殺さないだけ感謝しろ!

小判鮫

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非公式のね

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仕事に行く彼の背中を見送って、俺は汚れた食器を食洗機に入れた。すると、食器はものの数時間で綺麗になって、俺の汚れもこんな風に簡単に落とせたらな、なんて夢見がちなことを思っていた。

「イル、ただいま」

仕事に行ったはずの彼が食器が綺麗になった頃には、家に帰ってきていた。

「あれ?また俺に会いたくなっちゃった??」

なんて冗談で惚けたことを言うと、

「あぁ、イルを迎えにきた」

と真剣に言われて、俺は単なる忘れ物とかだろうと高を括ってたから、吃驚して危うく食器を落としそうになってしまった。

「な、何で……?」

「この部屋にいても、退屈だろう?だったら、一緒にお散歩したいと思ってね」

そう言って、彼は手に持っていた紙袋から、警官の制服を取り出した。

「もしかして、俺、警官になれんの!?」

その制服を受け取ると、胸がワクワクした。こんな俺でも、と希望の光が薄らと見えたが、その光はすぐに消えた。

「しーっ!非公式のね。これがバレたら僕がクビになる」

人差し指を立てて、悪戯っ子のように微笑む彼。会社に内緒で制服を持ってきたんだ、と瞬時に察した。

「何で、ここまでするの?」

「だって、君は僕の犬だから。違う?」

彼は何ら不思議ではないという顔でこちらを一瞥するが、俺は真面目な彼が会社を裏切るような真似をしてここまでする理由がわからなかった。道理が通ってない気がした。

「ご主人様はさ、恨んでいる人間達を殺して欲しくて、俺を懐柔したんだよね?」

「いや、僕はイルを更生させたくて……」

「建前はいらない。本音で話そうよ」

そう言って、彼の裏の顔を探った。

「……僕は、イルの夢を応援したい。『もう、セックスに頼んないで、愛されてみたい』って言ったよね?僕はそんなイルを応援したい」

裏の顔にしてはあまりにも綺麗すぎて怪訝そうな顔をしてしまった。

「そんなの、ご主人様にメリットが一つもないじゃん」

「あるよ。僕はイルに惚れてんだ」

なんてとびきりな笑顔を見せてくれた。

「セックスもしないくせに……何が惚れてるだ……」

俺はそんな彼に悪態をつきながらも、彼とお散歩できるのは願ったり叶ったりなので、警官の制服に袖を通した。着替え終わると、何だか俺が俺じゃないみたいで着心地が悪かった。それでも、彼はそんな俺を見て、

「格好良いよ」

と本当に俺に惚れてるみたいに褒めてくれた。俺は帽子を目深に被って、重い玄関ドアを開けた。外の空気は部屋の空気よりも新鮮で美味しかった。

「レイラ、置いてくよ」

「待ってよ、イル。これも付けて」

と渡されたのはグロック17gen3で俺も実銃持っていいのかとぬか喜びした。この銃はよく作られた、ただの玩具だった。

「ただのBB弾銃かよ」

とそこら辺の草むらに試し撃ちをする。タンッという音が軽すぎる。

「ないよりはある方がいいだろ?それにこれは僕が幼い頃、お小遣いを必死に貯めて買った初めての銃なんだ。だから、大切に使って欲しい……」

と真っ直ぐな目で祈るように言われた。大切なペットを預かっているような気分だ。……嫌になる。

「俺がもし、これを壊したら?」

「意図的じゃなきゃ許すよ」

そう言って微笑むと、ボロアパートの階段を駆け下りていって、立ちすくんでいる俺に「おいで」と手招きする。

「今行くよ、ご主人様」

と俺はその銃を丁寧にホルスターに入れて、俺もまた階段を駆け下りていった。まるで飼い主に呼ばれた犬のように。
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