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終焉の予兆
第3-1話 王都からの旅立ち(後編)
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俺たちはアルベルトが付いて来いというので取り敢えずついて行くと王都の壁から少し離れたところに小規模の草原が広がっているのが見えた。
俺が目覚めた場所とは違って整備されてて見てて気持ちがいいな……
システィーナはなんだか楽し気にどこで拾ったのか分からない先の方に一枚だけ葉っぱが付いている木の枝を片手にリズムよく口ずさみながら振っている。
俺がボーッと草原を眺めながら歩いていると後ろから背中を突かれた。
確か後ろにいるのはメイアーだなぁ……またちょっかい出しやがって……
「おいメイアーやめろって……」
俺はそう言ったが返事は返ってこない。
それでもなお俺は突かれている。
「だから、やめろって……メイアーお前しかいないんだからな? バレバレだよ⁉︎」
俺はメイアーがやっていると思って振り返ると俺と同じ位大きさの青色の竜と目が合ってしまった。
「なな、なああああああ——! ヤバイ! 俺襲われてる! 死ぬぅぅぅ!」
俺は恐怖とともに全力で走り出す。
すると、竜も俺をめがけて全力で追いかけて来た。
ヤバイ、ヤバイ……逃げないと食い殺される! ギャアァァァァ! 追いかけて来てるぅぅぅ!
「はぁ……はぁ……なんで俺だけ……あ、やばっ、これ詰んだわ」
足の速さは決して問題無かった。と言うよりも何故か竜よりも早い結果だった。しかし何故詰んだのか。
「いってぇぇぇ! 足がゴキって! 今すっごい音でゴキっていったよ⁉︎」
足をくじいた俺が地面に倒れこむと追いついた竜が目の前で止まり突然、挫いた右足首をペロペロ舐め出した。
あれっ、なんだコイツ、意外と良いやつかもしれない……
頭をそっと撫でてみると意外と鱗の感触を感じなかった。それに、この竜なんだか気持ちよさそうにあくびまでしている。
「おーい……ユイト君、大丈夫?」
「ユイトさーん! 大丈夫ですか?」
遠くからメイアーとシスティーナが駆けつけてくれた。
「ああ、俺は足挫いたけどコイツ意外と良いやつかもしれないな!」
そう言うと、二人は苦笑いをした。
「ユイト君、大丈夫だったかね? 物凄い勢いで逃げていて、まさかとは思ったが……」
遅れて駆けつけたアルベルトはやっぱり笑っている。
なんかこの人ずっと笑ってる気がするけど気のせいか......?
「にしても、珍しいな……ここの竜が人を追いかけるなど……」
アルベルトがそんな事を考えていると一人の杖をついたご老人が大きな竜を横に歩いてくるのが見えた。
なんか次々とドラゴンが出てくるけどなんだよここ……
「おお! お久しぶりです、ユタイさん。今から伺おうと思っていたところで……」
アルベルトは彼が視界に入ると大きな声で話しかけながら向かっていった。
なんだろ……知り合いなのかな?
「なんじゃい! 騒がしいと思ったらお前さん達だったのかい。おやっ——?」
その老人は俺を見るなり少しニヤついた表情で口に手を当てる。
「お前さん、コイツに惚れられてるなぁ~~」
「キュュュ——‼︎」
老人がそう言うと俺の隣に座っている竜はかわいい声で鳴き顔をペロペロ舐め出した。
「うわっ——」
俺は舐められた顔を買ったばかりの白い布で拭き取った。
「コイツが俺に惚れただって? まだ人間からのモテ期は来たこともないんだけどなぁ……けど、さっきはごめんな! 逃げたりしちゃって……」
俺がコイツの頭を撫でていると急に俺の服を口で掴み背中に乗せられた。
「で? 決めたのかい? アルベルトくん」
なんの話だろ……
俺は竜にまたがるとあちらこちらに竜を走らせる。すると、メイアーとシスティーナは心配そうに追いかけて来た。
「はい。私はこの子達に譲ろうと考えてます」
「ほほーう? それはなんじゃ? 愛情か?」
「いえいえ。そんなんじゃありませんよ。私はただこの子達ならこの子を大切にすると、そう思っただけです……」
アルベルトはそう言うと俺たちの方を微笑ましそうに見ている。が、俺たちがそんな事に気付くわけもなく俺はまたがっていた竜からバランスを崩して落っこちてしまった。
「ユイト君⁉︎ 大丈夫かぁぁぁ!」
慌てた顔で駆け寄るアルベルトの姿が俺の目に映った。
「大変です! アルベルト様! ユイトさんが……ユイトさんが竜から落ちました!」
「だから言ったじゃない! 調子乗ってると頭撃つわよって」
「いたたたた……頭打ってないよ! 腰だよ腰!」
俺が腰をさすりながら立つとションボリした顔で竜がスリスリしてきた。
なんか俺のせいでゴメンな……?
