私が貴方の花嫁? お断りします!

わらびもち

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彼女の願い

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「カロリーナさん、貴女は何かを伝える為にわたくしに会いに来たのではなくて? 泣いてばかりいないで本題を伝えてください」

「……本当に冷たい人ね。せっかくこうしてのよ? 少しくらい愚痴を聞いてほしいと思って何が悪いの」

「話せるようになった……? どういうことです?」

「あの男の干渉が治まったからよ。ほら、貴女が以前夢に現れたあいつに向かって何かを投げたでしょう? アレにはあいつの力を抑える効果があったみたい」

「投げた物って……もしかして水晶? 魔を退ける効果があると聞きましたが……本当だったのですね」

「あいつにとってはかなり効果があったみたいよ。そのおかげであいつはしばらく巣から出てこられないの。だからわたくしはこうやって貴女と話せるようになったのよ」

 どういう仕組みなのかは不明だが、あの神を自称する青年の力が弱まるとカロリーナは自由にカロラインの夢に干渉できるらしい。

「わたくしがこうして夢に干渉して会話できるのは貴女しかいないのよ!? 積もりに積もった生前の気持ちが溢れ出して涙を零してしまうのは仕方のないことだわ! 少し付き合ってくれてもいいのではなくて?」

「いや……だって長そうですし。貴女の身に何が起きたのかは散々見せられましたし、もう一度その時のことを蒸し返されましても……」

「キイイイ! なんて薄情な女なの!? いいからちょっと付き合いなさいよ!」

 随分と感情の起伏が激しい人なのだな、とカロラインは呆気にとられた。
 自分の前世の姿といっても、性格が全く違う。それに何だか怒る時の台詞や表情が自分以外の誰かに似ている。

「……分かりましたよ。先に本題を話してくれるのなら、その後愚痴に付き合ってあげます」

 彼女の自分勝手な愚痴に付き合いたくはない、というのが本音だ。
 だがこうでも言わないとカロリーナはいつまで経っても本題に入らないだろう。

「……ふん、それならいいわ。あのね、わたくし貴女に頼みたいことがあるのよ」

「頼みたいこと? それはどういった内容で?」

 先ほどとは打って変わり、急にしおらしくもじもじとし始めたカロリーナ。
 本当に感情の起伏が激しい人だな、とカロラインは呆れた目を彼女に向ける。

「……ピエール様に白い薔薇のブーケを渡してほしいの」

「え……? ピエール様って、教皇猊下に?」

「そうよ。……本当はね、結婚式の日に渡す約束だったのよ。でも……わたくしが逃げてしまったからその約束は果たされなかった。今更だけどその約束を思い出したの……」

 彼女の話によると、その昔結婚式で花嫁が手にしたブーケを初夜で花婿に渡すという風習があったそう。それによって『私は貴方のものです』と永遠の愛を示すとか。
 
 今はそんな風習聞いたこともないが、カロリーナの時代には一般的だったそうだ。

「わたくしとピエール様は幼馴染だったの。子供の頃にね、将来結婚するときに白い薔薇のブーケを渡すと彼に約束していたのよ」

「へえ、そんな約束を。昔は随分と仲が良かったのですね?」

「そうね……そうだったわ。政略で婚約を交わしたものだと思っていたけど……幼い頃は想い合っていたのよ。色々あって忘れていた約束を、最近になって思い出したの……」

 カロリーナの瞳はどこか遠くを見ているようだった。
 感傷的な場面で「普通そんな大切な約束忘れます?」と突っ込んではいけない、とカロラインはその言葉を飲み込む。

「貴女を通じてピエール様がわたくしを想ってくれていたことが分かったのよ。わたくし……ずっとあの方に愛されていないとばかり思っていた。だけど、ちゃんと愛されていたのね……」

「ええ、ご自分の行いを悔いておられました。猊下は今でもずっと貴女を想っているように見えます。……カロリーナさん、当時はどうして浮気について猊下と話し合わなかったのですか?」

 話し合っていたのなら、あんな結末は迎えなかっただろう。
 それにカロラインもあいつに狙われずに済んだはず。

「何でかしら……。きっと、勝手に思い込んでいたのよ。ピエール様はどうせわたくしの話なんて聞いてくれないって……。でもそれはわたくしの勝手な思い込みに過ぎないわ。あの方がわたくしの話を聞いてくれなかった事なんてなかったのに……」

 確かにどうも目の前の女性は“こうだ”と思い込んだらそのまま突き進むような性格をしている。思い込みが激しく周囲の意見を聞かないように思えてならない。

「今更だけど……あの時の約束を果たしたいと思ったの。もしかしたらあの方は忘れているかもしれないけど……」

「多分、覚えているのではないでしょうか? 猊下は記憶力が優れているように見受けられましたし」

 教皇は昔のことを細部に渡って記憶していたように感じた。
 きっと元婚約者との約束も覚えているはず、とカロラインは彼女の頼みを聞くことにした。

「白い薔薇のブーケ、猊下にお会いした際に渡しておきます。貴女からの贈り物だと告げて」

「……っ! ありがとう……」

 なんだかんだ言ってカロリーナは教皇を愛していたのかもしれない。
 あの男さえ現れなければ、彼女はそのまま婚約者と結婚し、紆余曲折の末に和解し、幸福を得たかもしれない。

 人生ってままならないな、とカロラインがしみじみ感じていたところでカロリーナが口を開いた。

「じゃあそろそろ、わたくしの愚痴を聞いてもらおうかしら? あの獣のことで言いたいことが沢山あったのよ! ずーっと誰かに聞いてもらいたかったところで貴女と会話できるようになったのだもの。全部聞いてもらうわよ!」

 せっかく感傷に浸っていたのに台無しだ。
 諦めたようにカロラインはカロリーナの止まらない愚痴を聞き続けた……。

「……ふう、沢山話せて満足したわ」

「それはよかったですね……」

 愚痴を全て吐き出せて満足そうなカロラインと、ぐったりと疲れた様子のカロライン。夢の中なのに疲れるってどういうことだろう、と考えた矢先にカロリーナが「ああ、そういえば」と続ける。

「……え? まだ愚痴があるのですか?」

「違うわよ、愚痴はもう全て話し終わったわ。そうじゃなくて、今度ピエール様があの獣を退治しに行くのよね?」

「はい、そうですけど……それが何か?」

「貴女を通じて聞いていた話によると、貴女の恋人が身代わりを引き受けるそうじゃない? でもね、出来れば身代わりは男じゃなくて女の方がいいと思うのよ。それもをね」

「え? どうしてですか……!?」

「だって男が身代わりなんて、すぐに見抜かれてしまうわよ。あいつの女に対しての欲は強いからね」

「それは教皇猊下も承知の上です。騙されたことに激高して襲い掛かってくれた方が退治しやすいと……」

「それはどうかしら? あいつの性格からして勝てないと思った相手からはすぐに逃げ出すと思うのよ。逃げる才能と隠れる才能には優れているから、一度逃げられたらもう追えないわ。その時の保険としてを用意しておいた方がいいと思うわよ?」

「え!? 身代わりの花嫁……ですか?」

 カロリーナの口から出た不穏な単語にカロラインは疲れも忘れて勢いよく顔を上げる。先ほど興奮しながら愚痴を吐いていた彼女のやけに落ち着いた様子にカロラインはごくりと喉を鳴らした。
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