どこまでも付いていきます下駄の雪

楠乃小玉

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四十八話 こういう連中を用いてはならぬ

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 元実は伊賀衆の仕事ぶりを監視する役回りとして
 藤林としばらく同行するよう命じられた。

 父、一宮宗是は武田からの要請で信濃へ手伝い戦に行き、
 元実だけ取り残されていた。

 藤林はまず、伊賀衆五十人ばかりを伊賀国より船で呼び寄せ、
 駿河に到着したばかりのところを広場に集めた。

 「それで、これから始めることについて話すが……山」

 藤林が突然脈絡のない事を言うと、伊賀衆は一斉にしゃがんだ。

 その中で座り遅れたもの三人ほどを周囲の伊賀衆が取り押さえた。

 あとで詳細の取り調べると、それらは伊賀衆の人別帳にない輩であった。

 どこか人目に付かぬ場所に連れて行きたいと言うので、
 安部元真殿にご相談の上、
 廃鉱となった採石場跡に牢屋を作ってそこに敵の密偵とおぼしき輩を監禁した。

 藤林は部下を使って敵に焼きごてを当てるなど
 拷問をした上で素直に素性を話すよう言ったが、
 敵が答えなかったため、
 顔や手首など外から見て目立つ場所に重点的に焼きごてを当て、
 これを街中に運び、「逆賊」の立て札を立てて辻に晒した。

 伊賀衆は街角に高札を立て、
 ここを通行する者は竹の鋸で一寸ずつ密偵の首を削らねばならないと書いた。
 しかし、衆人これを気持ち悪がり、この場所に寄りつこうとはしなかった。

 そこに何人か様子を見に来る者があり、
 その者を伊賀衆が尾行して、素性を調べ、
 素性の分からぬ者等を捕らえた。

 人数が集まると、その中でも意志が強く、
 決して口を割らない者を選び出し、
 捕まえた数十人の密偵の前で鉄の大きな六角棒を使って
 一人ずつ頭を丹念に割って、目玉が飛び出すまで叩き砕いた。

 それで声を上げたり顔を背けた者は取り除き、
 毅然とした者から殺してゆく。

 一番最初に目を背けた者を牢に入れ、数日何も食べ物を与えない。
 数日たって、数日何も食べずとも仲間を裏切らなかったことを称え、
 豪勢な食事と女を与える。何も白状させない。

 ただ、贅沢をさせ、それを物陰から他の密偵共に見せる。

 そして、あの者は自ら願ってすべて話したと伝える。

 それで心折れて白状した者があれば、
 その白状している処を別の密偵に戸の隙間などから見せる。

 こうして、芋づる式に白状させていった。

 このやり方でずいぶん他国の密偵を捕らえたが、
 それでも実元は見ていて気分が悪かった。

 此奴等は筋が悪い。

 こういう連中を用いてはならぬと直感的に感じた。

 義元公は密偵狩りに大きな効果があった事を大変お喜びになられた。

 しかし、それは現場を見ていないからであろう。

 なにより、この陰惨な仕組みを
 まだ幼さが残るあの童が考え出したかと思うと元実は体中に寒気が走った。


 元実は昨今、妙な噂を聞くようになった。

 一宮所領の近隣の村で農民が逃散しているらしい。

 田畑を放棄し、山に逃げ込んで野伏になっているというのだ。

 駿河で逃散など今まで聞いたことおもなかった。

 意味が分からなかった。

 昨今は戦も無く、物価は安く暮らしやすい。

 天候もよく作物は豊作だ。

 何の不満があろうか。

 義元公はこの実態をお知りになり、
 大変お怒りになり、怠け者を討伐するとのたまいて、
 軍を繰り出し、見せしめのために多くの野伏を打ち殺した。

 まったくもって妙な事である。

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