「お前のせいじゃないから安心しろよ! いたたた……」
「ユイトさん。回復魔法使うのでじっとして下さい!」
遠くから老人が見ている。
あ、隣にいた竜が全速力で来た道戻っていった……
そして俺はシスティーナに腰の痛みを消して貰って三人共に並んで草原で仰向けになって寝転がる。
俺の左上で竜も一緒にくるまっていた。
「ユイトさん……草ってこんなにも気持ちが良いものなんですね。私はじめて草原で横になりました!」
「そうなのか?」
「旅に出たらこんな事出来ないのが残念よね……」
「安全な所で野宿でもすれば出来るんじゃないか?」
「近くにこんな所があるか分からないじゃない……」
「それもそうか……」
三人で大笑いをした。
この時すごく幸せな時間を過ごしたと思う。
「よっし! そろそろ準備をしてくれ!」
アルベルトが腕組みをし笑顔で言いかけて来る。
「「「はーい!」」」
「その必要はないぞ……」
老人が杖をつきながら近づくとアルベルトにそう言い放った。
「それはどういう……」
すると、地面が震えるように揺れ出した。
「な、なんだ……これは……」
俺は遠くで砂煙が上がっているのが見えた。
なんだあれ……馬? いや、違うな……あっ——さっきこのおじさんの隣にいた竜じゃん!
竜は後ろに竜車を引いて走って来ている。しかも天井が上等な白色の布で覆われた新品のをだ。
走って来た竜は俺たちがいる所で止まると竜車に繋いでいた縄を口から離した。
「ユイト君といったか? お前さん。」
「は、はい……ユイトですが……」
「お前さん達にこれをやろう!」
老人はとても嬉しそうな顔でそんなことを言ってきた。
—— ななな、なーにぃぃぃ⁉︎
突然俺の体は震え出した。
「こここ、こんなにも上等なものを……俺たちが使っても良いんですか……?」
俺は体の震えは収まるどころかどんどん大きくなっていく。
「元々はアルベルトにやろうと思ったんだがな、こやつは今ある物が一番使いやすいとか言って受け取らんのじゃ! そこでだ! この竜も大層お前さん達に気を許しておる。 だから、お前さん達にこの竜車とそやつを譲ろうと思ったんじゃ! どうじゃ? 良い話ではないか?」
老人はそう言うとにっこり笑った。
「で、では……お言葉に甘えて……あ、譲ってもらって良いよな?」
俺は一応後ろにいるメイアーとシスティーナを見ると、二人は嬉しそうに見ていた。
「決まりじゃな! じゃあちょっと待っとれ……」
老人は手慣れた動きで俺たちといた蒼い竜に馬銜と手綱をつけ後ろに先程老人の竜が運んで来た竜車を取り付けた。
「これで準備万端じゃ! 一見、一匹じゃ心許ないと思いがちじゃが、コイツの脚力は馬の約3倍じゃ! 一応、振り落とされないよう加護は付けておいたのだがな、そこまで加護を付けるのは得意でないもんで……まぁ、こんな老いぼれの付けた加護では安心できないのなら一度王都に戻って付け直したりしなさい」
一通り老人が説明すると、俺は練習がてら俺が王都に来る時入った門までシスティーナ、メイアー、アルベルトを乗せていくことにした。
「ありがとう、おじさん! 大切に使わせてもらいます!」
「気をつけてな~……あとあんまりそやつをバチバチ叩かんように!」
俺たちは手を振ってユタイさん達と別れた。
「それにしても良かったですねー 竜車を頂くことができて……これで旅路も安心して過ごせそうです」
「そうですね! ガハハハハ!」
アルベルトは竜車であぐらをかきながらガサツに笑った。
