貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
54 / 744
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

クジャク再び。

しおりを挟む
 「マリー!」

 人の気配と物音にそちらに視線を向ける。現れたのはアン姉だった。後ろにザイン・ウィッタードと見知らぬ男性を連れている。
 私は姿勢を正すと淑女の礼を取った。

 「まあ、ザインお義兄様。ご無沙汰しておりましたわ。そちらのお方も、お初にお目にかかります。マリアージュ・キャンディと申します」

 そつなく挨拶をすると、グレイも慌てて礼を取り、名乗りを上げた。
 見知らぬ男性は金髪碧眼で見目がかなり良い。ザインと共に現れたという事は第一王子殿下だろうか。そうでなくともそれなりの高貴な身分のお方には違いない。

 視線を上げるとザインの青い瞳に一瞬怯えの色が見えた。気のせいだろうか。紳士の礼を取った後、前見た時の如く落ち着かなさげに斜め四十五度の角度の顔で、視線だけこちらへ流してその栗色の髪を掻き上げる。

 メァオー! メァオー! バサァー。

 クジャク再び。挙動のウザさなら先程のメイソンを上回る。ぶん殴りてぇ。

 アン姉は「マリーったらいけない子ね、思い出してしまうわ」と言いながらクスクスと笑っている。知らぬはザインばかりなり。

 「やあ、お久しぶりですね、マリアージュ。お元気そうで何よりです。グレイ・ルフナー殿も初めまして、お噂はかねがね。キーマン商会には当家も世話になっています。
 それにしても久しぶりのキャンディ伯爵家、婚約式という晴れの舞台だというのに、私は先程までティヴィーナ様に笑顔で虐められていましたよ」

 言って、スカした笑みを浮かべるザイン。どこを見ているのか視線をこちらにしっかり合わせて来ない。ルックスは悪くないのに色々と残念な男である。

 「まあ、母は理由無く他人を虐めるような人間ではありませんわ。そう思われたのならご自分の中に何かやましいものがおありだったのではなくて?」

 にっこり笑顔を作って小首を傾げながらチクリとしてやると、ザインの頬がピクリと動く。
 助け船を出すつもりなのか、見知らぬ男性が紳士の礼を取り、声を掛けてきた。

 「お初にお目にかかります、マリアージュ姫。私はウエッジウッド子爵ギャヴィンと申します。お会いできて光栄です」

 「あっ、」

 ザインが慌てたように口をパクパクさせた。ウエッジウッド子爵と名乗った男はそちらを見て一つ頷くと、こちらに向き直る。

 「お話の腰を折るような不躾ぶしつけな真似をして申し訳ございません。事情を知る者としてご説明を、と思いまして。
 先日、ザイン殿はけしてアン姫を蔑ろにした訳ではなく、命令で已む無く第一王子殿下の客人をエスコートしただけなのです」

 事情を知る者ね。王子殿下の学友か何かだろうか。
 しかし命令で客人をエスコート? 自分の客を他人に接待させるっておかしくないか。

 「ウエッジウッド様と仰ったかしら。それならば何故王子殿下ご自身がエスコートなさらなかったのでしょう?」

 突っ込むと、ギャヴィンは困ったような表情を浮かべ肩を竦めた。

 「お立場上、無責任な噂が立ちやすいのですよ。その噂を利用して良からぬ考えを抱く者も多いものですから。客人もそれなりの身分のお方ですし、他の貴族に任せる訳にもいかなかったのです」

 成程な。それなら納得出来なくもない。噂で周囲が勝手に動いて既成事実を作られる、第一王子ともなれば尚更だろう。

 「……そう言う事でしたの。では、アン姉様との誤解は解けたと考えて差支えありませんかしら?」

 アン姉を見ると、「ええ……マリーにも心配を掛けたわね」と微笑んで頷いている。

 アン姉が泣く事にはならなさそうだ。安心して胸を撫で下ろしていると、「私の事よりも、マリー達は大丈夫だったの?」と逆に訊き返された。

 「え?」

 「さっき、難しい話をしていたでしょう? あのメイソンという男と」

 心配げな顔でこちらを見てくるアン姉。ギャヴィンが忍び笑いを漏らした。

 「面白い事をされていましたね、『誓約書』ですか。実は一部始終見ていたんです。アン様が問題のある男と共にこちらにやってくる貴女方を見付けられて」

 万が一の事が無いか、三人とも物陰に隠れて成り行きを見守っていたらしい。私は誤魔化すように頬に手を当て笑みを浮かべた。

 「まあ、あらあら。見られていたなんてお恥ずかしいですわ」

 「……大事無くて良かった。私の出る幕は無かったようだな」

 その声色におや、と思う。
 クジャク野郎の癖にいざという時出てきて守ってくれるつもりだったのか。私はザインを少しだけ見直した。

 「うふふ、大丈夫ですわ。グレイが居てくれましたもの」

 言いながらグレイの肩に手を乗せる。ザインは随分仲が良いんだな、と目を丸くしていた。君も見習いたまえ。

 「誓約書を見せて頂いても?」

 ギャヴィンが興味深そうにしていたので「ええ、どうぞ」と渡す。彼は文面をじっくりと改めていた。

 「……これ、どうしたって最後まで払えませんよね?」

 呆れたように言う。私は肩を竦めた。

 「条件を出した私も、まさか自信満々に受けて下さるとは思いませんでしたわ。ですから適当な所で手打ちに出来るようにとペナルティも緩めにしてありますのよ。不実な上、計算の勉強をおサボりになってきた殿方には良い薬になってよ?」

 「成程、しかしメイソンがこのお金を払う為に重税を民に課すようになればどうします?」

 眉をしかめ、厳しい表情になったギャヴィンは私を真っ直ぐに見据えた。
しおりを挟む
感想 993

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。