90 / 113
三章
六話 ヤカタガウド登山口
しおりを挟む
阿蘇の街を出てドカンちゃんたちはまっすぐ南に向かった。
南にそびえ立つ山、阿蘇を目指して。
しかし、途中まで来て阿蘇山に登る道がない事に気づく。
「おかしいなあ、こっちでいいはずなんだけど」
ドカンちゃんは首をひねる。
道路標識には「この先、高森」と書いてある。
しばらく行くと西側に登る山道を発見。
ドカンちゃんたちはそこを登っていったが、道はどんどん荒れてきて
とても観光地の道路とは思えない。
ついには、舗装道路が無くなって、目の前に砂防ダムと散乱した岩だらけの
小道があるだけになった。
「これはヤバイよ、ドカンちゃんもう帰ろう」
チカンちゃんが言った。
「だめだよ、シンガさんと約束したんだ。自分の都合とか
楽しようとか、そういう事で阿蘇のご神火にご挨拶しないわけにはいかないよ」
「違うよ!危ないと思ったら引き返す!それが本当の神の道だよ!
無理に登山してケガしたりあぶない目にあったり、
神様はそんな事、望んでいないよ!」
「でも、こんなところで諦めたくないんだ」
「う~ん」
チカンちゃんは考え込んでしまった。
「まあ、心配しなさんなって。いざとなったら私たちが付いてるから」
後ろからシアンちゃんが言った。
「そう……だね……無理だと思ったら、すぐ引き返すんだよ、
それだけは約束してね」
「うん、ありがとう、チカンちゃん!」
ドカンちゃんは満面の笑みを浮かべた。
ドカンちゃんたち、その場所に自転車を置いて、山を登り始めた。
`ヤカタガウド登山口`
そんな小さな木の立て札が立っていた。
「ほら、ここは登山口なんだ。みんな登ってるんだよ」
そう言ってドカンちゃんは笑った。
しばらく山を登っていくと、その場所に古びたわらぶき屋根の屋敷があった。
まるで江戸時代の頃の建物のようだ。
こんな山奥にどうやって建てたのだろうと、ドカンちゃんは不思議に思った。
周囲を見ると、少し日がかげっていた。
「ドカンちゃん、無理しちゃだめだよ」
チカンちゃんが言った。
「そうですね、この前無理して先に行って真っ暗になってしまいましたからね。
今日はここで宿泊させていただきましょう」
ドカンちゃんはわらぶき屋根の旅館に入っていった。
「すいません」
すると、奥から着物を着て、江戸時代の娘さんみたいな髪の毛を結ったお女中さんが出てきた。
ドカンちゃんはちょっとギョッとしてその女の人の頭を凝視してしまっった。
「あ、これですか、これは今、江戸町娘フェアーをやっていて、
コスプレなんですよ」
女の人はそう言ってニッコリ笑った。
頭から日本てぬぐいをかぶって、耳を隠している。
女の子人はチカンちゃんたちの目を向ける。
「まあ、かわいい地霊さんたち、みんなで四人でございますね、こちらへどうぞ」
女の人はドカンちゃんたちを部屋に案内した。
「どうぞ、お疲れだったでしょう。すぐにご飯を作りますから
その間にお風呂に入っておいてくださいな。ここの奥にお風呂がありますから」
女の人はそう言ってニッコリ笑い、さがっていった。
「おかしいよドカンちゃん」
チカンちゃんが言った。
「何がですか?」
「だって、あの女、私達の事、地霊って言ってた。
人間は私達が見えても、子供とかお嬢ちゃんって言うのに、はじめて、地霊って言われた。
しかも、全然驚いていない。あれは絶対おかしい。
念のために、スマホのグルグルマップで現在位置を確認してみて」
「あ、はい……あれ?ここは阿蘇山の隣の猫岳になってる。でも、隣だから、
ここから阿蘇山に行けますよね」
