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二十七話 氷の壁は溶けて
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「……私の読みが外れるなんて、珍しいこともあるものね。ヴィオルが散々甘やかしてると聞いていたから、相当な我儘女王様が出来上がったと思っていたのだけれど」
「え……?」
グローリエの言う意味が理解できず、エリーズは目を瞬かせた。グローリエがすっと立ち上がり、エリーズの隣まで来て跪き頭を垂れる。
「申し訳ございません、王妃様。数々のご無礼……もはや許されることではございませんわ」
「え、あの、グローリエ様……!?」
冷たい物言いをしてきたかと思えば、今度はそれについての懇切丁寧な謝罪――彼女の真意が分からず、エリーズはどんどん混乱するばかりだ。
「あ、あの、どういうことでしょうか……?」
「失礼ながら貴女のことを試させて頂きました。王妃として相応しい人物か、どうしても私自身の目で確かめたかったのです。貴女が他の貴族たちからどのように思われているかについて、お話ししたことは残念ながら嘘ではございません。ですが、かなり言い方を極端に致しました」
建前上はエリーズを王妃として認めていても、あまり良い感情を抱いていない貴族も確かに存在するのだ。徐々に冷静さを取り戻してきたエリーズは、姿勢を低くしたままのグローリエを見てはっとした。慌てて席を立ち、彼女の隣にかがむ。
「グローリエ様、どうかお席にお戻りください。このままではきちんとお話がしづらいです。わたしはグローリエ様のことを怒ったり責めるつもりはありませんから」
「……寛大なお心に感謝致しますわ」
彼女の物言いには確かにきついものがあったが、エリーズにとって自分を見つめ直す機会になったことも確かだ。
グローリエがゆっくりと自席に戻るのを見届け、エリーズも椅子に腰かけ直した。それで、とグローリエが再度口を開く。
「先ほどの王妃様のご質問の答えですが、貴女にとって必要なことはすでにすべて身につけておいでです。どうか毎日笑顔でヴィオルに接してあげてくださいな。それがひいては民のためになりますわ。今のあの方の原動力は貴女ですから」
「でも、ただそれだけなんて……」
「王妃様を悪く言う者は、貴女のことをよく知らないだけです。今の貴女のお姿を周りに見せ続けてください。王妃様がこれからも私をエーデルバルト家の公女として認めてくださるなら、僭越ながら私の力を貴女のために使いますわ」
「はい、あの、こちらこそよろしくお願い致します!」
エリーズの王妃としての志がグローリエに伝わった――胸が安堵で満たされたが、エリーズはすぐに彼女が言ったもう一つのことを思い出した。
「あの……グローリエ様、もう一つだけお聞きしたいことが」
「何でしょう?」
「グローリエ様は、ヴィオルのことが今も好きですか?」
それを聞いた瞬間、グローリエの鼻の頭に思いきり皺が寄った。淑女らしからぬ表情だ。
「どうしてそのようなお考えに至ったのか分かりかねますし、きっぱり否定させて頂きますわ。良き友人だとは思っていますけれど、それ以上のことは何もありません」
まくしたてるように言い、心を落ち着けるかのように茶を一口飲む。その様子から、彼女が嘘をついているようには思えなかった。今までの挑戦的な物言いは、ヴィオルへの想いを断ち切れずエリーズが彼の伴侶として相応しいかを見極めるためのものなのかとエリーズは思っていたがどうやら違うらしい。
「そ、そうなのですね。失礼致しました」
「……お近づきの印に、私の秘密を少しだけお教えしましょうか」
鮮やかな紅をさしたグローリエの唇が、笑みを形作る。
「私には、想い人がおりますの」
「まあ!」
エリーズは目を丸くした。完璧なまでに美しいグローリエが恋い慕う、ヴィオルではない誰か――どのような人物なのだろう。
