貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

御伽噺の王子様が最初からキス上手いのは絶対おかしいと思わねぇか?

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 「ありがとう。それとさっきの話だけど、マリーは役立たずなんかじゃない。剣一辺倒で生きて来た人間にいきなり商売について語れと言っても的外れな事しか言えないのと同じ事だよ。そりゃあ戦う事は戦える人がやる事だけど、守る方法は必ずしも一つじゃない。皆、守るために自分に出来る事を精一杯頑張ってるんだと思う。だからマリーも家族の為に自分に出来る事を探せばいいんじゃないかな」

 紙を畳んでポケットにしまいながらグレイがそう言った。

 ――私に、出来る事。

 その言葉は心にすっと染み入るように入って来た。気持ちが少し軽くなったように思う。

 「何か、あるのかしら……」

 「きっとあるさ。分からなかったら詳しい人に聞けばいい。自分に何が出来るのか、どうしたら一番良いのかって」

 「グレイは私に何が出来ると思う?」

 彼は微笑んでポケットをポンポンと叩いた。

 「もう一つあるじゃないか。僕に『ピストル』というものを教えてくれた。マリーは知っていたんだろう? 僕は秘密を守れる鍛冶職人に伝手があるから試してみようと思うんだ。もしかしたら凄い物が出来るかも知れないしね。商人としての僕がマリーを守るために出来る事の一つがそれ」

 「あ……ありがとう。話を聞いてくれたのも。少し気が楽になったわ」

 羞恥に頬を熱くさせながら答えると、「じゃあお礼をして貰わないとね!」とグレイがおどけたように両手を広げた。

 はあぁ!?

 「お礼!?」

 思わず素で声を上げた私。グレイは悪い笑みを浮かべて人差し指でトントンと唇を叩いている。

 「ほら、お姫様の一大事に駆け付けた王子様にはご褒美のキスが必要だよね? あっ、先日みたいないきなりなのは無しだよ」

 こっ、この野郎! そんならやってやろうじゃないか!

 私は立ち上がるとグレイの膝の上に座った。彼の首――は問題があるから、その両肩をわしっと掴む。恥ずかしさを誤魔化す為にもぎゅっと目を瞑ってグレイにディープキスをかまそうとして――「あだっ…!」唇同士が触れ合うや否や、がつっと歯と歯が勢い良くぶつかってしまった。

 「~~~!」

 私は思わず顔を離して手で口元を押さえた。かなり痛い……キスはまたもや大失敗である。
 目なんて瞑るんじゃなかったと後悔しても後の祭り。

 グレイの体が小刻みに揺れるのが振動として伝わってくる。
 大きな声で笑いだしたいのを我慢するような忍び笑い。私は抗議の意を込めて彼の胸をパシパシと軽く打った。

 「ごめんごめん、マリーがあんまり可愛いからだよ」

 「知らない!」

 笑いが収まったグレイがそう言うも、私は湯気が立ちそうな熱い顔でそっぽを向いた。
 クスリと笑う気配がして体がふわっと温もりに包まれる。グレイに抱きしめられたのだ。

 「本当に、無事で良かった。僕は僕の出来る事でマリーを守るから」

 感情を押し殺したように耳元で囁かれ、更にぎゅっと引き寄せられる。
 その掠れ気味の声は、少し震えていた。


***


 「グレイ……?」

 どれほどの間そうしていただろうか。
 名を呼んでそっと背中を撫でると、グレイはぱっと拘束を緩め、視線を合わせてきた。予想に反して興味深々な感情を浮かべている。

 「そう言えば、凄く気になるんだけどマリーが作ったものってどんな物? 空に浮かぶなんて!」

 「ああ、えっと……それはね、」

 私はミニ気球の作りを説明した。「火を灯すと、それが上昇する風を作るから浮かぶの」 
 厳密に言えば若干違うが、簡単に理解出来るように話した。密度、空気の膨張、浮力等と言っても面倒だしな。
 グレイはそういう仕組みなんだね、と面白げに聞いていた。

 「そう言えば聞いた事がある。こないだマリーに贈ったクァイツの国だったと思う、その国にそういうものがあるって。実物は流石に見た事無かったけど、本当にあるんだね」

 もしやと思って植物で作った紙もそこの国から伝わったのでは、と聞くと、多分そうだと思うと返して来た。中国に似た国なのかも知れない。確かにミニ気球は中国ではかなり古くからあるものだから。
 私は納得して頷いた。

 「そうなのね。大きくすればきっと人を乗せて飛ぶことも出来るわ」

 そう言うと、グレイは目を見開いた。

 「人を乗せて! 人類の夢じゃないか。本当に?」

 「ええ。ただ沢山の燃料と軽くて風を通しにくい布が沢山要るでしょうけれど。それに出来たとしても、実験を繰り返して安全性をチェックしないと人を乗せるには危険だと思うわ」

 人を乗せて運ぶのは現時点ではちょっと厳しいかも知れない。布も化学繊維が一番良いんだけど。石炭と絹を使えばいけるだろうか。
 でもなぁ。気球なんて実用化しても行先は風任せ、地球の歴史でもすぐに飛行機に取って代わられたものだし。開発するのにも結構な費用がかかるだろう。使えたとしても繋留しての敵情視察とか空の遊覧ぐらい?
 うっかりプロペラ付けて飛行船にしようものなら命知らず共がうっかり竜の巣に突っ込んで天空の城を発見しかねない。冗談はさておき、正直ミニ気球のお遊び程度にしておいた方が良さそうな代物だ。

 「それでも可能性があるなら十分凄いよ!」

 良かったら今度作って見せて欲しい、とグレイはワクワクした様子で大空の夢に顔を輝かせていた。
 夢いっぱいのお年頃なんだなぁと思って微笑ましく眺めていると、ふと彼がこちらを見た。
 そのまま自然に引き寄せられ、唇にキスを落とされた。今度は軽いそれだけじゃない。ちゅ、ちゅ、と離れては付きを繰り返しながらやわやわと動かされ、少しずつ深くなっていく。

 「んぅっ……!?」

 与えられる熱量に吐息を漏らす。

 い、息が出来ないぃぃ~!

 舌が入れられて貪られるようにキスをされている私は、呼吸困難に直面していた。若干眩暈もする。きっと心臓がバクバクいっているに違いない。

 というか、キス上手くないかグレイ!? どこで学んできたのやら。

 いっぱいいっぱいになりながらもそんなことを脳裏でちらりと考える。いつか問い詰めてやろう。
 グレイの手がどことなくいやらしい手つきで背中や腰、太腿を撫でている。いつの間にかスカートは捲れあがっていた。その手を何と無しに捕まえたところで唇が離される。

 「まずいな、これ以上は。理性が」

 息を荒げながら首を振って呟くグレイ。丁度その時、トントンと扉が叩かれる。
 「お夕食の準備が整ったそうです。開けても大丈夫でしょうか?」とサリーナの声が聞こえ、私はきゅうりに驚いた猫の如くぴゃっと飛び上がってソファーから離れた。

 「た、助かった……」

 そのままソファーに倒れ込み、呟くグレイ。

 その後の食事中、私はずっと頭が働かず、ただぼんやりと食事をする人形と成り果てていた。
 どんな会話がなされたのかもあまり記憶はない。

 夕食後、グレイと義兄アールは父に話があると呼び出されて行った。
 私は自室へ戻ったが、悶々と眠れぬ夜を過ごしたのは言うまでもない。
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