遊戯超過

小判鮫

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ヤンデレ

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 今日も変わり映えせずに誘導棒を振っている。こうなると土木作業員ではなくて、警備員じゃないかと思うくらいだが、最近は一メートル半くらいの穴から自力で出られなくなって、「貧弱」と言われた。ゲームの世界なら、余裕で這い上がれる高さだった。あの車、車高低いなあ。所謂、シャコタンって奴だ。意図しなくとも見下ろしてしまう。身長は高くも低くもない。平均よりもちょっと高いくらいだ。でもリュウくんのが背が高いから、普通に羨ましい。どんな服装でも様になる。学生時代はどんぐりの背比べで一喜一憂したものだが、最近は見た目よりも何ができるか、が重要な時代だと感じる。でなければ、あの薄っぺらい液晶の板がここまで普及するわけがない。あのデザインを貶しているわけではないが、可もなく不可もなくシンプルな造りだと思う。都内にそびえ立つ数多の高層ビルも、華美な装飾なく、ただの四角い箱だ。シンプルイズザベスト、なんて言葉を聞くが、人間の営みまで単純化や効率化してしまうのはどうかとは思われる。繊細さや複雑さを亡くした人間はロボットだろうが。
 「アキさん、おすすめの漫画とかありませんか?」
 仕事終わりに本屋に寄ったが、何を買うわけでもないから、アキさんの付き添いだ。惹かれるように付けられたタイトルと帯に目をやる。驚いた、タイトルで大まかな内容を話してしまっているじゃないか。裏切るために付けられたんならまだしも、裏切るわけもなくタイトルに沿って話が進む。型が決まっているお笑いみたいだ。またこれかよ、笑っている内は許されるが、もはや定番芸として笑われなくなったら、飽きられて捨てられる。まあ、王道ストーリーでも作者の個性うんぬんかんぬんはあるだろうが、俺はハッピーエンドよりもバッドエンドのが見てみたい。綺麗事とか、ウザったくて。
 「これとかは?」
 「……恋愛漫画ですか?」
 パッと手渡された漫画の、今にでもキスしそうな表紙に、目を逸らし身が引ける。
 「いーや、エロ漫画かなあ」
 「え、エ、え?」
 朗らかに笑って、軽々しくそう言うから、あからさまに戸惑いを隠せなかった。口元を手で覆った。
 「読みたくなった?」
 悪魔の囁きのようだ。自然と隠した口元が緩む。
 「あはは、酷いっすよ」
 「いや、そうゆうんじゃなくても、普通におすすめ。内容が救いようないんだよね」
 「どんなですか?」
 「主人公がどうしようもない薬物中毒者で、何度も警察にお世話になるんだけど、そこで出会った警察官に恋をするわけ。で、何度も何度も告白しても、大嫌いってことごとくフラれるん、だけど、薬物使ったら、絶対に会いに来てくれるん、みたいな?」
 「ヤンデレ?」
 「そんな簡単な話じゃないんだって、ああ、何つえばいいんかな、んー、まじで読めばわかっから」
 エロ漫画ならレジ通すの恥ずいし電子書籍で読もう。
 「買わないん?」
 「買いましたよ」
 「かーっ、漫画も今の時代はデータかよ」
 とそのスマホを非難するように笑う。本屋に来た意味ねえじゃんって。でも、収納スペースないし、いつでも読めるし、俺にはこの方が快適なんだよな。
 「現代っ子はお嫌いですか?」
 「嫌いじゃないんだけど、本棚に全巻ずらーっと並ぶんは圧巻だよ。本棚、ひしゃげるけんど」
 風潮がどうであれ、淘汰されるべきではない文化が、そこにはあるんだと思った。データが物のように扱われる時代で、物の実在性がさらに価値を増したように感じる。
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