三つ目の魔術師

山田ミネコ

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第十一話 王宮の記憶

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 アルドヴィナは魔術師と戦った事がなかった。
 だから、どうしたらいいのかさっぱりわからない。

「魔術院の講習を受けておくべきだったな、機会があったら必ずそうしよう」

 これでは、逃げ出すだけでも容易な事ではなさそうだ。
 その上片目を取り戻す事を考えると、途方に暮れてしまう。
 
 魚の籠を台所に置いて、塔の最上階の部屋に閉じこもる。
 窓から外を眺めると、青い海と草の生えた丘が半分ずつ見えた。
 アルドヴィナは椅子に腰かけて、じっくり考えて見る。


 彼はあの危険な試合の時、盾を投げてアルドヴィナを救ってくれたという。
 自分で片目を盗んで危険な状態にしておきながら、一方では命を助けた????

 何がしたいんだかさっぱりわからん。

 それはともかく、あの時王宮にいたという事だ。
 なかなか鮮やかな技を使うが、王宮のお抱え魔術師だったろうか?
 魔術師は皆同じような模様のついた服をぞろぞろ着て、帽子やターバンをかぶっている。
 それだけで十分区別がつけにくい。


 アルドヴィナも仕事柄、王の臣下は皆顔を記憶しているつもりだ。
 しかし魔術師に関しては、それは無意味なのだ。
 彼らは自在に姿を変える事ができるし、しょっちゅうやっているようだ。
 悪戯が大好きなのである。

 仕事でも都合の悪い時は、弟子に自分に化けさせ登城させるなど日常茶飯事なのだ。
 そもそも王事態が魔術師なので、得体の知れない知人友人を引っ張り込むのはしょっちゅうだ。
 そのたびに警備の近衛兵は右往左往させられる。

 彼を王宮で見かけた気もするが、確かではない。
  だが、彼はアルドヴィナを知っていたのだ。しかも、相当親し気な口をきく。
 こちらには彼の姿は確かに覚えがなかった。

 だが、ふとしたおりなどに懐かしい感じがする。
 あの表情が、あの話し方、笑い方が……。
 アルドヴィナの心のどこかが、慕っているような気がする。

「うーん、わからん。だから魔術師なんか嫌だ」

 彼は何と言っていたっけ?
 アルドヴィナがずっとここで暮らすと言えば、目を返してくれる。

「ようし」

 その時、部屋の扉が軽くノックされ、青年の顔が覗いて、

「お昼の支度ができましたよ」

 と言って、またひっこんだ。
 気づいたらいつの間にかお腹がぺこぺこになっている。
 扉の外に出ると、いい匂いがここまで漂って来ていた。

 アルドヴィナは我知らず急ぎ足になって、台所に向かう。




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