ねこのフレンズ

楠乃小玉

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第二章

十五話 脳は記憶をねつ造する

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 八幡浜に到着したチカンちゃんとドカンちゃん。
 山側から行こうか、海沿いを行こうか話し合いになる。
 「海沿いのほうが平地だから楽だよ!」
 とチカンちゃんが言い出したのが運の尽き。
 海沿いのグネグネまがった道をひたすら自転車をこいで走ることとなった。

 実は、チカンちゃんは海のお魚が見たかっただけなのだ。
 でも、海のお魚はあんまり見ることができず、
 海岸沿いのアップダウンの道が続く。
 ひたすら森の中を進む。
 そんな中で、ようやく人家らしきものがある集落に行き着いた。
 「三瓶サンペイです!」
 チカンちゃんが言った。
 じつはサンペイじゃなくて三瓶ミカメ
 この場所にも旅館はあったが、あいにく、その日は満室だった。 
 このままでは、森の中で夜中に野宿になってしまいかねない。
 農協に入って近くに旅館がないかドカンちゃんは聞いてみた。
 農協の人は親切な人で、電話で聞いてまわってくれて
 大早津海水浴場の前の旅館を紹介してくれた。
 「ありがとうございます!」

 ドカンちゃんは先をいそぐ。
 
 あいかわらず、森の中を激しい上り下りの坂道。
 大崎鼻で疲れはピークに達する。
 
 ドカンちゃんの体からゴムの焦げたような匂いがただよってきた。
 チカンちゃんは目を丸くした。
 「なんだ、この匂い」
 なぜなら、いつもはドカンちゃんは汗をかいてもとても甘いいい匂いがしたからだ。

 「これは脂肪の燃える匂いだよ」
 ドカンちゃんが言った。
 「脂肪が燃えるの?」
 「そうだよ、体に蓄積さた糖分が使い果たされ、
 いよいよ脂肪が燃やされるとき、こんな匂いがするんだ」

 「じゃあ、もう限界いっぱいじゃないか~」
 「大丈夫、大丈夫」
 ドカンちゃんは笑ってみせた。
 それでも、本当はかなりきつかった。
 頭がもうろうとする。
 
 それでも、頑張って、やっと大早津海水浴場に到着した。
 「ついたー!」
 
 「ああ、いらっしゃい、聞いているよ」
 旅館の女将さんが笑顔で迎えてくれた。
 旅費はたしか、ご飯付で7500円だった。

 とにかくドカンちゃんは喉がかわいていた。
 旅館の売店にツブツブミカンの100%ジュースが売っていたので、
 それを買ってガラスビンのままチカンちゃんと分け合って一気のみした。
 普通は、ビンのまま飲むようなお行儀の悪いことはしないのだけれど、
 このときばかりは例外だ。

 「ここの坂の上に温泉があるよ~」
 旅館の女将さんが教えてくれた。
 「そうなんですか、ありがとうございます」

 そういって、チカンちゃんはドカンちゃんを連れて坂の上の大浴場に行った。
 そこでお風呂に入ってゆっくりあったまった。

 お風呂から出てくると頭の髪の毛がフサフサした灰色の髪、灰色のネコ耳をもった
 女の子が腕組みをして待っていた。
 「ようこそ、愛媛の森に」
 
 「あなたは誰ですか?」

 「私はノルウェージャンフォレストキャットの地霊、フォレストだよ」
 
 フォレストは柔和に笑った。
 
 「私はここで予言しておこう。君はここでの出来事を忘れてしまう。
 そして、大洲から八幡原で見た映像を頭の中で貼り合わせ、
 自分が実は八幡原から伊予石城から上宇和を通って宇和島に行ったと思い込んでしまうだろう。
 君の頭の中には実は、自分の頭が勝手に作り出した偽の記憶の映像、
 本当に君が行った実際の記憶の映像の二つが併走して走ることになる。
 そして、その時の体験を君が小説にして書くとき、この二つの記憶を併走して
 書いてしまうことになるだろう」

 「え~記憶ってそんなに簡単に改造してしまえるんですか?」
 
 「そうだよ、ここでお風呂に入った記憶だって、時間がたてば、
 そんな場所に行ったことはないんだ、この映像は夢の中で見た
 記憶なんだって思うようになるかもよ」

 「でも、それでも、もう一度自分の記憶をひもといていくうち、
 本当の記憶を思い出してくるんじゃないですか?」
 
 「それはそうかもしれないし、違うかもしれない。それはやってみないと分からないね」
 
 そう言ってフォレストはニッコリ笑うと、ボワッという音と白い煙とともに消え、その場所には
 綠の若葉が数枚散らばっているだけだった。

 「ふしぎだねえチカンちゃん」
 「そうだね~幻想的だね~」

 ドカンちゃんとチカンちゃんは顔を見合わせた。



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