そして、時間は経ちアルベルトを街の門前で降ろし別れを告げた。
「アルベルトさん! 短い間でしたが色々とお世話になりました!」
「ガハハハ! 気にしてするな、これも何かの縁だ! また、アストロヘイムに帰って来たら顔を出してくれ!」
アルベルトはニシシと笑顔を作ると腕組みをし俺たちを見送ってくれた。
「アルベルトさん! お元気で~!」
「アルベルト様~ 行って参りま~す!」
そしてアルベルトとの別れから少し経った頃の出来事だ。
俺たちはこのだだっ広い草原を抜け、大きな森林に入った頃。大量の超小型モンスターのモスキートに追いかけられていた。
旅の始めからこんなんかよ……まぁ、旅らしいっちゃらしいけどさ……
「ユイト君……もうちょっと早く走らせたほうがいいかもしれないわ! もうすぐそこまで来てるよ!」
「分かってる! 行くぞ! サファイア!」
「キュュュ——‼︎」
俺の呼びかけに対してサファイアは鳴き声で返した。
ちなみになぜこの竜の名前がサファイアなのかと言うと、コイツの目は綺麗な蒼色の目をしていてまるで……そう! まるでサファイアのような、澄んだ目をしていたからだ。
俺は速度を上げるためにサファイアの背中を手綱で強く叩くとみるみる竜車が早くなって行く。
「何とか撒いたみたい! これで安心ね……もうスピード落としていいわよ?」
ヤバイ……どうしようこれ……
「ユイトさん?」
「どうしよう……」
「「え……?」」
「止まらなくなっちゃった……」
この瞬間、この場の空気は一気に止まってしまった。
「「と、止まらなくなった⁉︎」」
「ど、どうするんですか……」
システィーナはアワアワパニック状態になりながら頭を抱えている。
「取り敢えず……二人ともしっかり捕まるか、伏せておいて……」
「分かったわ!」「分かりました!」
よーし……やるか……
俺はサファイアに声が届くように口を手のひらで拡声器のように囲いおおごえで叫ぶ。
「飯の時間だあぁぁぁ‼︎」
「「……え?」」
俺の声は辺りに響き渡るほどに大きく、木々に身を休めていた小鳥たちも逃げ出す。
急な俺の謎の行動に呆気にとられたのかメイアーとシスティーナは自然な声で驚いていた。
「キュュュ——‼︎」
俺が叫んでしばらくするとサファイアの走る速度がみるみる遅くなっていった。
「何で⁉︎ だんだん遅くなってる!」
メイアーは外を見ながら遅くなってる事に驚いていた。
「実はな……ユタイさんに万が一の事が起こった場合この言葉を言うように言われてな……」
「へ、ヘェ~……」
完璧に止まると俺たちは少しずつ慎重に道の端に竜車を誘導する。
「そ、それにしても良かったじゃないですか! これで取り敢えず安心ですよ!」
少し微妙な空気が流れている中、システィーナはランチの準備をするため空間収納魔法で手頃な大きさのバスケットを取り出している。
そう言えばさっきあんなこと言ってなんだが、昼ご飯まだだったっけ……
「じゃーん! 私お昼ご飯にサンドウィッチを作って来ました! たくさんあるので遠慮せず食べて下さい!」
システィーナは持っていたバスケットを開くと中には綺麗に敷き詰められたサンドウィッチが顔を出していた。
「デザートには宿屋の婦人さんの方々から教わったチェリーパイもあるので是非!」
システィーナは嬉しそうに取り出したお皿に取り分けてくれた。
「サファイアちゃん。あなたもどうぞ!」
サファイアは美味しそうにムシャムシャ食べている。
まじか! 竜ってサンドウィッチ食べるのかよ......