「あの、わたしの知っている方でしょうか?」
おそらく詮索し過ぎない方がいいのだろうが、好奇心が抑えきれなかった。エリーズの胸中を察したのか、グローリエが楽し気な笑い声をあげた。
「ええ。秘密は女性を飾る見えない真珠ですから名前はここでは申し上げませんけれど、せっかくですから一つだけヒントを……私は紫水晶より、真っ赤なルビーの方が好きなのです」
手がかりをもとにエリーズは少しだけ考えてみたが、「真っ赤なルビー」を連想させる人物が思い当たらない。それは一旦頭の脇に押しやって、エリーズは更に問うた。
「ヴィオルのことを好きだという方が他にいらっしゃったとしても……当然だと思います。その方々と、わたしはどのように接していけばいいのでしょうか……」
「必要以上にお惚気を見せつけるのは論外ですけれど、変に萎縮することも悪手です。失恋なんて、人生においてとりわけ珍しいことではありませんもの。堂々としていればいいのです。貴女はヴィオルに選ばれて、ヴィオルを選んだのですから」
初めての恋が幸せに成就したエリーズにとっては失恋というものは身が切られるような悲劇と同列にも思えたが、グローリエが言うなら違うのだろう。
胸のつかえが次々と取り払われていく。エリーズはグローリエに対し頭を下げた。
「グローリエ様、本当にありがとうございます。わたし、色々と不安で……でも今日、すごく助けられました」
彼女はエリーズの中ですっかり、同じ貴族社会で生きる頼れる姉のような存在になっていた。いつか自分もグローリエのような女性になれるだろうか。
「……本当にお優しい方。先ほども申し上げました通り、私は王妃様の味方を致しますわ。近いうちにまた同じ年頃の令嬢の皆さんと集まる時があったなら、その時は王妃様のお気持ちをお相手にきちんと話すようにして下さいませ。悪いようにはなりませんから」
「は、はい。分かりました」
グローリエが一体何をするのかは分からないが、味方をしてくれる、という言葉はエリーズにとってとても心強かった。
「それから、何かあったらいつでもここにいらして下さい。私が常にお相手できるとは限りませんが、使用人たちにはきちんと王妃様をおもてなしするよう伝えておきます」
「あの、グローリエ様、そこまでして頂かなくても……」
「ヴィオルと上手くいかなくなる時だってあるかもしれないでしょう……あの人、相当愛が重いと噂になっていますのよ。今だって本当は辛いのではなくて?」
「愛が重い……ですか?」
エリーズは首を傾げた。ヴィオルとの夫婦仲は極めて良好のはずだ。確かに彼が向けてくれる愛はエリーズの両手では抱えきれないくらいではあるが、それは幸せ以外の何でもない。
「重くなんてありません。わたしは今とっても幸せです」
にっこり笑って言い切るエリーズを見て、グローリエは呆気にとられたような顔をして口元に手をやった。
「……お似合いすぎて怖いわ」
***
それから幾ばくか日が経った。エリーズは再び、以前共にテーブルを囲んだ令嬢たちを呼んで茶会を開いていた。
「レティシアさんのドレス、今日は薔薇色でとても綺麗だわ」
エリーズから話しかけられたレティシアの顔に張り付けたような笑みが浮かぶ。
「これは全然大したことのないもので……」
以前とまったく同じ流れ――エリーズはグローリエの言葉を思い出し、口を開いた。
「レティシアさん、そんな風に言ってはいけないわ。あなたにそれを贈った方や、作った方に失礼になってしまうでしょう?」
レティシアがはっとしたような顔をする。他の令嬢たちも互いに顔を見合わせた。
「あなたはそのドレスのどこが好き?」
エリーズの問いかけにレティシアは一瞬俯いた後、頬を赤く染めた。
「これは去年の誕生日に、お父様がわたしにくださったものです……わたしの頬の色によく合うからと。それがとても嬉しくて」
「まあ、素敵なお父様だわ! レティシアさんのことをとても愛しておられるのね」
