異常者のスローなダンジョン生活 ~ 助けろ?   めんどいので他を当たって下さい!

azuma

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とりあえず? 彼らの宿にやってきた。

用意されていた部屋は、この前と同じような小広間だったが、
食事はコースではなくバイキングのように、大皿から好きに
取り分けるようだ。

「シオン、多少は遠慮しろよ。」

小声で釘をさしておく。

「...善処するつもりはある。」

不安は残るが、彼らのおごりだ。今更かもしれない。

「とりあえず昼食としよう。」

ジークムントさんが声を上げ、各自が料理を取り分け始める。

うん? どうもちらちらと視線を感じる。
シオンを見やると...うん、大盛だが山盛りじゃない。見られているのは...
ボクか? なんだろう?

自分の分を取り分けて食事を始めるが、視線がうざい。

「あー、すみません。そんなに見られていると食べづらいんですが、何か不作法
 でもしていますか?」

自覚していなかったのか、皆あわてて視線を外している。


ジークムントさんも同様だったが、ひとつ咳ばらいをして、

「ごほん、申し訳ない。
 多分皆先ほどの光景にショックを受けているのだと思う。」

「ショック、ですか? 依頼通りにしたつもりですが。」

「...その通りではあるんだが、あれは、なんというか想像していたものと
 あまりにも違う...いや、想像もできなかった光景だった。
 それゆえ、つい君の方を見てしまうんだろう。私もだが。」

どんな想像をしていたんだろう?

「どんな想像をされていたんでしょうね?
 まあ、とりあえず食事を終わらせましょう。」

食事を再開する。ふと見ると、シオンめ、別の料理を大盛にしてやがる。
ジークムントさん達は気づいてなさそうだから、まあよいか。

もくもくと食事をすすめ、20分ほどたった。
食後のコーヒータイム突入である。
うまいコーヒーで助かる。さすが高級宿だ。


「...さて、クロウくん。相談に入りたいが構わないか?」

「どうぞ。」

「先ほどの光景は想像の埒外だった。魔法であんなことができるとは、
 この目で見たにもかかわらず信じがたい。
 どうすればあんな威力の魔法が使える? 我らにも可能なのか?」

ボクに集まる視線。 ああ、これは畏怖か。

「...前にも言ったと思いますが、ボクは異常です。ですから、
 そちらに同じことができるかどうか、確かなことはわかりません。
 ただ、今までの経験からすると、そちらの魔術師の方がレベル
 200を超えれば近いことは出来ると思いますよ?」

「レベル、か...それしかないのだろうか?」

うーん、どう答えよう?

「ジークムントさん、こちらからも少し聞きたいことがあります。
 かまいませんか?」

「構わない、なんだろうか?」

番人ゲートキーパーを自力討伐しなければならない理由って何ですか?」

「!! それは...」

「正直言って、1年以内に自力討伐するのは難しいでしょう?

 ボクの知る限りでは、限界突破しただけのパーティで討伐に
 成功したパーティはありません。討伐者は皆何かしらの特技
 というか異常な力を持っていました。

 討伐者としての称号だけなら、ボクなり他の討伐者なりと
 同行して討伐すれば獲得できます。まあ、知る限り討伐者で
 所在のわかっているのは、ボク以外に一人だけですが。

 ボクは同行者一人当たり金貨5000枚の報酬で受けることに
 していますが、今の所誰も依頼してきませんね。」

軽く笑って見せる。
正確には依頼しようとしたパーティはいくつかあったが、依頼料を
聞いて皆諦めた。向こうのエリアに行ければ、数年で元は取れる
はずなんだが。

ジークムントさんは難しい顔をしている。
もう少しつついてみるか。

「ところで、皇国の方で大規模ダンジョンが見つかったというお話、
 ご存じですよね?」

「! それは...知ってはいるが...」

「ぶっちゃけ、皆さん皇国の方ですよね? あちらのダンジョンは
 経験値がおいしいという話ですから、あちらのダンジョンでレベル
 アップを目指されてはいかがですか? ここで1年以内にレベル
 200を超えるのは無理だと思いますよ?」