「あら、このサンドウィッチ美味しそう……それにこのチェリーパイも紅茶に合いそうだわ」
メイアーは頬に手を置くとすぐさま魔法でティーセットを取り出した。
「あなた達もどう?」
メイアーはカップに紅茶を注ぎながら聞いてきた。
「あ、ありがとうございます!」
「俺も貰うよ」
そして、一通り食べた後俺はシスティーナにこんな質問をした。
「そういえば……このサンドウィッチ作ってきたって言ってたけど、システィーナは俺たちが旅に出るっていうこと知らなかったよな……? 何で、作ってたんだ?」
すると、少し顔を赤くしながら、「た、たまたま気分が良かったので……作ってました」と、そんな事を言う。
今朝、俺とメイアーの事誤解してたはずなのに……さっぱり分からないな……
「そ、そんな事より! メイアーさんのこの紅茶、とても良い葉っぱですね! どこの物なんですか?」
システィーナは話を逸らすためメイアーに話を振った。
「え? あ、ありがと……この紅茶の葉っぱは私の故郷で作られた物なの……」
急に話を振られたメイアーは驚きながらもシスティーナの質問にしっかり答えている。
「そうなんですか! メイアーさんの故郷……どんなとこなんだろ……」
システィーナは紅茶を両手で持ちながらそう呟く。
「じゃあ、いつかその場所に近づいたら私が案内しましょう。その時は一緒に葉っぱを積みましょう!」
メイアーのこの言葉を聞いたシスティーナは嬉しそうに「やったー!」と言いながらはしゃいでいる。
メイアーは喜ぶシスティーナの顔をただただ微笑みながら見てるだけであった。
「よっし! お昼も済ませた事だし、日が暮れる前にこの森を抜けよう!」
こうして、俺たちはお昼を済ますと森を抜けるため安全第一でサファイアの引っ張る竜車に身を乗せながら進み始めた。
俺が目覚めた場所とは違って整備されてて見てて気持ちがいいな……
システィーナはなんだか楽し気にどこで拾ったのか分からない先の方に一枚だけ葉っぱが付いている木の枝を片手にリズムよく口ずさみながら振っている。
俺がボーッと草原を眺めながら歩いていると後ろから背中を突かれた。
確か後ろにいるのはメイアーだなぁ……またちょっかい出しやがって……
「おいメイアーやめろって……」
俺はそう言ったが返事は返ってこない。
それでもなお俺は突かれている。
「だから、やめろって……メイアーお前しかいないんだからな? バレバレだよ⁉︎」
俺はメイアーがやっていると思って振り返ると俺と同じ位大きさの青色の竜と目が合ってしまった。
「なな、なああああああ——! ヤバイ! 俺襲われてる! 死ぬぅぅぅ!」
俺は恐怖とともに全力で走り出す。
すると、竜も俺をめがけて全力で追いかけて来た。
ヤバイ、ヤバイ……逃げないと食い殺される! ギャアァァァァ! 追いかけて来てるぅぅぅ!
「はぁ……はぁ……なんで俺だけ……あ、やばっ、これ詰んだわ」
足の速さは決して問題無かった。と言うよりも何故か竜よりも早い結果だった。しかし何故詰んだのか。
「いってぇぇぇ! 足がゴキって! 今すっごい音でゴキっていったよ⁉︎」
足をくじいた俺が地面に倒れこむと追いついた竜が目の前で止まり突然、挫いた右足首をペロペロ舐め出した。
あれっ、なんだコイツ、意外と良いやつかもしれない……
頭をそっと撫でてみると意外と鱗の感触を感じなかった。それに、この竜なんだか気持ちよさそうにあくびまでしている。
「おーい……ユイト君、大丈夫?」
「ユイトさーん! 大丈夫ですか?」
遠くからメイアーとシスティーナが駆けつけてくれた。
「ああ、俺は足挫いたけどコイツ意外と良いやつかもしれないな!」
そう言うと、二人は苦笑いをした。
「ユイト君、大丈夫だったかね? 物凄い勢いで逃げていて、まさかとは思ったが……」
遅れて駆けつけたアルベルトはやっぱり笑っている。
なんかこの人ずっと笑ってる気がするけど気のせいか......?
「にしても、珍しいな……ここの竜が人を追いかけるなど……」
アルベルトがそんな事を考えていると一人の杖をついたご老人が大きな竜を横に歩いてくるのが見えた。
なんか次々とドラゴンが出てくるけどなんだよここ……
「おお! お久しぶりです、ユタイさん。今から伺おうと思っていたところで……」
アルベルトは彼が視界に入ると大きな声で話しかけながら向かっていった。
なんだろ……知り合いなのかな?
