猫の国(オッサンが異世界転生したら、そこは猫の国でした)

楠乃小玉

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三十四話 トラコ

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 「あ! 」

 クーガーがピクリと耳を動かした。

 「どうした」

 「すごく大勢いる。一個連隊くらい」

 「まじかよ、武器は? 」

 「あれ?剣や弓だぞ」

 「それ、もしかして味方じゃないのか」

 「うん、なんかそんな感じだね」

 「じゃあ、そっちに行ってみよう」

 俺たちはクーガーが見つけた部隊に近寄ってゆく。

 すると、向こうもこちらに近づいてくる。

 「間違いない。向こうもこちらの存在を分かってるよ。

 猿にそんな能力はないから、たぶんワイルドキャットの部隊だよ」

 クーガーが言った。

 しばらく歩いていると、それは我が国の士官候補生の演習部隊だった。

 「おー!タケじゃないか、久しぶり! 」

 
 それはトラコ・タイガーだった。

 「おお、トラコか、君たち、猿に襲われたんじゃないのか」

 「その情報は間違いだ。私たちの部隊は演習中にウイリアム・ヘンリー砦の斥候から、
 砦が猿の軍団に襲撃されたとの報告を受けた。それで私達の部隊が早馬を使って
 近隣に駐屯している部隊や同盟軍に援軍を要請したんだ」

 「それにしても、何であんな場所でじっとしてたんだい?
 砦には向かわないのか」

 「それが、砦に向かう途中で狙撃されて、士官を何人も殺されてね。
 至急、盾となる魔法使いの援軍要請をして、その到着を待っていたんだ」

 「それならボクが盾になるよ、はやく行こう」

 「それは助かる。一緒に行こう」

 俺たちはトラコと行動を共にすることにした。

 「それにしてもトラコ、士官になったんだね」

 「いや、私は下士官だ。ただ、士官が全員殺されてしまったんで、
 私が至急指揮をとることとなった」

 「士官全員が殺されたのか、そりゃ、部隊が止まるわけだ」

 先ほど俺たちが遭遇したスナイパーはかなりの腕利きだったようだ。

 しばらく進むと、クーガーが反応する。

 「あ、なんかいっぱいいる」

 「どんなの? 」

 「うーん」

 クーガーは目を細める。

 「あのね、なんか灰色の箱みたいなので、横にぴーっと線みたいな溝が
 はいってて、そこから棒がいっぱい出てる」

 たぶん、それはコンクリート製のトーチカだ。それでもそこから出ている
 棒はたぶん、機関銃部隊。

 そこにマトモに戦闘隊が突撃すれば全滅しかねない。

 「よし分かった」

 おれはクーガーが指指す方向に思念を集中させる。

 「うーっ、ハイパーファイアー!」

 ドドドドドドドドーン!

 向こうの方で地響きのような爆発音とともに赤黒い黒煙があがった。

 「ヒューッ! すごいな、お前一人でいけそうじゃないか」

 トラコが口笛を吹いた。

 「そんなことないよ、複数から同時に攻められたら終わりさ。
 トラコと一緒で助かったよ」

 先ほど爆発があった場所に行ってみると、そこには人間の死体が大量に転がっていた。

 ヨロイは着て折らず、鉄兜は頭だけにかぶっている。

 全員、マダラの緑色の服を着ていた。

 この駐屯地は俺が思った通りコンクリートのトーチカだった。

 たしかに現代戦では威力を発揮するものだが、
 魔法使い相手だと、移動できないトーチカは棺桶のようなものだ。

 猿の軍団……それは、明確に人間たちだった。

 そこから俺たちは至急、ウイリアム・ヘンリー砦に向かったが、
 砦から敵軍はすべて撤退した後だった。

 さすがに俺の魔法で火薬はまったく役に立たないことを悟ったのだろう。

 砦の中に入ってみると、そこには猫や犬の無数の惨殺死体がころがっていた。


 「うおおおおおおおおおおー!」

 トラコが声をあげて泣いた

 「くそーっ!猿どもめ! 皆殺しにしてやる! 必ず皆殺しにしてやる! 」

 トラコは死体を抱き上げて、大声で吠えた。

 トラコはこのまま進軍しようとしたが俺は止めた。

 季節はすでに秋になっていた。

 ワイルドキャットは寒さに弱い者が多い。
 このまま進軍して寒波に巻き込まれたら、おそらく
 ワイルドキャットの大部分は凍死する。

 俺はトラコにすぐに撤退するよう進言したが、
 トラコはすべての死体を回収するまでは撤退しないと言ってきかない。

 死体は全部で百八十人だった。

 どうやら、我が国の財務官僚が財政均衡を重視するため、身代金の支払いを渋ったのが
 原因のようだ。

 近隣の駐屯部隊に連絡をとって死体の回収を要請したが、
 部隊が行軍することによって発生する残業代を支払うのを財務省が嫌がって、
 行動が遅れているようだ。

 こんな事をしていれば、今生きているトラコの部隊も寒波に見舞われ全滅してしまう。

 俺はしかたないく、同盟軍のカーリー一世に救いを求めた。

 カーリー一世は部隊を派遣してくれた。

 ゴールデンジャッカルとその部下たちは王の許しを得て、無給でかけつけてくれた。

 「大変でしたね。お国のために戦った英霊です。貴国で手厚く葬ってさしあげてください」

 そういって、俺、クーガー、トラコを強く抱きしめて励ました。

 ゴールデンジャッカルは自らが率先して死体を運び荷馬車に乗せた。

 おかげで、死体の回収は寒波が到来する前に完了した。

 俺はカーリー一世とゴールデンジャッカル、姫様にお礼を言うと、
 この駐屯地から引き上げることとした。

  この地で寒波に襲われると、たとえ死なないにしてもクーガーの体に
 害になる。

 カーリー一世は俺たちのために防寒具を用意してくれ、旅行費用として
 金貨を十袋くれようとしたが、主すぎて移動が辛くなるので二袋だけ
 いただくことにした。

 俺たちはトラコとともに南に向けて移動を開始した。

 デイトンに居たときは、冬になるとワイルドキャットたちは土に穴を掘って
 冬眠するか、金持ちの家の家来は煌々と薪が焚かれた部屋に春になるまで篭もっていた。

 ここにはそんな贅沢なものはないし、宿に泊まるとしてもそれほど充実した
 防寒設備はないだろう。冬になっても冒険者の仕事を続けるなら
 もっと南にいかないといけない。

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