「行けるかどうかはグルグルマップに道路標示があるから、横の黄色い人型を
ドラッグして道の上に落としてみなよ。そうすればいけるかどうか分かるし、
周囲の状況がわかる」
「あれ?ここ、道がありませんよ」
「それから、グルグルマップの航空写真を見るんだ。ここの位置がどうなっているかを」
「あ、はい」
ドカンちゃんは、なにげなくスマートフォンのグルグルマップの地図を航空写真に切り替えた。
「あ!」
ドカンちゃんの背筋が凍り付く。
そこは土石流に埋もれて灰色の土が剥き出しになっているただの荒れ地だった。
人家など一つもない。
「ここに……人家なんてない!」
「やばいよ、すぐ逃げよう!」
「そうだね!」
「いそぎましょ!」
「え~食事は~」
「そんな事言ってる場合じゃないのよ!」
四人は急いで屋敷の玄関まで来た。
「おやおや、どこに行かれるのですか」
着物姿の女中さんが呼び止める。
「あの、急用を思い出したので、今日は帰ります」
「おやおや、そうおっしゃっても、一度泊まったかぎりは
お題金はいただきますよ」
「わかりました。おいくらですか」
すると女中はニヤリと笑った。
「それはね~……お前たちの命だよ!」
そう言うと、女中の口が耳まで裂けて頭からネコ耳が飛び出した。
「ぶっ殺してやる!」
口を大きく開いて牙をむきだしにした。
「にげろーっ!」
ドカンちゃんが叫ぶとともに、みんな逃げ出した。
「やってしまえ!やってしまえ!」
化け猫の女が叫ぶと、屋敷の中から手に木の桶と柄杓を持った
化け猫の女たちがワラワラと出てくる。
「お前達、猫になってしまえ!」
叫びながら桶の中のお湯をすくって、ドカンちゃんたちに向かってかけた。
バシャン!
サバンちゃんの頭にお湯がかかる。
「ぎゃーっ!ネコ耳が生えた-!」
サバンちゃんが叫ぶ。
「あんた、元からでしょ!」
シアンちゃんが突っ込みを入れる。
「猫になってしまえー!」
ドカンちゃんの前に化け猫が飛び出してきて、柄杓で水をかける。
バシャッ!
「うわっ!」
ドカンちゃんは思わず、右手でその水を払いのけてしまう。
ボワッ!と右手が猫の毛だらけになる。
「う、うわあっ!」
「こいつめ!」
チカンちゃんが化け猫に跳び蹴りを食らわせる。
「ギャッ!」
化け猫が吹っ飛ぶ。
「チカンちゃん、ドカンちゃん、早く逃げて、ここは私達が食い止めるわ!」
シアンちゃんが叫ぶ。
「だって、相手は水ですよ!一緒に逃げましょう!」
ドカンちゃんが叫ぶ。
「ふふふっ、ここを何処だとおもっているの?ここは活火山よ」
そう言ってシアンちゃんはニヤリと笑う。
「フン!」
シアンちゃんが右足を強く踏みつけると、足が地中にめり込む。
そこからバリバリバリッと四方八方に真っ赤なマグマの亀裂が走る。
「ムカチャッカボルケーノー!」
叫びながらシアンちゃんは大量のマグマの火柱を口から吐き出す。
「ぎゃああああああああー!」
後ろから追ってきていた何百人もの化け猫が一瞬にして蒸発する。
「うわっ、シアンちゃん、皆殺しにしちゃったんですか!?」
「大丈夫よ、火で水は死なない。蒸発しただけで、半日もすれば
元にもどるわ」
そう言ってシアンちゃんがニヤリと笑った。
「てめえら、ふざけやがって、このクロヒョウの地霊、コクヒョウ様が相手だ!」
五メートルセンチほどのがっちりとした体の黒い鎧を身につけた女武者の巨人が突進してきた。
頭の髪の毛は黒でオールバック。頭からネコ耳が出ている。
「食らいなさい!ムカチャッカボルケーノー!」
しかしコクヒョウはマグマの柱を胸板で跳ね返す。
