わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

寂しい

8

　十代の頃からパーティーで見かけたその六つ上の令嬢に憧れていたこと。
　何度かパーティーで会って話してはいたが、令嬢は同じ侯爵家の男と結婚してしまったこと。
　エミリオはずっとこの想いをただ胸に秘めてきたらしい。
　侯爵令嬢と公爵家に仕える執事では確かに身分が違い過ぎる。
　だが、リューラの宣言でそれも自由になった。
　実際それでどのくらいの変化があったかはわからないが、エミリオのように一歩踏み出すようになって欲しいとは思う。

「陛下とサライド様を見て私も……と勇気を頂いたので、そんな辛いお顔して頂きたくないんです」

　微笑まれた俺は照れくさくなって窓から空を見上げた。
　星が輝く穏やかな空。
　先に見える橋を渡って丘を越えると城に近い街に入る。
　リューラに会えるかもしれない。
　急に来たことに驚くだろうか？
　きっと強すぎる力で抱き締めてくれる。
　キスをして俺の髪にもそっと触れるだろう。
　あの爽やかな香りを思い出してキュンとしてしまった。

「父は私がハイドン侯爵のご令嬢とよく一緒に居ることに気付いて私を旦那様につけて引き離そうとしましたけどね」
「それはどうだろうな？」

　座り直してまた運転を再会しようとするエミリオをまっすぐ見る。

「お前は父さんに着いてディオー村によく行っただろう？引き離す気ならあの訳アリの集落をわざわざ見ることかできるようにしないだろ？」

　車が動き出して夜の静かな道を進む中、時折鼻を啜るのが聞こえた。