ねこのフレンズ

楠乃小玉

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三章

三話 狐

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 ワニ園の近くに動物園があった。
 そこの猿の檻の前に猿用のエサのモナカがあった。
 それを自動販売機で買って猿にあげる。

 「うっわー!きゃわいいー!きゃわわわわー!」
 チカンちゃんが興奮して何度も何度もエサをやった」

 「しかたないなあ、チカンちゃんは」
 ドカンちゃんは苦笑した。

 山の坂をどんどん登りながら地獄巡りをしていく。

 一番上にあったのがボウズ地獄

 灰色の泥の中からガスがボコボコでていてまるでお坊さんの頭みたいだから
 ボウズ地獄というのかと思った。
 でも、解説を読むと、元々この場所にはお寺があったが、
 噴火でお寺ごと吹っ飛んで全員死んでしまったそうだ。
 それからしばらくして、ここから、このボウズみたいな
 泡が泥の中から浮いてくるようになったという。

 動物園で少し遊びすぎたので午後2時半になってしまった。
 そうとう山の上まで来ているので、2時半なら6時頃までには山の頂上は
 越えられるとドカンちゃんは思った。
 地霊たちは気楽にニコニコ笑っている。あんまり時間の事は気にしていないようだ。
 一応、サバンちゃんが途中で死にそうにならないようにミネラルウオーターだけは
 たんまり買って山に登った。
 山道を登っていくと、蛇行した山道が延々続く。
 左右に何度も折り返して蛇行した道なので
 実際の想定した距離よりはるかに距離が長い。

 そして、いくら昇っても昇っても頂上につかない。

 途中、ロープーウエイの入り口にさしかかって、
 そこにある自動販売機でジュースを買って地霊たちにも分け与える。

 しだいに時間が経過していく。事前に、もしこの山を越えられなかったら
 山中のユースホステルで宿泊する計画も立てていた。
 しばらく行くと、山の中でガソリンスタンドがあった。
 お金は払うから、この場所で野宿していいかとドカンちゃんは聞いたが
 断られた。
 
 近隣にユースホステルがあるか聞いたが、そんなものは無いと言われた。

 しだいに周囲は薄暗くなってくる。
 時々、脇道に木で作った立て札があり、 
 この先下り道というような立て札があったが、
 この状況で脇道に入ると、確実に遭難するとドカンちゃんは判断した。
 しばらく進んでいくうちに、周囲は真っ暗になってしまった。
 意外な事に地霊たちは真っ暗になっても平気だった。
 「きゃっきゃ」笑っていいる。
 森の中はお手の物なのか。

 ドカンちゃんは冷静な判断を完全に失っていた。こういう山の中で真っ暗になってしまった
 場合、また仲間が低体温症になって限界が近づいている時は、
 まずスマホでバス停を探すべきだ。
 とくに山や峠を越えるときはバスの通り道を通るべきだ。
 そして、バス停を見つけたらそこまで行ってその場に自転車を放置して、
 バスで山を下山して、次の日、また自転車を取りに来ればいいのだ。
 山は人の視野を狭くする。
 その時のドカンちゃんに、そうした考えは完全に抜け落ちていた。

 葉島パークという大きな看板が見えてきた。
 この坂を下りれば遊園地がある。
 しかし、そこにホテルがなかったらどうする。
 真っ暗な遊園地。帰れなくなったらどうする。
 ダメだ!

 ドカンちゃんは真っ暗な道路を先に進むことにした。
 ふと、「死」という文字が頭に浮かんだ。
 十三日の金曜日。
 もし、これが土日でなければ船はあと1時間早く、
 港に着いていた。ならば、この山も日が沈む前に越えることができていたはずだ。

 満天にキラキラと輝く星。

 人間の死とはあっけないものだ。

 いや、この地霊の子供達を山の中に残しては死ねない。

 「ドカンちゃん、どうしたの~」
 心配そうにチカンちゃんがドカンちゃんを見る。
 
 「暗いの怖いよ~」
 サバンちゃんが言い出した。

 「シッ、ドカンちゃんに心配かけるでしょ、それを言っちゃだめ」
 シアンちゃんが口止めした。
 地霊たちも本当は怖かったんだ。自分を心配させないために
 我慢してくれて痛んだと思うと、ドカンちゃんは胸が熱くなった。

 この子たちのためにも頑張らないと!

 その時、森の中から「ギャーッ!」
 というような女の人の叫び声が聞こえた。
 驚いてドカンちゃんは森の中を見る。

 「大丈夫だよ~木霊が人間をびびらすためにやってんだよ、
 相手にすると調子にのるなら無視したらいいよ~」

 平気な顔でチカンちゃんが言う。

 「キャーッ!」

 今度は子供の叫び声。

 それも無視していると、森の中の草むらがガサガサッ!って揺れた。

 「出てこい!」
 ドカンちゃんは森に向かって怒鳴った。
 シーンとしている。

 「無視!無視!」
 チカンちゃんは言った。

 誤算だったのは山道では足こぎ式ライトが役に立たない。
 急な坂道ではライトが付くだけのスピードで自転車がこげない。
 だから、真っ暗な山道は非常に危険だ。

 「大丈夫よ!」
 シアンちゃんの目がボッと青く光って周囲を照らした。

 「さあ、早く行きましょう!」
 「はい!」
 ドカンちゃんは無理に自転車をこいだ。
 真っ暗な道の中、必死でシアンちゃんが目を燃やして光りをだしてくれている。
 しかし、いつまでもそれはつづかない。
 次第にシアンちゃんは疲れてきて、目の明かりが暗くなってくる。
 次第に辺りが暗闇に包まれる。

 「あっ!」
 一瞬ドカンちゃんの視野が暗転した。

 ドスン!
 