エリーズが微笑んで言うと、レティシアは嬉しそうにはにかんだ。作り笑いではない、心からのものだ。その様子に、令嬢たちは何かを確かめ合うかのように互いに頷き、話し出した。エリーズは全てに明るく答えた。
「このドレスは領内の仕立て屋に頼んだものです。わたしのお母様もおばあ様も同じ方に作って頂いていて」
「そんなに長い間、お仕事を続けられている方がいらっしゃるのね! 素晴らしいことだわ」
「わたしの屋敷の庭には季節になるとたくさんの百合が咲くので、このドレスにも百合のモチーフを使っているんです」
「素敵。わたしも百合の花は大好きよ。是非ともお屋敷のお庭を見せて頂きたいわ」
その後も、話は大いに盛り上がった。ドレスの話だけではなく、家族の話、好きな本について――すっかり令嬢たちと打ち解けたエリーズは、以前の何倍も楽しいひと時を過ごした。
***
明くる日。国王と面会するべく王城を訪れたグローリエ・エーデルバルトを迎えたのは、国王の近侍ジギス・クルディアスだった。
「お迎えありがとうございます、ジギス殿」
ドレスの裾をつまみ挨拶をするグローリエに、ジギスも片手を胸に当てて礼を返す。ひとまとめにしてある彼の赤い髪がわずかに揺れた。
「ようこそいらっしゃいました。陛下の元にご案内致します」
王城内に足を踏み入れ廊下を歩く間も、ジギスは客人にたまに目をやる以外のことはしない。
「ジギス殿はその後お変わりなくて?」
グローリエが問うても、ジギスは短くはいと答えるだけだ。
「大変でしょう。陛下は王妃様に夢中でいらっしゃいますものね」
「お気遣いありがとうございます」
「今度、私の屋敷にご招待致しますわ。食事でもしながら陛下への愚痴を言い合うのはいかがかしら」
「……またいずれ」
ジギスの耳に入らないようにグローリエはため息をこぼした。密かに慕う真っ赤なルビーは、今日も変わらず素っ気ない。
この想いを知る唯一の他人であるヴィオルが、今日グローリエを迎える役目にわざわざジギスを寄越してくれたのだろうが、進展は望めないままだ。
(実に前途多難だわ)
その心の声が鉄仮面をすり抜けることはなかった。
「え……?」
グローリエの言う意味が理解できず、エリーズは目を瞬かせた。グローリエがすっと立ち上がり、エリーズの隣まで来て跪き頭を垂れる。
「申し訳ございません、王妃様。数々のご無礼……もはや許されることではございませんわ」
「え、あの、グローリエ様……!?」
冷たい物言いをしてきたかと思えば、今度はそれについての懇切丁寧な謝罪――彼女の真意が分からず、エリーズはどんどん混乱するばかりだ。
「あ、あの、どういうことでしょうか……?」
「失礼ながら貴女のことを試させて頂きました。王妃として相応しい人物か、どうしても私自身の目で確かめたかったのです。貴女が他の貴族たちからどのように思われているかについて、お話ししたことは残念ながら嘘ではございません。ですが、かなり言い方を極端に致しました」
建前上はエリーズを王妃として認めていても、あまり良い感情を抱いていない貴族も確かに存在するのだ。徐々に冷静さを取り戻してきたエリーズは、姿勢を低くしたままのグローリエを見てはっとした。慌てて席を立ち、彼女の隣にかがむ。
「グローリエ様、どうかお席にお戻りください。このままではきちんとお話がしづらいです。わたしはグローリエ様のことを怒ったり責めるつもりはありませんから」
「……寛大なお心に感謝致しますわ」
彼女の物言いには確かにきついものがあったが、エリーズにとって自分を見つめ直す機会になったことも確かだ。
グローリエがゆっくりと自席に戻るのを見届け、エリーズも椅子に腰かけ直した。それで、とグローリエが再度口を開く。
「先ほどの王妃様のご質問の答えですが、貴女にとって必要なことはすでにすべて身につけておいでです。どうか毎日笑顔でヴィオルに接してあげてくださいな。それがひいては民のためになりますわ。今のあの方の原動力は貴女ですから」
