三つ目の魔術師

山田ミネコ

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第十三話 窓から妖精

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 大陸最北端のこの地方ではあるが、ほんの少しずつ春から季節が変わる気配が漂い始める。
 うららかな午後。
 塔の最上階の窓から遠くを眺めて、彼女はため息をついた。

「空が飛べたらいいのにな」

 残念だが彼女は人猫類だったので、、翼を持っていない。
 その時,何か光る小さなものがこちらに向かって飛んできた。

「?????????」

 目を凝らして、見定めようとした次の瞬間、

「こんにちは、元気だった?」

 窓枠の上に森の妖精、白い昨日が立っていた。

「あっ、やあ、久しぶりだね」

 一週間もの間、だんまりの生活を強いられたので、話し相手ができたのはとても嬉しかった。
 白い昨日は大きな目をくるくるさせて、部屋を見回す。
 その左手にはアルドヴィナが届けた、薔薇色の石の腕輪をしていた。


「あたしねえ、あいつと結婚したのよ。
 彼、今新しい鉱山を探しに、この近くの山に来ているの。
 私もついて来たんだけど、退屈だから遊びに来たの」

「へええ、結婚した?」

「そうよ、よく知り合って見ればけっこういいやつなのよ。
 顔だってそう悪くもないし」

 やはりあの石が恋愛のお守りだというのは、本当だったのか。
 アルドヴィナはあきれて、じっと小さな妖精の顔を見つめた。
 何か月くらい前だっけ?

「結婚して、どう?」

「どうって、そりゃ楽しいわよ。
 しょっちゅうそばに誰かいるって、結構気が休まるものなのよ」

「側にいるだけなら、私も同じだがな……」

「だって、同じベッドで寝たり、お休みとかおはようとかの挨拶にキスできるし。
 ただ一緒にいるのとは違うわよ」

「キ、キス…、そ、そうか…」

「そうよ、淋しい時には優しく抱いてもらったり、○○○○とか&#xとかだってしちゃうの。
 そうすると、すごく気分がいいのよ。
 いつも春や夏の気持ちイイ日みたいな感じになれるわよ」

「そ、そうなのか?」

「そう、雨の夜とか、風邪の激しい日とかもね。
 淋しいまんま一人でいなくてもいいし」

「ふーん……」

 結婚したばかりの妖精は、アルドヴィナに自分の生活を事細かに喋りまくって、

「あ、いけない、そろそろ彼の仕事が終わるころだわ、私帰るね。
 あんたも頑張らなくちゃだめよ」

 来た時と同じに唐突に帰って行った。




 また一人で取り残されたアルドヴィナは、少し妖精が羨ましかった。
 あの魔術師だって、キスしてくれた事はあるのだ。
 きっと今だって仲直りさえすれば、してくれるに違いない。
 彼の腕の中は暖かくて落ち着いた気分になれた。

 そう、アルドヴィナが夢に見ていた理想の恋人のようだ…。

 それはずっと国王陛下だと思っていたけれど、今はよくわからない。
 現実に陛下は、彼女の手の届く人ではないのだ。
 アルドヴィナの夢の世界の中の事だ。

 誰に言ったこともないし、誰も気づいていないはずの事。
 夢の中でも、最近は区別がつかなくなってしまっている。
 何故だろう?

 確かに、年齢とか背格好は同じくらいだが、特に似ているわけでもないのに。



 彼がずっと一緒だったら、優しく笑いかけてくれたら…。
 もっともっと好きになるに違いない。もっと区別がつかなくなるだろう。
 もしかしたら、陛下を忘れてしまうかもしれない。



 だって、現実には陛下がアルドヴィナを抱きしめて、キスしてくれた事はないのだから…。






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