 大きな衝撃が体にかかった。

 何があったのか分からなかった。

 次第に冷静になってくる。
 
 ドカンちゃんは道路脇の側溝に落ちたのだ。

 勢いよく走っていたので、前輪から一回転して背中から落ちたので
 命が助かった。
 もし、頭から落ちていたら確実に死んでいた。

 「大丈夫!?ドカンちゃん!」
 チカンちゃんが駆け寄ってきた。
 「大丈夫だよ」
 ドカンちゃんは無理に笑ってみせてチカンちゃんを抱きしめた。

 「ごめんなさい、私の火力が足りないばっかりに」
 道の上からシアンちゃんがのぞき込む。

 「そんなことないですよ、シアンちゃんのおかげで命拾いしたんです」

 「だいじょうぶ~」
 サバンちゃんも心配そうにのぞき込む。

 そこに車が通る。
 「すいませ~ん!助けてくださ~い!」
 大声で叫んだが車は無視して通すぎた。
 叫んだと同時にスピードをあげたので、たぶん、
 聞こえていて、面倒に関わるのが嫌なので、無視して行ったのだろう。

 ナンバーを見ると東京ナンバーだった。
 都会から観光に来ているのだろう。
 
 「よっこらせ」
 
 ドカンちゃんは力をふりしぼって、自転車を道路にあげた。
 こういう時は不思議と興奮しているので、体中どこも痛くない。
 
 その時である。
 ヒュン!

 風を切る音がした。
 
 「ドカンちゃんはすごいんだぞ!」

 チカンちゃんが叫ぶ。

 カチン!

 音がして何かはじき飛ぶ。

 矢だった。

 ヒュン!ヒュン!ヒュン!」

 文字通り、矢継ぎ早に矢が飛んでくる。

 「ドカンちゃんはすごく優しくて勇気があって、強い子なんだ!」
 チカンちゃんの言葉とともに虹色の盾が現れて、弓をカンカンカンとはじく。


 しばしの沈黙。

 「アイキャンフライ!」
 シアンちゃんが側溝の中に飛び込む。
 バシャン!

 側溝の中にたまった水たまりから水が飛ぶ。
 
 シアンちゃんは右手を天にかざす。

 「ウオーターキューブ!」

 シアンちゃんがそう叫ぶシアンちゃんの手から大量の水が噴射され、
 瞬時に巨大な四角い水の塊がドカンちゃんたちの頭上にできた。

 「てい!」
 シアンちゃんが叫ぶとその巨大な水の塊は頭上にあがっていく。
 
 バシャバシャバシャ!激しい水音がする。

 その巨大な水の塊に天から振ってきた槍が刺さる。
 
 「うおりゃああああー!」
 叫びながらシアンちゃんがそれを横に投げ捨てる。

 シアンちゃんが防御していなかったら今頃、ドカンちゃんたちは槍で串刺しになっていた。

 「これは言霊よ!最初が矢継ぎ早、次が雨のかわりに槍が降る。みんな比喩表現よ!
 こんな力、妖怪は仕えない。これは、まさしく神通力を持った狐!」
  
 シアンちゃんが叫んだ。

 「どこだ!どこにいるんだ狐め!」
 チカンちゃんが闇雲に目から光線を発射するが、その光は
 むなしく森の中に消えていく」

 「狐なんだ……ボクが……ボクが慢心して狐さんのお賽銭の額を平等にしなかったから……
 ごめんなさい……ごめんなさい……」
 
 ドカンちゃんは唇をかみしめる。

 「そんなの後だよ!今は戦うんだ!」

 チカンちゃんが叫ぶ。

 森中からガサガサと木人が混紡を持ってあらわれる。

 「デクノ坊だわ!」

 シアンちゃんが叫ぶ。

 「これでも食らえ!」

 シアンちゃんは手から火の玉を発射してデクノ坊を吹き飛ばすが、
 デクノ坊はすぐに立ち上がる。
 
 「ダメだは、こいつら、濡れて腐って水分を吸い込んだ木でできているから
 私の攻撃がつうじない」

 シアンちゃんは何度も必死で火の玉を発射するが、今まで明るくするために
 火の力を使っているので、もう火の玉が出なくなってしまった。

 シアンちゃんは一人、道路の上で孤立している。
 「シアンちゃん、早く、こっちに飛び込んで!」
 ドカンちゃんが叫ぶ。
 「だめよ、そっちは水の入った側溝ですもの。どっちにしろ死んじゃう」

 「ドカンさん、いままでありがとう。とても楽しかったわ、サバンちゃんを
 よろしく頼むわ」

 

 シアンちゃんの背後にデックノ坊たちが迫り、水をいっぱい含んだ混紡を一斉にふりあげる。
 シアンちゃんが微笑んだ。

 
 「ふふっ……ホントは好きだったのよ」

 バスッ!

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