ねこのフレンズ

楠乃小玉

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第八話 いっぱい泣いた

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 「らんららんららん!楽しいなったら、たのしいな、
 ボクのこと、すご~いっていってくれたんだよ!
 ボクがすご~いんだって!ぼくがだよ!うふふふふっ」
 
 ドカンちゃんはスキップしながら木戸さんの家に向かっていた。
 
 目の前に体操着にジャージを着たおじさんが立ちはだかる。 
 「え?」
 ドカンちゃんはちょっと怖かった。
 「君が白井君か」
 そのおじさんは言った。
 「な、なんですか」
 
 「親戚のおばさんから聞いたぞ、
 何やってんだ、みんなが学校に行ってる時に
 こんなところでフラフラして」
 
 「え?いや仕事を……」

 「仕事?泥遊びだろ、いつまでそんなことやってるつもりだ、
 一生出来る仕事じゃないだろ、

 お前のために言ってやってるんだぞ、
 
 白井」
 
 「あの、あなた誰ですか」

 「鬼塚ヨットスクールのコーチの木築キチクだ。」
  木築はドカンちゃんの手を強く握った。
 「え、あ、いたい」
 
 かまわず木築はぐいぐいドカンちゃんの手を引っ張る。
 ドカンちゃんは家に連れ戻された。
 
 家にはお母さんと親戚のおばさんがいた。
 お母さんはすごく憔悴していて、
 顔色が青かった。
 
 「ホント、何してらっしゃるの、
 うちの一族で大学を出てない子なんていないのよ、
 あーいやだ、だから私はあなたみたいな短大出と結婚するなって
 信志ノブユキさんには言ったのよ」

 信志とはドカンちゃんのお父さんの名前だ。
 
 「安心してください、鬱や引きこもりなんて甘えなんです、
 ウチでびしっとたたき直してやりますから」
 木築が言った。
 
 「え、イヤ、イヤだ、せっかく褒められたのに、生まれて初めて褒められたのに」
 「甘えるな!肉体労働者なんて社会の底辺だろ、それが褒められて何が嬉しいんだ!」
 「お庭のお仕事を馬鹿にしないでください、すごく大切なお仕事なんです。
 お家に住んでる人達を幸せにするお仕事なんです!」

 「そんなもの逃げだ!現実を直視しろ!」
 木築がドカンちゃんの手を掴もうとする。
 
 「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだああああああああああああ、
あああががああああああああああああああああ!」

 ドカンちゃんは壁に頭を打ち付けた。
 「ああああああがあああああああああ」
  額から鮮血が飛び散る。

 「ひいっ!」
 親戚のおばさんがどん引きする。

 「へへへ、大丈夫、こういう連中が芝居するのには慣れてますから。
 こいつら、世間の同情を引こうとすぐ、芝居するんですよ。
 こい!」
 木築はどかんちゃんの髪の毛を掴んで、引き倒した。
 
 「やめろ!」
 
 叫んだのはドカンちゃんのお母さんだった。
 「うちのドカンちゃんを離せ!」
 
 「は?あんたが雇ったんでしょうが」
 「あんたなんか雇わない、金なんて払わない」
 
 「ちょっと待ってよ、どういう事よ」
 木築はおばさんの方を見る。
 
 「だって、ほら、こんなダメな子、マトモな親なら
 なんとかしたいと思うじゃない。だから、あなたを
 呼んだら、当然、親なら同意するはずでしょ、
 マトモな親なら」
 「え?同意取ってないの?」
 
 「私の子供から離れろ!」
 お母さんは木築からドカンちゃんを引き離し、強く抱きしめた。
 「ごめんね、ドカンちゃん、こんなダメなお母さんで、
 ごめんね、ドカンちゃんの事大好きだから、
 私、お母さんだから、ドカンちゃんの事、命がけで守るから」

