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近づく顔
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「レディ、改めて謝罪申し上げる。君が折角用意してくれた晩餐の場を台無しにして済まなかった」
「いえ、どうぞ頭を上げてください殿下」
晩餐会場を出た後、私は皇太子殿下に連れられるまま彼が滞在する宮殿へと向かった。
宮殿内にいる帝国の使用人達は予定より早い主人の帰りと女性を連れていることに少しも驚かず、淡々ともてなしの準備を始める。これが自国の王宮使用人であればきっと慌てふためくだろうな……と改めて格の違いというものを見せつけられた。
中央のテーブルに帝国から持参したと見られる菓子と飲み物が用意され、皇太子殿下の正面の椅子に座るよう勧められる。大国の皇太子とこんな近くで顔を合わせる機会など滅多にない。
緊張しつつ椅子に腰かけると、いきなり皇太子殿下に頭を下げられ謝罪される。
格上の相手、しかも大国の皇太子が小国の令嬢に頭を下げるなんて……と慌てて頭を上げるよう促すも彼はその姿勢から動こうとしなかった。
「いや、君が私をもてなす為に心を尽くしてくれた晩餐の場を台無しにしたのは紛れもない事実だ。会場の装飾から料理にかけて実に細やかな心遣いを感じられ、出来ることなら最後まで堪能したかったよ」
「まあ……ふふ、そう言って頂けるだけで嬉しいです」
「この宮殿内もそうだが、会場の装飾もシンプルだが気品を感じさせるものだったな。それに野菜や魚には全て火が通されていた。こちらでは生でそれらを食すと聞いていたから……私の為にわざわざ気を利かせてくれたのだと嬉しくなったよ」
そんな細かい部分に気づいてくれたのかと正直驚いた。
事前に読み込んだ資料にはバーソロミュー殿下は華美な装飾を好まないと記載されていたので、全体をシンプルかつ上品に見えるよう整えることに苦労した。王宮内は派手好きの王妃の趣味で華美な調度品に溢れ返っていたため、エルリアン家お抱えの商会にお願いして品と質の良い品をわざわざ用意した。もちろん皇太子殿下がお帰りになった後は返してもらう予定だ。
そして生野菜や生の魚を使った料理を好まれる我が国と違い、帝国では必ず火を通して食す。なので、料理に使われる野菜や魚は全て火を通すよう予め厨房に指示を出してある。もちろん普段の食事にもだ。
そういった些細な事に気づき、称賛してもらえるのは素直に嬉しい。
ちなみに私に準備を丸投げした国王はそういった細かい部分に全く気づいていない。
こんなところでも格の違いが滲み出ている。
「私が急にあのようなことを言い出して驚いただろう?」
「ええ、正直驚きました……。わたくしを婚約者になんて……からかっていらっしゃるのでしょうか?」
「いや、全て本心だ。私は本気で君を婚約者に迎えたいと思っているし、皇帝陛下もそれはご承知の上だ」
「皇帝陛下までもが……? こんな小国の娘を?」
「国自体は小さいとはいえ君の家が所有する商会は大陸でも有名だ。それだけの財力と影響力を持ったエルリアン家の令嬢ならば帝国の皇后としても申し分ない。何より実際に君の人柄と能力を目にして益々妻に迎えたいという気持ちが強くなった。美しさもさることながら、細部まで気を配れる器の大きさに感服したよ。改めてレディ・エルリアン、私の婚約者となって頂けないだろうか?」
「皇太子殿下……。その、お気持ちは嬉しいのですが、まだわたくしは王太子殿下の婚約者という立場にあります。この状態で貴方様の求婚をお受けするわけには参りません……」
「うん……そうだよな。それは私も理解している。しかし、私の気持ちだけは心に留めておいてはくれないだろうか? 君が王太子の婚約者という立場から解放された時に改めて返事が欲しい」
殿下の真摯な眼差しに私の胸がドクンと音を立てて高鳴る。
帝国皇族の証である琥珀の瞳が真っすぐ私を射貫く。
(顔が……顔が熱い。やだ、殿下の顔が直視できない……)
思わず目を逸らすと、私の頬に殿下の大きな手が触れる。
驚いて再び彼の方に目を向けると唇が触れる寸前まで顔を近づけられた。
「で、殿下……! お戯れを……」
「やはり貴女は美しい……。絵姿で見るより、実物の方がずっと……」
甘く蕩けた琥珀の瞳が私を捕らえて離さない。
もうすぐ唇が重なる……という瞬間、いきなり殿下の頭が勢いよく後ろに引っ張られた。
「殿下、ご令嬢に無体を働いてはなりませんよ。申し訳ございません、エルリアン嬢。我が主君が貴女様に失礼な行いを……。主君に変わってお詫びいたします」
一瞬、何が起こったのかよく分からなかった。
唖然とする私にそう声をかけてきたのは皇太子殿下の側近と思しき糸目の男性。
彼はその両手で畏れ多くも皇太子殿下の頭を鷲掴んだまま優雅に頭を下げていた。
「いえ、どうぞ頭を上げてください殿下」
晩餐会場を出た後、私は皇太子殿下に連れられるまま彼が滞在する宮殿へと向かった。
宮殿内にいる帝国の使用人達は予定より早い主人の帰りと女性を連れていることに少しも驚かず、淡々ともてなしの準備を始める。これが自国の王宮使用人であればきっと慌てふためくだろうな……と改めて格の違いというものを見せつけられた。
中央のテーブルに帝国から持参したと見られる菓子と飲み物が用意され、皇太子殿下の正面の椅子に座るよう勧められる。大国の皇太子とこんな近くで顔を合わせる機会など滅多にない。
緊張しつつ椅子に腰かけると、いきなり皇太子殿下に頭を下げられ謝罪される。
格上の相手、しかも大国の皇太子が小国の令嬢に頭を下げるなんて……と慌てて頭を上げるよう促すも彼はその姿勢から動こうとしなかった。
「いや、君が私をもてなす為に心を尽くしてくれた晩餐の場を台無しにしたのは紛れもない事実だ。会場の装飾から料理にかけて実に細やかな心遣いを感じられ、出来ることなら最後まで堪能したかったよ」
「まあ……ふふ、そう言って頂けるだけで嬉しいです」
「この宮殿内もそうだが、会場の装飾もシンプルだが気品を感じさせるものだったな。それに野菜や魚には全て火が通されていた。こちらでは生でそれらを食すと聞いていたから……私の為にわざわざ気を利かせてくれたのだと嬉しくなったよ」
そんな細かい部分に気づいてくれたのかと正直驚いた。
事前に読み込んだ資料にはバーソロミュー殿下は華美な装飾を好まないと記載されていたので、全体をシンプルかつ上品に見えるよう整えることに苦労した。王宮内は派手好きの王妃の趣味で華美な調度品に溢れ返っていたため、エルリアン家お抱えの商会にお願いして品と質の良い品をわざわざ用意した。もちろん皇太子殿下がお帰りになった後は返してもらう予定だ。
そして生野菜や生の魚を使った料理を好まれる我が国と違い、帝国では必ず火を通して食す。なので、料理に使われる野菜や魚は全て火を通すよう予め厨房に指示を出してある。もちろん普段の食事にもだ。
そういった些細な事に気づき、称賛してもらえるのは素直に嬉しい。
ちなみに私に準備を丸投げした国王はそういった細かい部分に全く気づいていない。
こんなところでも格の違いが滲み出ている。
「私が急にあのようなことを言い出して驚いただろう?」
「ええ、正直驚きました……。わたくしを婚約者になんて……からかっていらっしゃるのでしょうか?」
「いや、全て本心だ。私は本気で君を婚約者に迎えたいと思っているし、皇帝陛下もそれはご承知の上だ」
「皇帝陛下までもが……? こんな小国の娘を?」
「国自体は小さいとはいえ君の家が所有する商会は大陸でも有名だ。それだけの財力と影響力を持ったエルリアン家の令嬢ならば帝国の皇后としても申し分ない。何より実際に君の人柄と能力を目にして益々妻に迎えたいという気持ちが強くなった。美しさもさることながら、細部まで気を配れる器の大きさに感服したよ。改めてレディ・エルリアン、私の婚約者となって頂けないだろうか?」
「皇太子殿下……。その、お気持ちは嬉しいのですが、まだわたくしは王太子殿下の婚約者という立場にあります。この状態で貴方様の求婚をお受けするわけには参りません……」
「うん……そうだよな。それは私も理解している。しかし、私の気持ちだけは心に留めておいてはくれないだろうか? 君が王太子の婚約者という立場から解放された時に改めて返事が欲しい」
殿下の真摯な眼差しに私の胸がドクンと音を立てて高鳴る。
帝国皇族の証である琥珀の瞳が真っすぐ私を射貫く。
(顔が……顔が熱い。やだ、殿下の顔が直視できない……)
思わず目を逸らすと、私の頬に殿下の大きな手が触れる。
驚いて再び彼の方に目を向けると唇が触れる寸前まで顔を近づけられた。
「で、殿下……! お戯れを……」
「やはり貴女は美しい……。絵姿で見るより、実物の方がずっと……」
甘く蕩けた琥珀の瞳が私を捕らえて離さない。
もうすぐ唇が重なる……という瞬間、いきなり殿下の頭が勢いよく後ろに引っ張られた。
「殿下、ご令嬢に無体を働いてはなりませんよ。申し訳ございません、エルリアン嬢。我が主君が貴女様に失礼な行いを……。主君に変わってお詫びいたします」
一瞬、何が起こったのかよく分からなかった。
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彼はその両手で畏れ多くも皇太子殿下の頭を鷲掴んだまま優雅に頭を下げていた。
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