「でも、ただそれだけなんて……」
「王妃様を悪く言う者は、貴女のことをよく知らないだけです。今の貴女のお姿を周りに見せ続けてください。王妃様がこれからも私をエーデルバルト家の公女として認めてくださるなら、僭越ながら私の力を貴女のために使いますわ」
「はい、あの、こちらこそよろしくお願い致します!」
エリーズの王妃としての志がグローリエに伝わった――胸が安堵で満たされたが、エリーズはすぐに彼女が言ったもう一つのことを思い出した。
「あの……グローリエ様、もう一つだけお聞きしたいことが」
「何でしょう?」
「グローリエ様は、ヴィオルのことが今も好きですか?」
それを聞いた瞬間、グローリエの鼻の頭に思いきり皺が寄った。淑女らしからぬ表情だ。
「どうしてそのようなお考えに至ったのか分かりかねますし、きっぱり否定させて頂きますわ。良き友人だとは思っていますけれど、それ以上のことは何もありません」
まくしたてるように言い、心を落ち着けるかのように茶を一口飲む。その様子から、彼女が嘘をついているようには思えなかった。今までの挑戦的な物言いは、ヴィオルへの想いを断ち切れずエリーズが彼の伴侶として相応しいかを見極めるためのものなのかとエリーズは思っていたがどうやら違うらしい。
「そ、そうなのですね。失礼致しました」
「……お近づきの印に、私の秘密を少しだけお教えしましょうか」
鮮やかな紅をさしたグローリエの唇が、笑みを形作る。
「私には、想い人がおりますの」
「まあ!」
エリーズは目を丸くした。完璧なまでに美しいグローリエが恋い慕う、ヴィオルではない誰か――どのような人物なのだろう。
「あの、わたしの知っている方でしょうか?」
おそらく詮索し過ぎない方がいいのだろうが、好奇心が抑えきれなかった。エリーズの胸中を察したのか、グローリエが楽し気な笑い声をあげた。
「ええ。秘密は女性を飾る見えない真珠ですから名前はここでは申し上げませんけれど、せっかくですから一つだけヒントを……私は紫水晶より、真っ赤なルビーの方が好きなのです」
手がかりをもとにエリーズは少しだけ考えてみたが、「真っ赤なルビー」を連想させる人物が思い当たらない。それは一旦頭の脇に押しやって、エリーズは更に問うた。
「ヴィオルのことを好きだという方が他にいらっしゃったとしても……当然だと思います。その方々と、わたしはどのように接していけばいいのでしょうか……」
「必要以上にお惚気を見せつけるのは論外ですけれど、変に萎縮することも悪手です。失恋なんて、人生においてとりわけ珍しいことではありませんもの。堂々としていればいいのです。貴女はヴィオルに選ばれて、ヴィオルを選んだのですから」
初めての恋が幸せに成就したエリーズにとっては失恋というものは身が切られるような悲劇と同列にも思えたが、グローリエが言うなら違うのだろう。
胸のつかえが次々と取り払われていく。エリーズはグローリエに対し頭を下げた。
「グローリエ様、本当にありがとうございます。わたし、色々と不安で……でも今日、すごく助けられました」
彼女はエリーズの中ですっかり、同じ貴族社会で生きる頼れる姉のような存在になっていた。いつか自分もグローリエのような女性になれるだろうか。
「……本当にお優しい方。先ほども申し上げました通り、私は王妃様の味方を致しますわ。近いうちにまた同じ年頃の令嬢の皆さんと集まる時があったなら、その時は王妃様のお気持ちをお相手にきちんと話すようにして下さいませ。悪いようにはなりませんから」
「は、はい。分かりました」
グローリエが一体何をするのかは分からないが、味方をしてくれる、という言葉はエリーズにとってとても心強かった。
「それから、何かあったらいつでもここにいらして下さい。私が常にお相手できるとは限りませんが、使用人たちにはきちんと王妃様をおもてなしするよう伝えておきます」
「あの、グローリエ様、そこまでして頂かなくても……」
