遊戯超過

小判鮫

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甘えで迷惑だ

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 いつも通り、仕事は上手くいかない。怒鳴られてばっかで、また死にたくなった。こんな調子では、リュウくんに怒られてしまうだろう。あんなに人懐っこいリュウくんにでさえ、会いたくなくなって、部屋に引きこもった。息が苦しい。海のど真ん中で溺れているみたいだ。四方八方、水に囲まれて四面楚歌。水を得た魚のようには振る舞えない。ああああ、うざったい。酔っ払った勢いで飛び降りたい。自殺の最大の恐怖は、死ぬときの痛みよりも死ねなかったときの絶望だ。
 「生きているだけでいい」
 そんな言葉を誰か俺に言ってはくれないか?仕事も趣味も人間関係も生きるのも、全部全部が嫌なんだよ。死にたいの。でも、時には俺の手を強引に引っ張ってくれる誰かを望んでいんだ。俺をこの世界から連れ出して、夢の世界へと導いてくれる誰か。白うさぎでも何でもついて行くから、この世界から逃げたいの。誰か、お前のせいにさせてくれ。そしたら、傲慢に生きてやるからさ。
 生と死の境界線上を彷徨う。ふと思い出した、駅のホームの黄色い線よりも向こう側。線路の傍、プラットフォームの崖、酔ってもないのに酔ったようにフラフラと歩いている。死にたい俺、誰かが俺の肩を押して、突き落としてくれないかと妄想、夢想。その誰かが何処にもいなかったから、今日まで俺は生きている。白黒はっきりしないグレーなところでモノクロな毎日を送っている。
 二ヶ月に一度の通院日。今すぐにでも入院したいほどの精神状態だけれども、金と仕事を捨ててまで、入院できるほど俺は強くはなかった。かかりつけの精神科医とはもう二年間の付き合いになる。毎回、睡眠と食事、気分の落ち込みの有無の近況報告をする。ゆったりと落ち着いた寄り添うような口調に心癒されている。俺に優しい世界がここにはある。
 「最近、仕事を始めたんですよ。土木作業員として、週六のフルタイムで働いてます。でも正直に言うと、全然できなくて、つらくてきつくて、怒鳴られてばっかで、もうやめたいんですけど、でも本当は、せっかく就職できたんで、やめるのはもったいないかなって思って。どうすればいいですかね?」
 と自分の中にある葛藤を曝けだす。この問いを解決するのはもちろん自分なんだけと、仕事を始められたこと、頑張っていること、を褒めて欲しい気持ちで、これを話した気がする。やめたくないのならば、つらくてもきつくても苦しくても、頑張れなくても、頑張らなきゃいけないのは、嫌ってくらい明白だから。
 「そうですね、仕事を始められたことはかなり大きな進歩だと思います。初めは慣れないことばかりで大変でしょうけど、やっている内に少しずつ慣れて、できるようになっていくので、できないことで焦らずに、自分を酷く傷つけたり責めたりする必要は、まったく無いですよ。できなかったことよりもできるようになったことに目を向けられるようになると良いですね」
 「はい、ありがとうございます」
 菩薩の言葉を聞いたように、この人の言葉が心に染みる。
 「あとは、あまり頑張りすぎずに、あくまでも無理しない範囲で、自分のペースで良いんですよ。それと、お仕事をやめるのではなく、少しだけお休みする方向で考えてみませんか?診断書は書きますから」
 という優しい問いかけに
 「んー、何となく職場の人に知られたくないんですよね。普通の人と同じように仕事してみたくて」
 と生意気な答えをした。俺がそう意見する分際に立ってないことは把握済みだ。
 「その気持ち、よく分かります。いつかできますよ、でもそれが今じゃないだけで。人それぞれ、適量があるんですよ。仕事でも何でも。その限度を超えてしまうと、パフォーマンスが悪くなったり、それこそ倒れてしまったり、歪みが出てくるんですね。だから、今のお仕事を続けたいのであれば、会社の方に理解してもらって、仕事量を減らしてもらうのが、最適かと思います。少し頭の片隅に、候補として入れといてください」
 と柔らかに微笑むこの人を、さすがは先生だ、と尊敬した。仕事を休むなんて、甘えで迷惑だ、とばかり考えていたが、コンディションが悪い、あのパフォーマンスで、給与をもらっている方が、幾分と甘えで迷惑だ、と考え方が一変したのだ。一応、診断書をもらうことにした。
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