 ドカンちゃんはただ呆然としながらが虚空を眺めていた。
 ドカンちゃんの目からポロポロと涙がこぼれた。

 「本日の出張料は、奥様からお支払いいただくということでよろしいでしょうか」
 木築の口調が急に敬語になる。

 「な、なんで私が他人の子供のためにお金を出さないといけないのよ!」
 「分かりました、では、債権回収機構のほうにこの案件は回しておきますね」
 「ひいっ、分かったわよ、払えばいいんでしょ、この底辺の肉体労働者が!」
 おばさんは、財布から一万円札を数枚だして木築に叩き付けた。

 木築は無表情にそれを何枚か拾い上げ、
 料金を計算して残りを地面に投げ捨てた。

 そのあと、満面の笑みを浮かべて一礼した。
 「このたびは、お買い上げありがとうございました」
 そして去っていった。

 ドカンちゃんは部屋の中にトボトボと歩いていった。
 そして、引きっぱなしにしている布団の上につっぷした。

 「ナイス!」
 ドカンちゃんが顔を上げると、そこにはチカンチャンちゃんが居た。
 「何がナイスだよ」
 
 「すごいじゃん!感情出したじゃん!」

 「恥ずかしいよ、ボクのわめき声、近所まで聞こえてるよ」
 「最高!」
 
 「何が最高なの?馬鹿にしてるの?」

 「違うよ、どんな形でも自分の感情を表に出したことはすごいんだよ!
 みんな我慢して、我慢して、そして心が壊れちゃうんだ、
 ドカンちゃんは心が壊れる前に自己主張したんだ。そして、
 自分で自分を救ったんだよ!すごいよ!」

 「すごいの?」
 「すごいよ!」

 「スーパー英雄級にすごいよ!」
 「ウソだ!」
 
 「ウソじゃないよ!」
 「じゃあ、私みたいに自己主張しない人はどこにいるの?」
 「世間のほとんどの人がそうだよ!
 みんなビクビクして、人の顔色をうかがって、
 脅されたら怖くて、立ちすくんで何もできない。
 人間には二種類居る。
 そこから一歩踏み出して生き残る人、
 踏み出せないでそのままそこで死んでいく人。
 ドカンちゃんは生き残ったんだよ!」

 そう言ってチカンちゃんはドカンちゃんをぎゅっと抱きしめた。

 「おかえり、私達の国へ、ようこそ、ねこのフレンズの国へ」
  ドカンちゃんはぎゅっとチカンちゃんを抱きしめた。
 「わあああああああー、ごめんなさいいいいいー、
 こころの弱い子でごめんなさいーーあああああああ」
 ドカンちゃんは大声で叫んだ。

 「大丈夫、大丈夫、ドカンちゃんはすごいんだよ、
 悪魔と戦って生きて帰ってきたんだよ」
 
 「そうなのかな」
 「そうだよ」
 
 「ドカンちゃんはすっごく優しい子なんだよ、だから、こんなに傷ついて苦しむんだよ、
 その傷の一つ、一つが、優しい魂の勲章なんだよ」

 「そうなの」
 「そうだよ」
 
 「ううう……」
 ドカンちゃんは目からボロボロと涙を流した。
 「えらいね、ドカンちゃんはちゃんと泣いて」
 「泣くのは偉いの?」
 「偉いよ、泣くことができなくて心が壊れて天の国に
 いっちゃった人は沢山いるよ。
 泣けることは生きている証拠。
 泣くことは生きている者の権利。
 だから、いっぱい泣こうね」
 
 「うん、ううう、ああああ、ううううう、はあ、はあ、はあ、、うっ、うっ、うっ、
 あー、、うううああああ」

 ドカンちゃんはチカンちゃんをいっぱい抱きしめて、いっぱい泣いた。
 
 よかった、自分が生きられる場所に戻ってくることができた。
 
 ドカンちゃんはうれしかった。
 「チカンちゃん大好き」
 「私もドカンちゃん大好き」
 チカンちゃんはぎゅっとドカンちゃんを抱きしめてきた。

 注意※
 作者は似たような体験があります。
  

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