ねこのフレンズ

楠乃小玉

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三章

五話 阿蘇

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 九重町のやまなみハイウエイをひたすら南下する。
 途中で耳の垂れた大型犬が寄ってきてしつこくドカンちゃんについてきた。

 この犬は一時期サイクリングをする人たちの間で有名で、
 何人もの人がこの場所でこの犬につきまとわれている。
 別に害があるわけではなく、この場所を自転車で通る人の
 道しるべのようなものであった。

 そこからひたすら南下する。

 肋骨にヒビが入っていることもあって、ドカンちゃんはあまり
 無理ができない。

 道が山道から平地の里山に入った場所でお宿を探した。

 ちょうど道沿いに白い看板に横文字で大きく「民宿大上」と書いた文字が見えた。

 「ここに泊まりましょうか」
 ドカンちゃんがそう言うとチカンちゃんが「うん」
 と言った。

 「私たちには聞かないわけ?」

 シアンちゃんが後ろから二人乗り自転車をこぎながら言ってくる。

 「あ、すいません、どうですかシアンちゃん」
 「いいわよ、どこだって。私は温泉には入らないわけだし」
 「ボクは入るよ~」

 シアンちゃんの後ろからサバンちゃんが言ってきた。

 「じゃあ、ここにしましょう」

 ここの民宿はおじいさんとおばあさんがやってきて、宿泊費は五千円。
 安くてご飯もついていて、お風呂もあった。
 お風呂は別棟にある個室で、ゆっくり入ることができた。
 とてもよいお宿だった。

 そのあと、まっすぐいくと筋湯温泉があり、九州電力の発電施設のようなものがあった。

 そこからまっすぐ行くと合頭山という大きな山があったので、その山を西に避ける
 迂回路に進んだ。

 迂回路は比較的平坦で、森を抜けると阿蘇に行く道とドライブインがあった。

 そこでドカンちゃんとチカンちゃんは菓子パンを買い、サバンちゃんには天然水をあげ、
 シアンちゃんには新聞をあげた。

 サバンちゃんはおいしそうに天然水を飲み、シアンちゃんはおいしそうに新聞紙を食べた。

 ドライブインから少し行った道で、
 おじさんが山で取ったという自然薯を売っていたので、
 それを買ってドカンちゃんの家に送った。

 そこから先はとにかく真っ平らの大草原。

 一面に平らな草原がひろがっている。

 「うわーすごーい!もしかして、ここが古代、高天が原って言われていたばしょかな」

 ドカンちゃんがつぶやいた。

 「そうかもしれないね」

 チカンちゃんが言った。

 すごく、広い広い高原を抜けると、そこから下り座かがあって、
 阿蘇町という看板があった。この向こうに阿蘇の町があるのだ。

 その坂を下っているとそこに小さな女の子が飛び出してくる。

 
 「待ったーっ!」

 ドカンちゃんは急ブレーキを踏む。
 ズキッと肋骨が痛む。
 「危ないですよ、どうしたんです」
 
 見ると、チカンちゃんよりも半分くらいの大きさの
 小さな女の子が背中に巨大な刀を背負ってズルズルひきずっている。

 頭にはこげ茶色のグラデーションの耳がついている。

 「あなたは誰ですか」

 「私はシンガプーラの地霊、シンガだよ!」
 シンガは言った。

 この子は目がくりっと丸くて目の周りに歌舞伎みたいな黒いクマドリがはいっている。

 「何なんですか、その背中の刀は」

 「これは蛍丸だよ!」
 
 シンガは言った。

 「ところで何のご用ですか」

 「あ、そうだ。至急この先の一閑稲荷神社に来てほしいんだ」

 「はい、分かりました」
 
 ドカンちゃんは大きな刀を背中に背負ってズルズル引きずっている女の子に
 連れられて神社の敷地に入っていった。

 神社なのに、入ったところに石のお地蔵様がかざってあった。

 その向こうにわき水があった。

 「わーい!アイキャンフライ!」
 
 サバンちゃんが喜んでわき水に飛び込んでエネルギーを補給した。

 そのまま坂道をどんどん上がっていくと、鳥居がいくつもあって、
 それをくぐっていくと、そこには真っ赤なお社があった。

 「はい、ここで謝って」
 
 「はい?」

 ドカンちゃんは首をかしげた。

 「だから、謝ってってば」

 「何ですか?」

 「今、赤狐が石虎に追いかけられて伏見稲荷を目指しているんだ。
  もし赤狐が伏見稲荷に逃げ込んだら石虎一人と全国の狐総掛かりになる。
 そうしたら、いくら石虎だって殺されちゃうよ。
 赤狐は君が失礼を謝罪してくれるなら、これ以上危害は加えないと言っている。
 石虎は赤狐がこれ以上君に危害を加えないなら赤狐をおっかけないって言ってる。
 わかるね」

 「え!?そんな事になってたんですか!すいません、ごめんなさい、すぐ謝ります」

 「私じゃなくてお稲荷様に謝ってね」
 
 ドカンちゃんはお稲荷様のお社の前に進み出た。

 「お稲荷様ごめんなさい、ボクは慢心して神社の神様に格差をつけるような
 失礼な事をしてしまいました。知らずにやったこととはいえ、
 本当に失礼な事をしてしまいました。
 ごめんなさい。心からお詫びもうしあげます。
 また、何か思い違いをしていたら、どうかご指導ください」

 ドカンちゃんは深々と頭をさげた。

 「素直でよろしい!では、阿蘇を案内してあげるよ」

 「あれ、シンガさんはここのお使いじゃないんですか?」
 
 「私は阿蘇の地霊さ。どこかの神社のお使いではないよ」

 「そうなんですね」

 「ではまず阿宗神社から」
 
 「はい」
 
  シンガに案内された阿宗神社はすばらしい神社だった。

 立派な御門に美しいご本社。

 そして、驚いたのはこの神社には兵庫県高砂市にあった
 高砂の松が移植されていることだった。

 この神社にお参りしながらドカンちゃんが考えていた事は
 サバンちゃんの事だった。
 あの由布岳の山の中、もしセキコがやってこなかったら
 サバンちゃんの命は失われていた。
 自分がふがいないと思った。
 もっと、もっと力が欲しい。
 みんなを守れる力がほしい。

 ドカンちゃんは心の中で精一杯阿蘇の大明神に祈った。

 『みんなを守れる強大な力が欲しいです』
 そして神社を出た。


 「では、よい旅を!阿蘇のお山は御神火が神様なので、ぜひ見ていきなさい」
 笑顔でシンガは手を振った。

 「お心使いありがとうございます!」

 ドカンちゃんは深々と頭をさげて、猫の地霊たちとともに阿蘇を後にした。
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