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シオンとともに席に戻る。

「お待たせしました。
 相棒とも相談したんですが、そちらの要望にお応えできる情報が
 一応あります。」

「! 本当かね?」

ジークムントさんはじめ、皆が驚いたようにこちらを凝視する。

「ええ、魔法使い以外の方にどこまで効果があるか、はっきりとは
 わかりかねますが、情報を独占する限り、他のパーティの追随を
 許さないことは間違いないでしょう。」

あちらのパーティの皆が息をのむ。
ここからは商談だ。

「ただ、今回の依頼を受けた時も言いましたが、正直言ってこちらの
 手の内をさらしたくはありません。

 ですので、ここからは商談です。
 一つの情報を、秘匿を条件に金貨1万枚で売ります。

 1年以内に番人ゲートキーパーを自力討伐するためには、おそらく追加で
 かなりの費用が掛かることになるとは思いますが...

 いかがです?」

ジークムントさん達の顔が歪む。
まあ、当たり前か。

「お返事は後日でかまいません。
 あと、この情報はギルドに知られたくないので、個人取引という
 ことになります。ですので情報料は前金でお願いします。」

今日の所はここまでだろう。

ジークムントさんが苦し気に言う。

「...どうするかは我らだけでは決められない。
 本当にそれだけの価値がある情報なのかね?」

当然の疑問だな。

「どうでしょう? 情報って人によって価値が異なりますから。
 まあ、ボクはジークムントさんを気に入っているようなので、
 ヒントだけ。
 この情報は、今日のボクの魔法の秘密でもありますよ。」

「!!」

あちらの皆さんの表情が驚愕に変わる。
今日は彼らの表情筋が相当鍛えられたんじゃないかな?

「良いお返事を期待しています。
 それでは今日はこれで失礼しますね。」

シオンと共に立ち上がり、部屋を出る。
引き留める声はなかった。



宿に戻ってシオンと話し合う。

「返事が来るまで、少なくとも数日はかかるだろうな。」

「うん。」

「まあ、ジークムントさんは皇国の方にお伺いをたてるだけだろうが...
 問題は皇国の出方だ。」

「出方?」

「ああ、さっきの話にあっただろ? 報奨金を惜しむ連中がいるって。」

「あ、せこく実力行使にでる奴らがいるかもってこと?」

「まあな。
 情報があることを前提に、皇国が取る手段は大きく分けて3つ。
 商談にのるのが一つ。値引き交渉くらいはあるだろうけどな。
 もう一つは情報をあきらめる。これは五分五分かな?
 で、もう一つがタダで情報を得ようとすること。」

「でも、今日の様子だとクロウに敵対するって選択はなくない?」

「ジークムントさん達はないと思うけど、皇国の連中はどうかな?
 さすがにボクに直接ってことはないだろうけど、お前を盾にって
 考える可能性はある。お前の実力はほぼ隠せたしな。」

「そっか。クロウのおまけに見えてる可能性はあるね。」

「まあ、彼らの実力から考えると、裏の連中が出てきても、大した
 実力はなさそうだから、問題ないっちゃ問題ないんだが...

 気配察知はお前の方がはるかに上だし、大人数でなけりゃ問題
 ないだろうが、返事があるまで基本的には二人で行動しよう。
 ボクも魔力探知は展開し続けるから。」

「ん、わかった。じゃあ二人部屋を頼んでくるね。」

「ちょっと待て、なんでそうなる?」

「夜はどうするのさ。別々の部屋じゃ、襲われたら一人で迎撃する
 ことになるんだよ。」

(は、反論できねぇ...)

