかったら……」
「その時は貴女が侯爵様と運命を共にすると決めたのだと考えるわ。それじゃ、どうするか考えてちょうだい」
それだけ告げるとアリッサは呆気にとられるジェシカを置いてさっさとその場を後にした。残されたジェシカはしばらくその場に茫然と佇むしか出来なかった……。
「えっ…………? 逃がすって……何から?」
床に膝をついたままジェシカは顔をあげた。
こちらを見下ろすアリッサの表情はそれまでと違い、まるで女王のような迫力に満ちている。そこにはいつも浮かべている淑女の笑みは無い。視線だけで人を委縮させ威圧する王者の顔がそこにあった。
「決まっているじゃない、尋問からよ。近いうちに王宮の騎士団が邸にやってくると言ったでしょう? 使用人達は幸いにも身分が低いから事情聴取だけで解放されるでしょうけど、貴女や侯爵様はそうはいかないわ。妻ではなく愛人だから連座で罪に問われるわけではないけど、共犯とはみなされるでしょうね」
「え? え……尋問? 共犯? いったい何のこと……?」
呆けた表情でジェシカはアリッサを見上げた。
いきなり出てきた不穏な単語に動揺し、忙しなくまばたきを繰り返す。
「本当に何も知らないの? 栽培禁止の植物が領地で栽培されている疑いがあるのよ」
「え? 栽培禁止の植物? よく分からないけど……それってそんなに不味いことなの? 王様が騎士団を派遣するほどのこと?」
どうやらジェシカはそれがどれほどの罪なのか理解していないようだった。
だから尋問だの共犯だの言われてもいまいちピンとこない様子だ。
「そうね、かなり不味いわね。捕まったらまず二度と外へは出られないわ。よくて労役、悪くて処刑かしら」
ジェシカが理解していなくとも、そこまで詳しく説明する義理も無いので簡潔にどういう罰を受けるかのみを伝えた。しかしそれでも十分効果があったようで見る見るうちにジェシカの顔色が悪くなっていく。
「は……? はああ!? なんでアタシが? アタシは何もしていないし、何も知らないのに? そんなの理不尽じゃない!!」
「貴女が本当に何も関わっていないのなら、確かに理不尽ね。私は理不尽が大嫌いなの。だから、貴女が理不尽な目に遭う前に助けてあげてもいいわよ?」
「本当!? だったら助けて! 労役も処刑も冗談じゃないわ!」
「分かったわ。ならすぐに着替えて荷物を纏めて。遅くとも明日の朝にはこの邸を出る準備を整えて」
「えっ!? 明日の朝? そんなすぐに?」
「そうよ。もしかするとそれでも遅いかもしれないもの。出来ることなら今すぐにでも出て行った方がいいくらいよ」
「え、ええ……。そんな急に言われても……」
「嫌なら別にいいのよ? 貴女が捕縛されても私は困らないもの。勘違いしないでほしいのだけど、私はあくまで善意で言っているだけなのよ?」
「う……。で、でも……いきなりそんなこと言われても……」
まだ会って数日しか経っていない相手、しかも恋人の花嫁候補としてこの邸に来た女の突拍子のない話を信じろというのは土台無理な話だ。もしかすると大袈裟な嘘をついて自分を邸から追い出し、その後ちゃっかり彼の妻に収まる心積もりなのかもしれないと疑った方がよほど簡単である。
「ちょっと待って、アタシだけって……マクスはどうなるの?」
「侯爵様はここに残って責任を取ってもらうわ。あの人はこの領地の責任者だもの」
「そんなっ……! マクスを置いていくなんて出来ないわ! 一緒に連れて行っていいでしょう? お願いよ!」
「それは無理よ。侯爵様を連れていたら逃げきれないわ。だってあの人はこの地の責任者よ? あの人が逃げたら誰が責任を負うの」
「そんなっ……! 無理! 無理よ! マクスを置いていくなんてアタシ……」
「そうよね、恋人だもの。離れたくないわよね。でもね、二人一緒に逃がすのは無理な話だわ。どうするかは貴女が決めてちょうだい。出て行くなら貴女一人で明日の朝までに私の部屋を訪ねて。そうしたら逃がしてあげる」
「そんな……それまでに来なかったら……」
「その時は貴女が侯爵様と運命を共にすると決めたのだと考えるわ。それじゃ、どうするか考えてちょうだい」
それだけ告げるとアリッサは呆気にとられるジェシカを置いてさっさとその場を後にした。残されたジェシカはしばらくその場に茫然と佇むしか出来なかった……。
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