「こいつ!土の属性ね、頼んだわよ、チカンちゃん」
そう言ってシアンちゃんが飛び退く。
「任された!よしドカンちゃん、友情パワーだ!」
「うん、分かったよ!」
二人は声を合わせた。
「二人の友情の証、友情パーンチ!」
突進してくるコクヒョウにドカンちゃんとチカンちゃんの友情パンチが炸裂する。
「うわあああああああー!」
コクヒョウは猫岳を越えて阿蘇山を越えて免の石のある場所まで吹っ飛んだ。
ドドーン!遠くの方に巨大な土煙があがった。
「よし、やっつけたよチカンちゃん!」
笑顔でドカンちゃんがチカンちゃんを見る。
「クッ……」
苦痛に顔を歪めてチカンちゃんが腕を押さえている。
そこから血が一筋流れている。
「チカンちゃん!」
「な、なんでもないよ」
チカンちゃんは無理に笑顔を作ってみせた。
「これは大変だわ!ドカンちゃんの右手が猫化している。人間は木日土金水の
すべての要素を持っている。だから、すべての地霊をダッコしたりなでられる。
でも、その力がひとたび攻撃に転じると、すべての属性の地霊を傷つけてしまうのよ。
だから、人間はどんな妖怪でも倒せるの」
シアンちゃんが言った。
「え、そんな!じゃあ、もう友情パワーを使えないんですか」
「そうよ、あなたはもう一人で戦える力を得たわ。人はいつか独り立ちして
一人で戦わなければならないのよ!」
「そんな!そんな!」
ドカンちゃんは動揺した。
「大丈夫だよ、これからも一緒に友情パンチで戦おう……」
チカンちゃんは歯を食いしばって無理に笑顔を作る。
「だめだよ、大切なチカンちゃんを傷つけるわけにはいかない!」
その時である。
「てめえ、よくもウチの若いもんかわいがってくれたな」
出てきたのは虎ガラの髪の毛に耳、
大きな胸がはち切れんばかりに盛り上がった
短い丈の花魁すがた。
あらわになった太もも。
鉄の高下駄。
身長
二メートルあまりのスタイル抜群の化け猫女だった。
「私は虎の化身のトラコだ。ここの王様だよ、まさか、私直々に相手をすることになろうとはね」
トラコは拳をボキボキッとならした。
「ムカチャッカボルケーノー!」
シアンちゃんがマグマを発射する。
トラコはそれを素早く避けると、一瞬にしてサバンちゃんのところまで来て、
シアンちゃんを掴むと、遠くまで放り投げた。
「きゃーっ!」
シアンちゃんは、山の麓まで飛んでいった。
「あいつも、すぐこっちに戻ってくるだろう。それまでに、
ここの連中を全員ぶっ殺さないとな」
そう言ってトラコはドカンちゃんを睨み付ける。
「こいつめ!こいつめ!」
サバンちゃんが水弾をトラコに当てるが、トラコは平気な顔をしている。
「やばい!こいつ、水が効かない。たぶん、土か金だよ!」
サバンちゃんが叫んだ。
南にそびえ立つ山、阿蘇を目指して。
しかし、途中まで来て阿蘇山に登る道がない事に気づく。
「おかしいなあ、こっちでいいはずなんだけど」
ドカンちゃんは首をひねる。
道路標識には「この先、高森」と書いてある。
しばらく行くと西側に登る山道を発見。
ドカンちゃんたちはそこを登っていったが、道はどんどん荒れてきて
とても観光地の道路とは思えない。
ついには、舗装道路が無くなって、目の前に砂防ダムと散乱した岩だらけの
小道があるだけになった。
「これはヤバイよ、ドカンちゃんもう帰ろう」
チカンちゃんが言った。
「だめだよ、シンガさんと約束したんだ。自分の都合とか
楽しようとか、そういう事で阿蘇のご神火にご挨拶しないわけにはいかないよ」
「違うよ!危ないと思ったら引き返す!それが本当の神の道だよ!
