ねこのフレンズ

楠乃小玉

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三章

二話 慢心

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 大阪南港に到着。
 金曜日にフェリーに乗るということは、いつもとは少し違ったことがあった。
 それは、金曜日、土曜日にフェリーに乗ると、一時間、到着が遅くなるのだ。
 とはいえ、到着は七時45分だ。

 これだけ朝早ければ大して問題はないだろ。
 ドカンちゃんはそう思った。
 
 運がいいことにツーリスト4人部屋は4人で4万5千六百円で貸し切りだった。

 お船に乗ってからシアンちゃんとサバンちゃんはステージで行われている
 二胡の演奏を夢中になって見ていた。

 ドカンちゃんはちょっとゲームコーナーに行ってみる。

 ドカンちゃんは小さい頃、おじいちゃんに駅前にある
 ゲームセンターに連れて行ってもらったのだ。

 ゲームセンターは駅前再開発でつぶれてしまった。

 ゲームコーナーに行ってドカンちゃんは目を見張った。
 「ファーストジンダムDXだ!」

 今は亡くなってしまったおじいさんはアニメのジンダムが大好きで
 よくドカンちゃんにも語ってくれた。
 そして、お父さん、お母さんには内緒でゲームセンターに連れて行ってくれた。
 まだ5才くらいだったけど、このゲームはすごく一生懸命やった。
 鉄魂5の通信対戦とともに一番槍込んだゲームだ。
 ちなみに鉄魂5ではものすごく肥って赤シャツを着た男の人のキャラクターを
 ドカンちゃんは使っていた。けっこう強かったのだ。
 
 「やってみようか」
 ドカンちゃんはチカンちゃんを見た。
 「うん!面白しろそう!」
 チカンちゃんが頷いた。

 ドカンちゃんはマシンガンと足ミサイル装備の綠ザコが好きだった。
 足に装備した足ミサイルを6発全弾撃って、それが敵に当たったときが
 たまらない。
 武器はビームオノだからリーチが短いけど、
 少しジャンプして敵に斬りかかると三段攻撃ができる。

 一番の売りはコストが低いこと。

 チカンちゃんは普通に主人公機ジンダムを使った。

 二人共同プレイでやったが、最初はあまり勝てない。
 そのうち、チカンちゃんはジンダムのビームライフルが
 全弾撃ちつくしたあとの待ち時間にイライラしはじめる。
 そのうち、ゼータジンダムのビームライフルが撃ち放題だと
 気づいて、そっちに切り替えてから調子がよくなった。
 時々、ものすごく長いビームライフルが発射できるようになると
 チカンちゃんは大興奮した。

 「うわー!面白かったね~さすがお船だね~」
 チカンちゃんは目を輝かせた。

 「そうだね~、お家の近くはゲームセンターがないからね~」

 「初日に今後の運命が決まる、先だっては水、今度は闘争だ」
 背中のほうで誰かの声がした。
 振り返っても誰もいなかった。

 ふと、ドカンちゃんは自分たちが立っている鉄の船板の下は
 ずっと奥深い海だっていう事に気づいて、少し不安になった。
 その不安を振り払い、お風呂に入りに行くことにした。
 シアンちゃんとサバンちゃんも誘おうと思ったけど、シアンちゃんは
 お風呂に入れないので、チカンちゃんだけ誘ってお風呂に行った。
 お風呂は瀬戸内海を展望できる展望風呂でとても清潔でよかった。

 お風呂に入って満足して、ドカンちゃんはチカンちゃんをダッコしながら
 眠りについた。

 朝、目が覚めるともう日が開けていた。
 
 近づく九州の港。
 ドカンちゃんの胸は高鳴った。

 ドカンちゃんたちは港に降り立つと、そこらへんを歩いているお兄さんに
 地獄巡りの場所を聞いた。

 「地獄巡り?バスか車で行ったほうがいいよ、自転車なんかで行けないよ遠くて」

 最初に聞いた人はそう言った。
 それでも諦めずに場所を聞きながら進んだ。

 意外な事に、地獄巡りは坂のすごく上の方にあった。

 温泉は火山に湧くので、当然山の近くなのは当たり前なのだが、
 その時のドカンちゃんはそんな事は分からなかった。

 一生懸命坂を登って、途中の大衆食堂でご飯を食べた。
 お店のおばさんがミカンをくれた。
 なんでも旅行の人にはよくミカンをくれるらしい。

 一つのミカンをドカンちゃん、チカンちゃん、シアンちゃん、サバンちゃんでわけた。

 ドカンちゃんは美しい青地獄、鮮やかな血の池地獄など極彩色の地獄に魅了された。

 美しかった。

 不思議に思ったのは、そういう地獄巡りにやたら多く、
 お稲荷様の祠があったことだ。

 「あ、お稲荷様だ。お賽銭をあげよう」
 「やめたほうがいいよ」
 ドカンちゃんが言った。

 「どうしてですか?」
 「小銭を数えてごらん。五円玉は1枚しかない、あとは一円玉だ」

 「じゃあ、この一番大きなお稲荷様にだけ五円玉をあげて、ほかの小さな
 お稲荷様とかお稲荷様の人形には一円玉をさしあげたらいいでしょ」

 「それはダメだよ、一つの敷地の中にある神社ならご本社様だけにお賽銭をあげてもいいけど、
 ここの神社は大きくても小さくても霊格は対等だ、そこに差をつけるくらいなら
 最初からお賽銭をあげないほうがいい。これは心得事だよ」
 
 「いやだなあ、チカンちゃん、そんなの考えすぎだって。人からものを貰うのに
 不平を言うとか、神様はそんなに心は狭くないよ」

 「それは人間の考えだよ。霊には霊の社会があり、風習がある。それを軽んじたらダメだ。
 客は客として振る舞うべきだ。客が礼儀を忘れて、地元に押しつけをしたとき、
 それは客じゃなく侵略者になる」

 「そりゃ、侮辱すればそうなると思いますよ。でもボクは好意でお賽銭をあげるのですから
 それは神様も分かってもらえると思います。わざと差をつけているのではなく、
 しかたなくそうなってしまうんですから」

 「なら、最初からお賽銭をあげないほうがいい。お賽銭をあげるのはドカンちゃんの意志だよ」

 「大丈夫、大丈夫、ふふふん~♪」

 ドカンちゃんはご機嫌でお賽銭をあげた。

 「ほっておきなさい。人間は力を得ると慢心するものよ。
 
 それは、
 自分で気づかないかぎり治らない。

 若い頃、人は子供から体が大人に成長して
 今までできなかったことが何でもできると勘違いするようになる。

 このときに、無茶をやって、多くの若者は不慮の事故で命を落とすわ。
 それは、今後社会に迷惑をかける人間をふるい落とすザルのマス目よ。

 そこに残らないならそれは、そこまでの人間だってことよ。
 ドカンは……人間なの。私達地霊と違うわ」

 醒めた声でシアンちゃんが言った。

 「ドカンちゃん……」
 チカンちゃんは涙ぐむ。

 「どうしたんですか!」
 びっくりしてドカンちゃんはチカンちゃんにかけよる。

 「ごめんなさい、チカンちゃんを悲しませてごめんなさい。ボク良い子にします」
 そう言ってドカンちゃんはチカンちゃんを抱きしめた。

 「私はドカンちゃんが元気で健やかに育ってくれたらそれでいいんだよ、
 自分の望みとかそんなのはないよ」
 そう言いながらチカンちゃんはドカンちゃんをぎゅっと抱きしめた。






 
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