「ヴィオルと上手くいかなくなる時だってあるかもしれないでしょう……あの人、相当愛が重いと噂になっていますのよ。今だって本当は辛いのではなくて?」
「愛が重い……ですか?」
エリーズは首を傾げた。ヴィオルとの夫婦仲は極めて良好のはずだ。確かに彼が向けてくれる愛はエリーズの両手では抱えきれないくらいではあるが、それは幸せ以外の何でもない。
「重くなんてありません。わたしは今とっても幸せです」
にっこり笑って言い切るエリーズを見て、グローリエは呆気にとられたような顔をして口元に手をやった。
「……お似合いすぎて怖いわ」
***
それから幾ばくか日が経った。エリーズは再び、以前共にテーブルを囲んだ令嬢たちを呼んで茶会を開いていた。
「レティシアさんのドレス、今日は薔薇色でとても綺麗だわ」
エリーズから話しかけられたレティシアの顔に張り付けたような笑みが浮かぶ。
「これは全然大したことのないもので……」
以前とまったく同じ流れ――エリーズはグローリエの言葉を思い出し、口を開いた。
「レティシアさん、そんな風に言ってはいけないわ。あなたにそれを贈った方や、作った方に失礼になってしまうでしょう?」
レティシアがはっとしたような顔をする。他の令嬢たちも互いに顔を見合わせた。
「あなたはそのドレスのどこが好き?」
エリーズの問いかけにレティシアは一瞬俯いた後、頬を赤く染めた。
「これは去年の誕生日に、お父様がわたしにくださったものです……わたしの頬の色によく合うからと。それがとても嬉しくて」
「まあ、素敵なお父様だわ! レティシアさんのことをとても愛しておられるのね」
エリーズが微笑んで言うと、レティシアは嬉しそうにはにかんだ。作り笑いではない、心からのものだ。その様子に、令嬢たちは何かを確かめ合うかのように互いに頷き、話し出した。エリーズは全てに明るく答えた。
「このドレスは領内の仕立て屋に頼んだものです。わたしのお母様もおばあ様も同じ方に作って頂いていて」
「そんなに長い間、お仕事を続けられている方がいらっしゃるのね! 素晴らしいことだわ」
「わたしの屋敷の庭には季節になるとたくさんの百合が咲くので、このドレスにも百合のモチーフを使っているんです」
「素敵。わたしも百合の花は大好きよ。是非ともお屋敷のお庭を見せて頂きたいわ」
その後も、話は大いに盛り上がった。ドレスの話だけではなく、家族の話、好きな本について――すっかり令嬢たちと打ち解けたエリーズは、以前の何倍も楽しいひと時を過ごした。
***
明くる日。国王と面会するべく王城を訪れたグローリエ・エーデルバルトを迎えたのは、国王の近侍ジギス・クルディアスだった。
「お迎えありがとうございます、ジギス殿」
ドレスの裾をつまみ挨拶をするグローリエに、ジギスも片手を胸に当てて礼を返す。ひとまとめにしてある彼の赤い髪がわずかに揺れた。
「ようこそいらっしゃいました。陛下の元にご案内致します」
王城内に足を踏み入れ廊下を歩く間も、ジギスは客人にたまに目をやる以外のことはしない。
「ジギス殿はその後お変わりなくて?」
グローリエが問うても、ジギスは短くはいと答えるだけだ。
「大変でしょう。陛下は王妃様に夢中でいらっしゃいますものね」
「お気遣いありがとうございます」
「今度、私の屋敷にご招待致しますわ。食事でもしながら陛下への愚痴を言い合うのはいかがかしら」
「……またいずれ」
ジギスの耳に入らないようにグローリエはため息をこぼした。密かに慕う真っ赤なルビーは、今日も変わらず素っ気ない。
この想いを知る唯一の他人であるヴィオルが、今日グローリエを迎える役目にわざわざジギスを寄越してくれたのだろうが、進展は望めないままだ。
(実に前途多難だわ)
その心の声が鉄仮面をすり抜けることはなかった。
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