「なんじゃい! 騒がしいと思ったらお前さん達だったのかい。おやっ——?」
その老人は俺を見るなり少しニヤついた表情で口に手を当てる。
「お前さん、コイツに惚れられてるなぁ~~」
「キュュュ——‼︎」
老人がそう言うと俺の隣に座っている竜はかわいい声で鳴き顔をペロペロ舐め出した。
「うわっ——」
俺は舐められた顔を買ったばかりの白い布で拭き取った。
「コイツが俺に惚れただって? まだ人間からのモテ期は来たこともないんだけどなぁ……けど、さっきはごめんな! 逃げたりしちゃって……」
俺がコイツの頭を撫でていると急に俺の服を口で掴み背中に乗せられた。
「で? 決めたのかい? アルベルトくん」
なんの話だろ……
俺は竜にまたがるとあちらこちらに竜を走らせる。すると、メイアーとシスティーナは心配そうに追いかけて来た。
「はい。私はこの子達に譲ろうと考えてます」
「ほほーう? それはなんじゃ? 愛情か?」
「いえいえ。そんなんじゃありませんよ。私はただこの子達ならこの子を大切にすると、そう思っただけです……」
アルベルトはそう言うと俺たちの方を微笑ましそうに見ている。が、俺たちがそんな事に気付くわけもなく俺はまたがっていた竜からバランスを崩して落っこちてしまった。
「ユイト君⁉︎ 大丈夫かぁぁぁ!」
慌てた顔で駆け寄るアルベルトの姿が俺の目に映った。
「大変です! アルベルト様! ユイトさんが……ユイトさんが竜から落ちました!」
「だから言ったじゃない! 調子乗ってると頭撃つわよって」
「いたたたた……頭打ってないよ! 腰だよ腰!」
俺が腰をさすりながら立つとションボリした顔で竜がスリスリしてきた。
なんか俺のせいでゴメンな……?
「お前のせいじゃないから安心しろよ! いたたた……」
「ユイトさん。回復魔法使うのでじっとして下さい!」
遠くから老人が見ている。
あ、隣にいた竜が全速力で来た道戻っていった……
そして俺はシスティーナに腰の痛みを消して貰って三人共に並んで草原で仰向けになって寝転がる。
俺の左上で竜も一緒にくるまっていた。
「ユイトさん……草ってこんなにも気持ちが良いものなんですね。私はじめて草原で横になりました!」
「そうなのか?」
「旅に出たらこんな事出来ないのが残念よね……」
「安全な所で野宿でもすれば出来るんじゃないか?」
「近くにこんな所があるか分からないじゃない……」
「それもそうか……」
三人で大笑いをした。
この時すごく幸せな時間を過ごしたと思う。
「よっし! そろそろ準備をしてくれ!」
アルベルトが腕組みをし笑顔で言いかけて来る。
「「「はーい!」」」
「その必要はないぞ……」
老人が杖をつきながら近づくとアルベルトにそう言い放った。
「それはどういう……」
すると、地面が震えるように揺れ出した。
「な、なんだ……これは……」
俺は遠くで砂煙が上がっているのが見えた。
なんだあれ……馬? いや、違うな……あっ——さっきこのおじさんの隣にいた竜じゃん!