「!! そうか、気づかれていたのか。何故とは聞かない。意味も
 ないしな。
 そう、我らは皇国のものだ。そのダンジョンを攻略している。」

割とあっさり認めたな。

「多分ここへは限界突破のためにこられたのだと思います。ただそう
 考えると番人ゲートキーパーを自力討伐すべき理由がわかりません。
 箔付けに討伐者の称号を得るためなら、自力である必要がない。
 何故なんでしょう?」

ジークムントさんが逡巡した顔でメンバーを見渡す。
本当に何故なんだろう?


ジークムントさんが口を開くまでしばらくかかった。

番人ゲートキーパー討伐者という箔付け、それも理由の一つではある。
 今の所、あのダンジョンを攻略中のパーティに討伐者はいないから...」

頷いて先を促す。

「攻略中のパーティのトップグループは大体レベル100から110台だ。
 我らは何とかトップグループに食い込んでいたが、やはり限界突破が必要で
 ここへ来た。結果としてレベルは120を超えて、攻略でもトップに立ち
 続けることも可能だろう。
 だが、我らは皇国の精鋭なのだ。攻略は皇国の威信をかけて我らが主導したい。
 レベルが多少高いというだけでは抜きん出ることは難しい。何かしら隔絶した
 ものが欲しいのだ。

 多分知ってはいるだろうが、攻略したパーティに金貨10万枚の報奨金を皇国
 から出すということになっているので、それを惜しむ連中もいるのでな。」

ジークムントさんが苦笑する。

なるほどねー。宮仕えも大変だ。

「...聞いた話では200階層規模も有り得るということですから、攻略には
 数年はかかるはず。1年で自力討伐者になれれば、簡単に挽回できるという
 ことですか。」

「まあそういうことだ。」

「そのダンジョンでレベルアップを目指しても、周りと大して差がつかない...」

「そういうことだな。」

ふむ。どうしよう。
スキル宝珠オーブの話をするべきか。
だが、そうすると必然的に限界突破のステータスへの影響も話すことになる。
この情報、多分ボクとシオンしか知らないはずだ。ペアだったアヤツは気づいて
いたかもしれないが、どうせ気にしてはいないだろう。

情報料をボッタくるか。金貨1万枚くらい?

だが、女魔術師はともかく、他の連中がどの程度強化されるかわからん。
どーしよーか。

「すみません。ちょっと相棒と相談をしたいので、時間をください。」

「それは構わないが...」


部屋の隅にシオンを呼んで、遮音結界を張る。

「なあ、シオン。」

「なに?」

「限界突破でステータスも1000を超えられるっていう情報、金貨
 1万枚で売って、スキル宝珠オーブを大量に売り付けるってアイディア、
 どう思う?」

「スキル宝珠オーブ、金貨50枚くらい?」

「そんなもんだな。
 ステータスを2000近くまで上げるとして、魔術師は300個も
 あれば十分だろうが、全員分となると2000個近いかな?」

「300個だと十数回潜れば集まるから、普段通りに潜って2か月?
 ...で、金貨15000枚、すごい!」

「こちらのエリアだと普通のドロップ運で月に十個がせいぜいだろ?」

あの頃のボクが休みなしの周回をして、数か月で約40個。シオンなら
数倍から十数倍はいくだろうが、あの休みなしの周回は現実的じゃない。

「そだね。ん、これは売れる!」

「問題はギルドにばれないようにすることだが、あちらも情報を漏らす
 ことはしないだろうし、受け渡しと使うのをダンジョン内にすれば
 ルール的にも問題ない。」

「そだね。」

二人して悪い笑みを浮かべる。

「んじゃ、商談してもOKってことでいいよな?」

「ん!」


遮音結界を解く。








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