無理に登山してケガしたりあぶない目にあったり、
神様はそんな事、望んでいないよ!」
「でも、こんなところで諦めたくないんだ」
「う~ん」
チカンちゃんは考え込んでしまった。
「まあ、心配しなさんなって。いざとなったら私たちが付いてるから」
後ろからシアンちゃんが言った。
「そう……だね……無理だと思ったら、すぐ引き返すんだよ、
それだけは約束してね」
「うん、ありがとう、チカンちゃん!」
ドカンちゃんは満面の笑みを浮かべた。
ドカンちゃんたち、その場所に自転車を置いて、山を登り始めた。
`ヤカタガウド登山口`
そんな小さな木の立て札が立っていた。
「ほら、ここは登山口なんだ。みんな登ってるんだよ」
そう言ってドカンちゃんは笑った。
しばらく山を登っていくと、その場所に古びたわらぶき屋根の屋敷があった。
まるで江戸時代の頃の建物のようだ。
こんな山奥にどうやって建てたのだろうと、ドカンちゃんは不思議に思った。
周囲を見ると、少し日がかげっていた。
「ドカンちゃん、無理しちゃだめだよ」
チカンちゃんが言った。
「そうですね、この前無理して先に行って真っ暗になってしまいましたからね。
今日はここで宿泊させていただきましょう」
ドカンちゃんはわらぶき屋根の旅館に入っていった。
「すいません」
すると、奥から着物を着て、江戸時代の娘さんみたいな髪の毛を結ったお女中さんが出てきた。
ドカンちゃんはちょっとギョッとしてその女の人の頭を凝視してしまっった。
「あ、これですか、これは今、江戸町娘フェアーをやっていて、
コスプレなんですよ」
女の人はそう言ってニッコリ笑った。
頭から日本てぬぐいをかぶって、耳を隠している。
女の子人はチカンちゃんたちの目を向ける。
「まあ、かわいい地霊さんたち、みんなで四人でございますね、こちらへどうぞ」
女の人はドカンちゃんたちを部屋に案内した。
「どうぞ、お疲れだったでしょう。すぐにご飯を作りますから
その間にお風呂に入っておいてくださいな。ここの奥にお風呂がありますから」
女の人はそう言ってニッコリ笑い、さがっていった。
「おかしいよドカンちゃん」
チカンちゃんが言った。
「何がですか?」
「だって、あの女、私達の事、地霊って言ってた。
人間は私達が見えても、子供とかお嬢ちゃんって言うのに、はじめて、地霊って言われた。
しかも、全然驚いていない。あれは絶対おかしい。
念のために、スマホのグルグルマップで現在位置を確認してみて」
「あ、はい……あれ?ここは阿蘇山の隣の猫岳になってる。でも、隣だから、
ここから阿蘇山に行けますよね」
「行けるかどうかはグルグルマップに道路標示があるから、横の黄色い人型を
ドラッグして道の上に落としてみなよ。そうすればいけるかどうか分かるし、
周囲の状況がわかる」
「あれ?ここ、道がありませんよ」
「それから、グルグルマップの航空写真を見るんだ。ここの位置がどうなっているかを」
「あ、はい」
ドカンちゃんは、なにげなくスマートフォンのグルグルマップの地図を航空写真に切り替えた。
「あ!」
ドカンちゃんの背筋が凍り付く。
そこは土石流に埋もれて灰色の土が剥き出しになっているただの荒れ地だった。
人家など一つもない。
「ここに……人家なんてない!」
「やばいよ、すぐ逃げよう!」
「そうだね!」
「いそぎましょ!」
「え~食事は~」
「そんな事言ってる場合じゃないのよ!」
四人は急いで屋敷の玄関まで来た。
「おやおや、どこに行かれるのですか」
着物姿の女中さんが呼び止める。
「あの、急用を思い出したので、今日は帰ります」
「おやおや、そうおっしゃっても、一度泊まったかぎりは
お題金はいただきますよ」
「わかりました。おいくらですか」
すると女中はニヤリと笑った。
「それはね~……お前たちの命だよ!」
そう言うと、女中の口が耳まで裂けて頭からネコ耳が飛び出した。
「ぶっ殺してやる!」
口を大きく開いて牙をむきだしにした。
「にげろーっ!」
ドカンちゃんが叫ぶとともに、みんな逃げ出した。
「やってしまえ!やってしまえ!」
化け猫の女が叫ぶと、屋敷の中から手に木の桶と柄杓を持った
化け猫の女たちがワラワラと出てくる。
「お前達、猫になってしまえ!」
叫びながら桶の中のお湯をすくって、ドカンちゃんたちに向かってかけた。
バシャン!
サバンちゃんの頭にお湯がかかる。
「ぎゃーっ!ネコ耳が生えた-!」
サバンちゃんが叫ぶ。
「あんた、元からでしょ!」
シアンちゃんが突っ込みを入れる。
「猫になってしまえー!」
ドカンちゃんの前に化け猫が飛び出してきて、柄杓で水をかける。
バシャッ!
