三つ目の魔術師

山田ミネコ

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第十話 草原の結界

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 その時、とんとん、と塔の扉が遠慮がちにノックされる。

 開いて見ると、耳が魚の鰭の形をした少年が、本人と同じくらいの竜を連れて立っていた。
 竜はやはり自分と同じくらいの大きさの荷車を引いている。


「こんにちは、母ちゃんに言われて、魚届けに来たよ。
 母ちゃんは邪魔しちゃいけないから、当分遠慮しとくって」

 少年は加護に入れた魚を、アルドヴィナに渡してそう言った。

「遠慮????????????」

「まあ、色々忙しいだろうからね」

 少年はませた口調で言って、意味ありげににっと笑う。

「何の事だろう?」

 魚は青年の予言通りイタとメラビーだった。ほかに七匹のジーアと大きなニカが入っている。
 ニカはまだ生きていて、アルドヴィナが籠を抱いていると、隙を見てたたたっと逃げ出してしまった。
 十二本の足を器用に動かして…。

「おっと」

 少年が素早くニカの足をつかんで引き戻す。
 荷車のなかにあったこん棒で、二かの頭を、ごん、と殴ったので、おとなしくなった。

「じゃ、俺これで帰るから、先生によろしくね」

 そう言って少年は笑いながら、竜を引いて去って行く。
 その後ろ姿を、彼女は茫然と眺めていた。
 昨日、半日以上も彷徨ったはずの広い草原が、今見ると丘三つくらいの広さしかない。

 丘の向こうには町だか村だかの神殿の塔の先がのぞいている。
 しかも、少年の引く竜と荷車の下の地面は、草のない道になっていた。
 道はアルドヴィナのいる塔の扉の前からずっと村の方向に延びている。


 どういう事だろう?


 アルドヴィナは加護を床に置いて、扉の外に踏み出した。
 すると、たちまち草が胸の高さまでぐっと伸びて、道も村の方向もわからなくなった。

 草はさわさわと風になびき、波立つ海のようにあとからあとから、うねりが渡って行く。
 扉の中に戻ると、草原はもとの田舎道に変わった。



「ううむ…。そうか、あやつは魔術師だったな、手ごわい敵だ…」



 きっと草原に踏み出して行けば昨日と同じく、くたくたになるまで歩き廻ることになるだろう。

 草原は青年の瞳のように、楽し気な緑に輝いている。




  ▲▲▲▲▲

 少なくてすみません。


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