竜は後ろに竜車を引いて走って来ている。しかも天井が上等な白色の布で覆われた新品のをだ。
走って来た竜は俺たちがいる所で止まると竜車に繋いでいた縄を口から離した。
「ユイト君といったか? お前さん。」
「は、はい……ユイトですが……」
「お前さん達にこれをやろう!」
老人はとても嬉しそうな顔でそんなことを言ってきた。
—— ななな、なーにぃぃぃ⁉︎
突然俺の体は震え出した。
「こここ、こんなにも上等なものを……俺たちが使っても良いんですか……?」
俺は体の震えは収まるどころかどんどん大きくなっていく。
「元々はアルベルトにやろうと思ったんだがな、こやつは今ある物が一番使いやすいとか言って受け取らんのじゃ! そこでだ! この竜も大層お前さん達に気を許しておる。 だから、お前さん達にこの竜車とそやつを譲ろうと思ったんじゃ! どうじゃ? 良い話ではないか?」
老人はそう言うとにっこり笑った。
「で、では……お言葉に甘えて……あ、譲ってもらって良いよな?」
俺は一応後ろにいるメイアーとシスティーナを見ると、二人は嬉しそうに見ていた。
「決まりじゃな! じゃあちょっと待っとれ……」
老人は手慣れた動きで俺たちといた蒼い竜に馬銜と手綱をつけ後ろに先程老人の竜が運んで来た竜車を取り付けた。
「これで準備万端じゃ! 一見、一匹じゃ心許ないと思いがちじゃが、コイツの脚力は馬の約3倍じゃ! 一応、振り落とされないよう加護は付けておいたのだがな、そこまで加護を付けるのは得意でないもんで……まぁ、こんな老いぼれの付けた加護では安心できないのなら一度王都に戻って付け直したりしなさい」
一通り老人が説明すると、俺は練習がてら俺が王都に来る時入った門までシスティーナ、メイアー、アルベルトを乗せていくことにした。
「ありがとう、おじさん! 大切に使わせてもらいます!」
「気をつけてな~……あとあんまりそやつをバチバチ叩かんように!」
俺たちは手を振ってユタイさん達と別れた。
「それにしても良かったですねー 竜車を頂くことができて……これで旅路も安心して過ごせそうです」
「そうですね! ガハハハハ!」
アルベルトは竜車であぐらをかきながらガサツに笑った。
そして、時間は経ちアルベルトを街の門前で降ろし別れを告げた。
「アルベルトさん! 短い間でしたが色々とお世話になりました!」
「ガハハハ! 気にしてするな、これも何かの縁だ! また、アストロヘイムに帰って来たら顔を出してくれ!」
アルベルトはニシシと笑顔を作ると腕組みをし俺たちを見送ってくれた。
「アルベルトさん! お元気で~!」
「アルベルト様~ 行って参りま~す!」
そしてアルベルトとの別れから少し経った頃の出来事だ。
俺たちはこのだだっ広い草原を抜け、大きな森林に入った頃。大量の超小型モンスターのモスキートに追いかけられていた。
旅の始めからこんなんかよ……まぁ、旅らしいっちゃらしいけどさ……
「ユイト君……もうちょっと早く走らせたほうがいいかもしれないわ! もうすぐそこまで来てるよ!」
「分かってる! 行くぞ! サファイア!」
「キュュュ——‼︎」
俺の呼びかけに対してサファイアは鳴き声で返した。
ちなみになぜこの竜の名前がサファイアなのかと言うと、コイツの目は綺麗な蒼色の目をしていてまるで……そう! まるでサファイアのような、澄んだ目をしていたからだ。
俺は速度を上げるためにサファイアの背中を手綱で強く叩くとみるみる竜車が早くなって行く。
「何とか撒いたみたい! これで安心ね……もうスピード落としていいわよ?」
ヤバイ……どうしようこれ……
「ユイトさん?」
「どうしよう……」
「「え……?」」
「止まらなくなっちゃった……」
この瞬間、この場の空気は一気に止まってしまった。
「「と、止まらなくなった⁉︎」」
「ど、どうするんですか……」
システィーナはアワアワパニック状態になりながら頭を抱えている。
「取り敢えず……二人ともしっかり捕まるか、伏せておいて……」
「分かったわ!」「分かりました!」
よーし……やるか……
俺はサファイアに声が届くように口を手のひらで拡声器のように囲いおおごえで叫ぶ。
「飯の時間だあぁぁぁ‼︎」
「「……え?」」
俺の声は辺りに響き渡るほどに大きく、木々に身を休めていた小鳥たちも逃げ出す。
急な俺の謎の行動に呆気にとられたのかメイアーとシスティーナは自然な声で驚いていた。
「キュュュ——‼︎」
俺が叫んでしばらくするとサファイアの走る速度がみるみる遅くなっていった。
「何で⁉︎ だんだん遅くなってる!」
メイアーは外を見ながら遅くなってる事に驚いていた。
「実はな……ユタイさんに万が一の事が起こった場合この言葉を言うように言われてな……」
「へ、ヘェ~……」
完璧に止まると俺たちは少しずつ慎重に道の端に竜車を誘導する。
「そ、それにしても良かったじゃないですか! これで取り敢えず安心ですよ!」
少し微妙な空気が流れている中、システィーナはランチの準備をするため空間収納魔法で手頃な大きさのバスケットを取り出している。
そう言えばさっきあんなこと言ってなんだが、昼ご飯まだだったっけ……
「じゃーん! 私お昼ご飯にサンドウィッチを作って来ました! たくさんあるので遠慮せず食べて下さい!」
システィーナは持っていたバスケットを開くと中には綺麗に敷き詰められたサンドウィッチが顔を出していた。
「デザートには宿屋の婦人さんの方々から教わったチェリーパイもあるので是非!」
システィーナは嬉しそうに取り出したお皿に取り分けてくれた。
「サファイアちゃん。あなたもどうぞ!」
サファイアは美味しそうにムシャムシャ食べている。
まじか! 竜ってサンドウィッチ食べるのかよ......
