最高に熱くて楽しい夏の話

Coco

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救世主・・・語り、枚田朝斗(ひらたあさと)

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「さ、部活部活♪」
「よし、行くか・・・ってアキ、部活はいってないじゃん」
 匡弥から後輩の話を聞いた翌日。オレたちが部活へいくとき、なぜかアキも一緒にいた。いつもだったらバイトの時間までナリと一緒に写真部で遊んでたりするんだけど、今日は匡弥と継亮と一緒にいる。
「今日から野球部だから」
「はぁ?」

「ほんとに野球やってる・・・」
「冗談かと思ったよ」
 オレもナリも和騎も継(けい)亮(すけ)も今日は自分の部活そっちのけで野球部のベンチにいる。そして、グランドを駆け回っているのは匡弥率いる秋沢野球部員・・・9人。
「じゃあ、4:5で別れて練習しよう」
「はい!」
 練習は匡弥チームと大関チームに分かれて行うらしい・・・そして、アキは・・・。
「ホームラン打つからー!」
 打席でオレたちに手を振る。
「打てるわけねーだろ!」
 カキーン!
「打った・・・」
 ものすごくいい音がして、アキのバットに当たったボールが向こうのフェンスにぶつかった。
「ファール!」
 グランドに大関の声が響く。
「はぁ~」
 夏の公式戦にエントリーするべくアキはピンチヒッターとして野球部に入部した。打つには打ってるけど、方向がばらばらだ。足も速くて運動神経はいいけど、打線はイマイチ。
「大丈夫かな」
「ま、いないよりはましだろ」
 でも、部活中の匡弥は鬼のように怖いから、アキは終始怒鳴られてる。それを大関がとりなす。まさにアメとムチ状態。
「ナリー!打った瞬間写真とって!」
「え?次?」
 ナリはいつの間にかアキの専属カメラマンとなってグランドを走る。
「お、そうか!」
「え?」
「アキのTシャツ作って売ろう!」
 継亮の名案はいつもながらになんだか危なげ。確かにアキは今すぐジャニーズは入れそうな顔はしてるけど。
「去年文化祭で同じのやって生徒会から超怒られたじゃん」
「野球部バージョンにすんだよ。売れたら関谷の遠征費用と合宿代がまかなえる!」
 名案とばかりに継亮が切れ長の目をキランと光らせる。
「なるほど」
 かくしてオレたちは野球部救世隊として活動し始めた。

「いよいよ明後日だ・・・」
 関谷の抜けた(アキが入った)新生野球部に初の練習試合の申し込みがやってきた。対戦相手はお隣、柚木高校だ。グランドは秋沢(うち)。
 オレたちはもちろん応援に。会場でアキTを売るのも目的に。
「ほら、団扇も作ったぞ」
 和騎が箱いっぱいに団扇を持ってきた。
「あっつくなってきたから売れそうだね」
 もう五月・・・夏はすぐそこまで来ている。
「でも、みんな、おれのことばっかりで、自分の部活はいいの?」
 練習中とか試合中の匡弥は鬼だけど、普段は逆にオレたちの心配ばかりしてる。
「俺は大学入ったら箱根を走るから、今年はいいよ」
 陸上部の長距離ランナー・和騎の目標は箱根駅伝だ。小学生の頃から変わらない。そのときは、沿道で和騎の応援をするよ。あんまり遠いと移動がしんどいから、2区くらいだとありがたいけど。
「オレは楽しそうなみんなの写真が撮れて、毎日楽しいよ」
 ナリが撮り続けているのはまさにオレたちの青春の記録になるのだろう。
「救世主としてホームラン打つから任せといて」
 自分のバスケとバイトと野球部の掛け持ちでめちゃめちゃ忙しいけど、アキはいつも笑顔で、さすがにタフだ。
「匡弥の為だっていえば小松に怒られることもないし、サボれて一石二鳥だな」
 本来弓道部員の継亮の袴姿もしばらく見てない。何もなくてもサボりまくる継亮を毎度探しに来ては怒る後輩小松さんの姿もしばらく見ていない。でも、Tシャツにハーパンもそろそろ見慣れてきたよ。
「オレも新しいことができて楽しいから」
 オレも別にテニスにかけてるわけじゃない。甲子園は、高校生じゃないといけない場所だから、たとえ甲子園にいけなかったとしても、一歩でも、匡弥たちがそこに近づければいいと思う。
「ありがとう」
 久しぶりに泣きそうな匡弥を見た。
「どういたしまして」
 泣くのは、甲子園に行ってからね。

練習試合当日
「半沢、関谷は?」
「今日は、休みです」
 言い訳のネタも尽きて、匡弥と大関はもはや浅見先生を誤魔化しきれなくなっている。でも、潔く“休み”のひとことで切り抜けた。それが嘘だということに、浅見先生も気づいているだろう。でも、もう何も言わない。なぜなら、オレたち全員が普段の部活と掛け持ちで野球部員になっているからだ。
「これさ、誰かが怪我とかしたら、代打って回ってくんのかな?」
「そりゃくるんじゃない?」
「そのための部員だろ」
 オレたちも一応毎日の練習には参加しているけど、アキ以上にだめだめだ。代打が回ってきたら・・・考えるのは止めとこう。そのときが来るまで。・・・今日は、出番ないかもしれないし。
「空振り三振でも許してくれるー?」
「許さーん!必ず打てー!」
「肩の力を抜いて~、気楽にでいいから~」
 打席から手を振るアキとそれに答える匡弥と大関。
「継ちゃん、差し入れ」
 継亮の彼女の有里ちゃんががんがんに凍った2リットルのアクエリアスのボトルを持ってたバックからどんどん取り出す。どんどん・・・どんどん・・・。
「有里、意外と力あるんだな」
「今日は助っ人がいるから」
 有里ちゃんの後ろから顔を覗かせたのは、他校生で匡弥の彼女でマリ・ベーカリーのアルバイトをしている結実ちゃんだった。
「駅で会ったの」
 有里ちゃんは夏祭りでたった一度だけ会った結実ちゃんのことを覚えていたのだ。さすがミス・秋沢。才色兼備ね。
「じゃあね、活躍を期待してる」
「できればグランドに立たなくて済むことを願うわ」
 オレも。

 練習試合は延長の末の一点差負け。オレたちに代打も回ってこなかった。ほっと一安心・・・でも。
「このままじゃよくないな」
 和騎の言うとおり。
「代打が回ってきたときにちゃんと打てるようになってないと、いざというときに代打の意味がないよ」
 これから何試合もあるんだから、毎回毎回“代打が回ってきませんように”って祈って過ごすわけにもいかないし。本腰を入れて練習する必要がある。匡弥の役に立てるように。
「よし、明日から練習するぞ」
 いや、今までも練習はしてたけど・・・。
「OK」
「で、今日の売り上げは?」
「Tシャツと団扇と合わせて七千五百円」
 試合には負けたけど、まずまずの滑り出しということにしておこう。
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