茶番には付き合っていられません

わらびもち

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側近の制止

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「ダンテ…………痛い、離せ」

「殿下がご令嬢と一定の距離を保つとお約束してくださるのならばこの手を離しましょう」

 皇太子殿下は頭を掴まれたまま不満そうな声で糸目の男性に言い放つ。
 大国の皇太子に対してとんでもない不敬を働いているにも関わらずこの気安い態度。その様子から彼等はかなり信頼関係の深い間柄だと分かる。

「主君が大変失礼致しました。憧れの貴女様に会えた嬉しさで舞い上がり、必要以上にご婦人に近づくという紳士としてあるまじき行動をとってしまったようです」

え? 憧れ…………?

「おい、ダンテ! 何を勝手に……!」

「事実ではありませんか? エルリアン嬢の絵姿を一目見て恋に落ちていたでしょう?」

「それはそうだが……何故それを私の許可なく本人に伝える!」

「お言葉ですが、貴方様がエルリアン嬢に無体を働こうとした原因を説明したまでのこと。言われたくないのであれば初対面の女性との距離感をお考え下さい。いくら実物が絵姿よりも遥かに美しかったからといって、まだ恋人でもない女性の唇を奪おうとしてはいけませんよ?」

 部下に頭を掴まれたままの皇太子殿下と主君の頭を掴んだままの側近が言い合いを続ける中、私の頭の中には側近の言葉が繰り返し再生されていた。

(私の絵姿に一目で恋に落ちた……? え? 嘘…………!)

 こんなにも精悍な美丈夫が私の事を……。そう考えるだけで頬がひどく火照る。
 胸はもう痛いほど鼓動を刻んでいるし、思考が上手く纏まらない。

「分かった、もうしないと約束するから手を離せ」

「はい、以後お気を付けください」

 側近が頭を離すと皇太子殿下は息を深く吐き、居ずまいを正した。

「レディ・エルリアン、不快な思いをさせて申し訳ない。その……嫌だったろうか?」

 捨てられた犬のように懇願する眼差しを向けられ、思わず母性本能がくすぐられる。
 もうそんな表情にすらときめいてしまう。

「いえ、嫌ではありません……。少し、驚いただけで……」

 視線を交わせば時が止まったかのようにそのまま見つめ合った。
 互いの間に言葉は無くとも熱い眼差しだけで心の内を晒しているかのよう。

(初対面なのに……こんな……)

 先程至近距離まで近づかれても全く嫌ではなかった。
 むしろ嬉しいと、もっと近づいてほしいとさえ願ってしまった。

「殿下、見つめ合うより先にエルリアン嬢へ此度の件について詳しくご説明を」

 側近に叱責され、殿下は苦々しく彼を睨みつけた。
 だが側近は涼しい顔でそれを躱す。

 殿下は視線を側近から私へと向け、ゆっくりと口を開いた。
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