「うわっ!」
ドカンちゃんは思わず、右手でその水を払いのけてしまう。
ボワッ!と右手が猫の毛だらけになる。
「う、うわあっ!」
「こいつめ!」
チカンちゃんが化け猫に跳び蹴りを食らわせる。
「ギャッ!」
化け猫が吹っ飛ぶ。
「チカンちゃん、ドカンちゃん、早く逃げて、ここは私達が食い止めるわ!」
シアンちゃんが叫ぶ。
「だって、相手は水ですよ!一緒に逃げましょう!」
ドカンちゃんが叫ぶ。
「ふふふっ、ここを何処だとおもっているの?ここは活火山よ」
そう言ってシアンちゃんはニヤリと笑う。
「フン!」
シアンちゃんが右足を強く踏みつけると、足が地中にめり込む。
そこからバリバリバリッと四方八方に真っ赤なマグマの亀裂が走る。
「ムカチャッカボルケーノー!」
叫びながらシアンちゃんは大量のマグマの火柱を口から吐き出す。
「ぎゃああああああああー!」
後ろから追ってきていた何百人もの化け猫が一瞬にして蒸発する。
「うわっ、シアンちゃん、皆殺しにしちゃったんですか!?」
「大丈夫よ、火で水は死なない。蒸発しただけで、半日もすれば
元にもどるわ」
そう言ってシアンちゃんがニヤリと笑った。
「てめえら、ふざけやがって、このクロヒョウの地霊、コクヒョウ様が相手だ!」
五メートルセンチほどのがっちりとした体の黒い鎧を身につけた女武者の巨人が突進してきた。
頭の髪の毛は黒でオールバック。頭からネコ耳が出ている。
「食らいなさい!ムカチャッカボルケーノー!」
しかしコクヒョウはマグマの柱を胸板で跳ね返す。
「こいつ!土の属性ね、頼んだわよ、チカンちゃん」
そう言ってシアンちゃんが飛び退く。
「任された!よしドカンちゃん、友情パワーだ!」
「うん、分かったよ!」
二人は声を合わせた。
「二人の友情の証、友情パーンチ!」
突進してくるコクヒョウにドカンちゃんとチカンちゃんの友情パンチが炸裂する。
「うわあああああああー!」
コクヒョウは猫岳を越えて阿蘇山を越えて免の石のある場所まで吹っ飛んだ。
ドドーン!遠くの方に巨大な土煙があがった。
「よし、やっつけたよチカンちゃん!」
笑顔でドカンちゃんがチカンちゃんを見る。
「クッ……」
苦痛に顔を歪めてチカンちゃんが腕を押さえている。
そこから血が一筋流れている。
「チカンちゃん!」
「な、なんでもないよ」
チカンちゃんは無理に笑顔を作ってみせた。
「これは大変だわ!ドカンちゃんの右手が猫化している。人間は木日土金水の
すべての要素を持っている。だから、すべての地霊をダッコしたりなでられる。
でも、その力がひとたび攻撃に転じると、すべての属性の地霊を傷つけてしまうのよ。
だから、人間はどんな妖怪でも倒せるの」
シアンちゃんが言った。
「え、そんな!じゃあ、もう友情パワーを使えないんですか」
「そうよ、あなたはもう一人で戦える力を得たわ。人はいつか独り立ちして
一人で戦わなければならないのよ!」
「そんな!そんな!」
ドカンちゃんは動揺した。
「大丈夫だよ、これからも一緒に友情パンチで戦おう……」
チカンちゃんは歯を食いしばって無理に笑顔を作る。
「だめだよ、大切なチカンちゃんを傷つけるわけにはいかない!」
その時である。
「てめえ、よくもウチの若いもんかわいがってくれたな」
出てきたのは虎ガラの髪の毛に耳、
大きな胸がはち切れんばかりに盛り上がった
短い丈の花魁すがた。
あらわになった太もも。
鉄の高下駄。
身長
二メートルあまりのスタイル抜群の化け猫女だった。
「私は虎の化身のトラコだ。ここの王様だよ、まさか、私直々に相手をすることになろうとはね」
トラコは拳をボキボキッとならした。
「ムカチャッカボルケーノー!」
シアンちゃんがマグマを発射する。
トラコはそれを素早く避けると、一瞬にしてサバンちゃんのところまで来て、
シアンちゃんを掴むと、遠くまで放り投げた。
「きゃーっ!」
シアンちゃんは、山の麓まで飛んでいった。
「あいつも、すぐこっちに戻ってくるだろう。それまでに、
ここの連中を全員ぶっ殺さないとな」
そう言ってトラコはドカンちゃんを睨み付ける。
「こいつめ!こいつめ!」
サバンちゃんが水弾をトラコに当てるが、トラコは平気な顔をしている。
「やばい!こいつ、水が効かない。たぶん、土か金だよ!」
サバンちゃんが叫んだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる