フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち

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アンヌマリーとの話し合い

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 それにしてもアンヌマリーは私が落ち着いていることを何とも思っていないのだろうか。

 こういった場合、本命はまず浮気相手に『彼とはどんな関係?』と聞くことから始めるものだろう。もしくは『この泥棒猫!』と浮気相手を罵るかだ。

 その過程を飛ばし、何もかもを知っているように話す私を不思議に思わないのだろうか。
 思わないのだとしたら、アンヌマリーはよほどの阿呆か、怯えてまともに思考が働いていないかのどちらかだ。
 まあどちらにしても構わない。すでに分かっている彼らの不貞関係を、改めて説明してほしくもないのだから。
 
 私が転生者で、彼らの関係性も行動も予め知っていたからこそこんなに冷静でいられる。
 そのままのフランチェスカであれば、浮気されたまま結婚し、自分の子をすり替えられて終わりだった。

「こんなことになるなんて思わなくて……。本当に申し訳ございません……。どうか、どうか命だけは……」

「そうね、貴女はただわたくしからエメラルドのブローチを与えてほしかったのでしょう? それをちょーっとセレスタンに泣きついたらあの人が勝手に暴走したのよね?」

「はい! そうなんです! もっと上手く言ってくれるかと思ったのに……まさか姫様に直接怒鳴りつけるなんて」

「あの人がそんな器用な真似出来るわけないでしょう? そんなことが出来る人ならわたくしとの関係だってもっと上手く築けていたはずよ。 そんなことも分からなかった?」

「あ……だって、高位貴族ならそれくらい出来るかと……」

「そうね、あの人以外なら出来るでしょうね。でもあの人、はっきり言って阿呆よ? 阿呆だから婚約者の侍女に手を出すし、阿呆だから王宮内で浮気するし、阿呆だから将来わたくしが産んだ子と貴女が産んだ子をすり替えようなんて言い出したのでしょう? 救いようのない阿呆に恋したのよ貴女は」

 アンヌマリーは恋人を”阿呆”と連呼されたことよりも、どうして私がそこまで知っているのかに驚いたようだ。

 鈍い彼女もさすがに子供をすり替えようと画策していたことまで知られていれば驚くだろう。
 だってそれは彼女とセレスタンの二人しか知らないことなのだから。

「どうしてそれを……。まさか、セレスタン様が……?」

「いいえ、彼とは話すらしていないわ。だけど浅はかな男の浅はかな考えなんて、簡単に予想出来るじゃない? セレスタンから持ち掛けたんでしょう? 子供をすり替えようなんて話は……」

 さすがに誤魔化せないかな、と心配になったが阿呆なアンヌマリーは少しも疑うそぶりを見せなかった。
 
 この子、こんなに阿呆で大丈夫なのかしら?
 だから阿呆な男に引っかかったのでしょうけど。

「わ……わたしは断ったのです! 姫様との子をすり替えるなんて……そんな大それたこと!」

「そうね、そんなことをすればお家乗っ取りの罪で、貴女の一族は皆処刑されるでしょうから。それ以前に子供のすり替えなんて現実的に不可能よ。だって、子の年齢を合わせるためにわたくしと貴女が同時期に妊娠しなければならないし、子供の性別だって同じでなくてはならない。そうなる確率はかなり低いでしょう? だから無理よ」

 妊娠する時期は個人差がある。同時期に妊娠なんてやろうと思って出来るものじゃない。おまけに子供の性別がどちらになるなんて神のみぞ知ることだ。

 だが小説ではこんな確率の低いことが奇跡的に成立したおかげで子供のすり替えが出来た。
 さすがはご都合主義といったところか。

「はい……その通りでございます。本当に申し訳ございません…! 何卒、命だけは、命だけは……!」

「そんなに言うのだったら、命だけは助けてあげてもいいけど?」

 反省している様子のアンヌマリーに私は命だけは助けてあげることにした。
 
 でもあくまでだ。その身に罰を受けることまで免除してはやれない。

「あ……ありがとうございます! 姫様のお慈悲に感謝を……」

「ただし、命だけよ。ある程度の罰を受けることは覚悟した方がいいわ。もちろんその咎は実家にも及ぶかもしれないわね」

「そんな……! 家族は関係ありません!」

「そうね、関係ないのに罰を受けるなんて可哀想ね。でもそれが貴族というものよ。個人のやらかしは家にも影響を及ぼすの」

 貴族のくせに自分のやらかしが家に影響を及ぼすとまで考えられないとは驚きだ。
 お前の罪は、そのまま家の罪になると教えられてこなかったのだろうか。

「家への影響を最小限に抑え、なおかつ命も助かる方法は一つしかないわ。これから何を聞かれても貴女はと答えることよ」

「え……? え? そんな、それじゃセレスタン様が悪者に……」

「そうよ、貴女が助かる方法はセレスタンを悪者にすることよ。セレスタンは公爵家、貴女は男爵家。公爵家に言い寄られたら男爵家の貴女は断れないでしょう? 涙ながらにそれを訴えれば罪は軽くなるわ」

 自分が助かるために恋人を売れ、と言っているも同然。

 いくらなんでもそれは……と顔を青ざめるアンヌマリーに私は畳みかけた。

「なら正直に愛し合ってましたとでも言う? そして王宮内にあるを利用して愛を深めていたことも話すの?」

「……っ!? 何故それを……!」

「馬鹿ね、王宮内のことをわたくしが知らないとでも? それよりも貴女、王家の秘密を知った者がどんな末路を辿るのか……考えなくても分かるでしょう? 家族も皆巻き添えになるかもね?」

 絶句してガタガタ震えるアンヌマリーを私は冷めた目で眺めた。

 呆れた。王家の秘密を知って無事でいられるとでも思っていたのかしら。

「今のところ、隠し扉の存在を知っているのは貴女達以外ではわたくしだけよ。そしてわたくしをこれを告発するつもりはないわ。だってそんなことをすれば……貴女の家族、いいえ下手すれば一族郎党処刑かもね? それだけ王家の秘密を知ることは罪深いの。貴女は恋人を悪者にしたくないんでしょうけど、しなければ一族諸共処刑は免れないわ。だけどひたすら『セレスタンに無理やり言い寄られた』と言えば助かるかもしれないわよ?」

「で、でも……! それなら隠し扉についてだけ黙っていれば……」

「それだけ隠すなんて器用な真似、貴女に出来るの? うっかり話してしまえば処刑確定よ? 大丈夫なの?」

 アンヌマリーは阿呆だから聞かれたことに素直に答えてしまうだろう。
 いくら隠し扉について黙っていようと思っても、話の流れでついうっかり喋ってしまったなんてことをしそうだ。

 だったら最初からセレスタンに言い寄られた、逆らえなかった、と繰り返していた方が秘密を死守できるのではないか。

「別にわたくしはどちらでもいいわ。貴女が正直に言おうが、わたくしの助言に従うかなんて。でも貴女と貴女の家族にとっては大きな差があるのではなくて?」

 生きるか死ぬかの差は大きい。
 愛を選んで死ぬか、恋人を裏切って生きるか。
 アンヌマリーはどちらを選ぶだろう。

「ここに囚われている以上、そのうち尋問されるでしょう。セレスタンを悪者にするなら尋問だけですむけど、隠し扉のことを話せば拷問までされるかもしれない。それでもいいの?」

「拷問!? 何でそこまでされるのですか!」

 拷問と聞いてアンヌマリーは恐怖で泣きながら首を横に振った。

「何でって……当り前じゃない? 貴女は偶然隠し扉の存在を知ったようだけど、普通は知られるはずがないのよ。それを知っているってことは、貴女がどこぞの間者だと疑われてもおかしくないわ」

「間者……!? そんな、違います!」

「そうね。違うのでしょうけど、それを証明する術なんてないでしょう? なら、疑われて当然よ」

 ここまで説明してやっと自分がどれだけ大それたことをやり、どれだけの罪を犯したのかを理解したようだ。

「い、いや……拷問は嫌……」

「なら、ひたすらセレスタンを悪者にしなさい。隠し扉の存在さえ隠せば間者だと疑われないし、拷問までされないでしょう」
 
 アンヌマリーは涙を零して必死に頷く。

 おそらくこれで彼女は今回の責任を全てセレスタンへと被せるだろう。

 最愛の恋人に裏切られるなんて可哀想、と私は思ってもいないことを考え薄く笑った。

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