殺さないだけ感謝しろ!

小判鮫

文字の大きさ
21 / 30

愛って、証明するものでもないと思う

しおりを挟む
彼の過去を知って、俺はもっとご主人様の虜になっていた。今まではセックスしてくれない以外はただの理想のご主人様だったけど、今ではセックスしてくれない以外の理想のご主人様を演じてくれている、この腐った世界で理不尽な目に遭い、俺と同じような痛みを知っているご主人様になった。ご主人様の痛みが俺の過去の痛みと重なって共鳴して、孤独じゃないんだと思わせてくれる。そんな人間味のあるご主人様が、大好きだ。

「ご主人様ぁ、何かすることなーい?」

という甘い声を出して、彼を誘惑する。俺は家に帰ってきた瞬間、彼に後ろから抱きついて、そこからずっと離れずに付き纏っていた。

「イル、どうしたの?さっきから甘えて、」

彼はゆっくりと俺の髪を撫でる。俺はその手を取って、彼の指先を自分の唇へと置くと、軽く甘噛みをした。

「俺、ご主人様の飼い犬で、すげぇ良かった。ご主人様にもっと俺の愛情を知って欲しい」

と耳元で囁くと、彼は手を引っ込めて、

「イルの愛情は、性愛だから嫌だ」

って口ではきっぱりと断るが、耳は真っ赤にするんだ。可愛らしい。

「えー、だけど俺、ご主人様に何かしてあげたいんだ。ご主人様はこれを『精神的な愛撫』だって言ってたよね?」

と言って、彼の胸を服の上から揉むように触った。

「ふふっ、イルは一刻も早く僕と繋がって、安心感を得たいんだよね!」

彼はわかっているようにほくそ笑んで、胸を揉んでいる俺の手を止めようと、そこに自分の手を重ねて置いて、指同士を絡めていく。

「違うよぉ。俺は、ご主人様と愛し合いたいだけ!」

とその頬にキスをした。彼は俺のことを愛しているようなフリをしているから、俺の愛情は彼には届かない。

「……大丈夫。もう愛し合ってるよ」

と言い、彼は俺の腕の中から逃げた。

「愛してなんか、いないくせに……」

苦し紛れの言葉を投げつけて、俺は煙草を手に取った。こいつだけは変わらず俺の傍にいてくれる。って火を付けた。

「でもさ、愛って、証明するものでもないと思う……」

彼は愛を強要していた俺に向かって、そんな寂しい言葉を投げ返してきた。

「それじゃあ、愛が何だかわかんないじゃん」

「それでも、愛されてるってわかる瞬間が、きっとあるんだよ」

そんなの知らない。支配して、従わせて、殺して、初めて、愛されてたってわかるんだ。その喪失感が俺の中での愛の証明なんだ。

「ご主人様はたぶん、愛されて育ったんだね」

俺はそんな彼に嫉妬してしまって、その顔に煙を吹きかけた。

「幼少期のイルは愛を知らなかったのかもしれない。でも、これからのイルは君自身で選んでいけるんだ」

彼はそんな俺を嫌煙することなく、俺の頬を撫でた。そんな綺麗な彼を汚したくもなったが、俺の将来に賭けたくもなった。

「……愛されたいよ、いっぱい愛されたい。ご主人様、俺はどうすればいい?」

彼に縋るように抱きついた。

「じゃあ、今夜は一緒に晩御飯を作ろうか」

そう、背中を撫でられて、俺は彼とともにキッチンに並んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

コーヒーとチョコレート

ユーリ
BL
死神のジェットはとある理由からかわいい悪魔を買った。しかし、その悪魔は仲間たちに声を奪われて自分の名前以外喋れなくて…。 「お前が好きだ。俺に愛される自信を持て」突然変異で生まれた死神×買われた悪魔「好きってなんだろう…」悪魔としての能力も低く空も飛べない自信を失った悪魔は死神に愛される??

帝は傾国の元帥を寵愛する

tii
BL
セレスティア帝国、帝国歴二九九年――建国三百年を翌年に控えた帝都は、祝祭と喧騒に包まれていた。 舞踏会と武道会、華やかな催しの主役として並び立つのは、冷徹なる公子ユリウスと、“傾国の美貌”と謳われる名誉元帥ヴァルター。 誰もが息を呑むその姿は、帝国の象徴そのものであった。 だが祝祭の熱狂の陰で、ユリウスには避けられぬ宿命――帝位と婚姻の話が迫っていた。 それは、五年前に己の采配で抜擢したヴァルターとの関係に、確実に影を落とすものでもある。 互いを見つめ合う二人の間には、忠誠と愛執が絡み合う。 誰よりも近く、しかし決して交わってはならぬ距離。 やがて帝国を揺るがす大きな波が訪れるとき、二人は“帝と元帥”としての立場を選ぶのか、それとも――。 華やかな祝祭に幕を下ろし、始まるのは試練の物語。 冷徹な帝と傾国の元帥、互いにすべてを欲する二人の運命は、帝国三百年の節目に大きく揺れ動いてゆく。 【第13回BL大賞にエントリー中】 投票いただけると嬉しいです((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆ポチポチポチポチ

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...