「あら、このサンドウィッチ美味しそう……それにこのチェリーパイも紅茶に合いそうだわ」
メイアーは頬に手を置くとすぐさま魔法でティーセットを取り出した。
「あなた達もどう?」
メイアーはカップに紅茶を注ぎながら聞いてきた。
「あ、ありがとうございます!」
「俺も貰うよ」
そして、一通り食べた後俺はシスティーナにこんな質問をした。
「そういえば……このサンドウィッチ作ってきたって言ってたけど、システィーナは俺たちが旅に出るっていうこと知らなかったよな……? 何で、作ってたんだ?」
すると、少し顔を赤くしながら、「た、たまたま気分が良かったので……作ってました」と、そんな事を言う。
今朝、俺とメイアーの事誤解してたはずなのに……さっぱり分からないな……
「そ、そんな事より! メイアーさんのこの紅茶、とても良い葉っぱですね! どこの物なんですか?」
システィーナは話を逸らすためメイアーに話を振った。
「え? あ、ありがと……この紅茶の葉っぱは私の故郷で作られた物なの……」
急に話を振られたメイアーは驚きながらもシスティーナの質問にしっかり答えている。
「そうなんですか! メイアーさんの故郷……どんなとこなんだろ……」
システィーナは紅茶を両手で持ちながらそう呟く。
「じゃあ、いつかその場所に近づいたら私が案内しましょう。その時は一緒に葉っぱを積みましょう!」
メイアーのこの言葉を聞いたシスティーナは嬉しそうに「やったー!」と言いながらはしゃいでいる。
メイアーは喜ぶシスティーナの顔をただただ微笑みながら見てるだけであった。
「よっし! お昼も済ませた事だし、日が暮れる前にこの森を抜けよう!」
こうして、俺たちはお昼を済ますと森を抜けるため安全第一でサファイアの引っ張る竜車に身を乗せながら進み始めた。
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そのため、国からは特別扱いを受け、学園のクラスメイトも、唯一の兄妹である兄も、ウィステリアに近づくことはなかった。
そして、二十歳の冬。アリスティア王国をエウラノス帝国が襲撃。
大量の怪我人が出たが、ウィステリアの治癒の魔法のおかげで被害は抑えられていた。
戦争が始まり、連日治療院で人々を救うウィステリアの元に連れてこられたのは、話すことも少なくなった兄ユーリであった。
血に染まるユーリを治療している時、久しぶりに会話を交わす兄妹の元に帝国の魔術が被弾し、二人は命の危機に陥った。
「ウィス……俺の最愛の……妹。どうか……来世は幸せに……」
命を落とす直前、ユーリの本心を知ったウィステリアはたくさんの人と、そして小さな頃に仲が良かったはずの兄と交流をして、楽しい日々を送りたかったと後悔した。
体が冷たくなり、目をゆっくり閉じたウィステリアが次に目を開けた時、見覚えのある部屋の中で体が幼くなっていた。
ウィステリアは幼い過去に時間が戻ってしまったと気がつき、できなかったことを思いっきりやり、あの最悪の未来を回避するために奮闘するのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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