「おまえはそれでいいのか?」

「何言ってんの? 
 あ、それって私の色気に我慢できなくなるってこと?」

「んなわけあるか! まあ、おまえがいいならそうしろ。年頃の娘と
 してはどうかと思うけどな!」

「あはは。まあこの年で父親と一緒に寝たいっていうのもあれだけど。
 少しの間ならそんなに変でもないんじゃない?」

「そんなもんかね。(この辺りの機微は全然わからんな。)」

「そんなもん、そんなもん。じゃあ部屋を頼んでくるね。」


幸い二人部屋の空きはあったので、さっさと移動した。
まあ、ここは数年使い続けているので、変な邪推はされなかったが、
代わりに稼ぎの心配をされてしまった。
とりあえず20日分の前払いで誤解を解いたが。

1週間程度で返事がなければ、襲撃の蓋然性は俄然高まる。
人員の移動を考えると、2週目あたりが一番ありそうだ。

皇国がそう出てきたら、当然値上げだよな。


「シオン、襲撃があっても殺さずに捕まえるぞ。」

「なんで?」

「値上げのネタ。速攻でジークムントさん達に見せよう。襲撃
 されたから倍ですって。」

「...襲撃ごとに倍?」

「倍々はさすがにやりすぎ...
 いや懲りないなら仕方ないか。それでいこう。
 ジークムントさん、泣くだろうな。皇国にアホがいないことを
 祈ろう。」

「...クロウ、ジークムントさんのこと相当気に入ってる?」

「そうみたいだな。いい人っぽいし波長が合ったのかも。」

「ふーん。じゃあ予め釘を刺しておく?
 タダで手に入れようとするなら、倍々だって。」

「それだと皇国を信用してないってことになるんだが...
 いや、報奨金云々の話もあったし、一応言っておくか。
 明日会いにいこう。」

「わかった。
 晩御飯どうしようか。お昼にあんないいもの食べちゃったし。」

「知らんわ。お前、彼らが気づかないのをいいことに、どれだけ
 食べたんだよ。」

「そんなには食べてないよ、大盛で4皿分かな? 山盛りは遠慮
 したし。」

「十分だろ! 晩御飯は上定食にしとけ。デザートもつくんだろ?」

「それがあった。
 でも、たまにでいいからあの宿で食事しよ?」

「いくら使う気だよ。お前が腹いっぱいとかいうと。金貨数十枚
 コースじゃないか?」

「おなかいっぱいじゃなくて、おいしいものを食べに行こ?」

「...まあそれくらいならいっか。
 とりあえずは商談の結果が出てからだな。」




翌日、ジークムントさんを訪ねた。

「おはようございます、ジークムントさん。」

「おはよう、クロウくん。どうしたのかね?」

ちょっと戸惑った表情のジークムントさん。

「昨日帰ってから考えたんですが、皇国の方で報奨金を惜しむ
 連中がいるということでしたよね?」

「ああ、情けないが一部にそういう者たちはいる。」

「そうすると、商談に対する皇国側の対応って、商談にのる、
 のらないの他に、タダで情報を得ようとする可能性がある
 かな、と思いまして。」

「! ...残念だがその可能性は否定できないな。」

やはり真面目な人だな。

「多分、国元にお伺いを立てていると思いますが、条件が
 増えたとお伝えください。
 ボクやシオンにちょっかいをかけるたびに、情報料は
 倍々に増えますよって。
 ちょっかいをかけてくるのは多分裏の人たちでしょうが、
 ジークムントさん達ならお分かりの通り無駄ですから。」

「...わかった。その条件も追加で伝えておこう。」

「よろしくお願いします。 あ、もう一つあった。
 依頼の方は完了ということでよいですよね?」

「ああ、指名依頼の方は完了で構わない。」

「ギルドの方には完了報告しておきます。確認が来たら
 ご対応をお願いします。」

「完了報告か。一緒に行けば手間はかからないだろう。
 これから直ぐでよいかな?」

「よろしいのですか? 助かります。」


ジークムントさんとギルドに向かい、完了報告。
依頼人と同行したので、その場で報酬は手に入った、

「ありがとうございました。お返事はお待ちしています。」

「多分1週間程度で返事は出来ると思う。個人的には良い
 返事をしたいところなんだがな。」


ジークムントさんとはその場で分かれて宿に戻った。

さて、どうなるか。

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