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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
クジャク再び。
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「マリー!」
人の気配と物音にそちらに視線を向ける。現れたのはアン姉だった。後ろにザイン・ウィッタードと見知らぬ男性を連れている。
私は姿勢を正すと淑女の礼を取った。
「まあ、ザインお義兄様。ご無沙汰しておりましたわ。そちらのお方も、お初にお目にかかります。マリアージュ・キャンディと申します」
そつなく挨拶をすると、グレイも慌てて礼を取り、名乗りを上げた。
見知らぬ男性は金髪碧眼で見目がかなり良い。ザインと共に現れたという事は第一王子殿下だろうか。そうでなくともそれなりの高貴な身分のお方には違いない。
視線を上げるとザインの青い瞳に一瞬怯えの色が見えた。気のせいだろうか。紳士の礼を取った後、前見た時の如く落ち着かなさげに斜め四十五度の角度の顔で、視線だけこちらへ流してその栗色の髪を掻き上げる。
メァオー! メァオー! バサァー。
クジャク再び。挙動のウザさなら先程のメイソンを上回る。ぶん殴りてぇ。
アン姉は「マリーったらいけない子ね、思い出してしまうわ」と言いながらクスクスと笑っている。知らぬはザインばかりなり。
「やあ、お久しぶりですね、マリアージュ。お元気そうで何よりです。グレイ・ルフナー殿も初めまして、お噂はかねがね。キーマン商会には当家も世話になっています。
それにしても久しぶりのキャンディ伯爵家、婚約式という晴れの舞台だというのに、私は先程までティヴィーナ様に笑顔で虐められていましたよ」
言って、スカした笑みを浮かべるザイン。どこを見ているのか視線をこちらにしっかり合わせて来ない。ルックスは悪くないのに色々と残念な男である。
「まあ、母は理由無く他人を虐めるような人間ではありませんわ。そう思われたのならご自分の中に何かやましいものがおありだったのではなくて?」
にっこり笑顔を作って小首を傾げながらチクリとしてやると、ザインの頬がピクリと動く。
助け船を出すつもりなのか、見知らぬ男性が紳士の礼を取り、声を掛けてきた。
「お初にお目にかかります、マリアージュ姫。私はウエッジウッド子爵ギャヴィンと申します。お会いできて光栄です」
「あっ、」
ザインが慌てたように口をパクパクさせた。ウエッジウッド子爵と名乗った男はそちらを見て一つ頷くと、こちらに向き直る。
「お話の腰を折るような不躾な真似をして申し訳ございません。事情を知る者としてご説明を、と思いまして。
先日、ザイン殿はけしてアン姫を蔑ろにした訳ではなく、命令で已む無く第一王子殿下の客人をエスコートしただけなのです」
事情を知る者ね。王子殿下の学友か何かだろうか。
しかし命令で客人をエスコート? 自分の客を他人に接待させるっておかしくないか。
「ウエッジウッド様と仰ったかしら。それならば何故王子殿下ご自身がエスコートなさらなかったのでしょう?」
突っ込むと、ギャヴィンは困ったような表情を浮かべ肩を竦めた。
「お立場上、無責任な噂が立ちやすいのですよ。その噂を利用して良からぬ考えを抱く者も多いものですから。客人もそれなりの身分のお方ですし、他の貴族に任せる訳にもいかなかったのです」
成程な。それなら納得出来なくもない。噂で周囲が勝手に動いて既成事実を作られる、第一王子ともなれば尚更だろう。
「……そう言う事でしたの。では、アン姉様との誤解は解けたと考えて差支えありませんかしら?」
アン姉を見ると、「ええ……マリーにも心配を掛けたわね」と微笑んで頷いている。
アン姉が泣く事にはならなさそうだ。安心して胸を撫で下ろしていると、「私の事よりも、マリー達は大丈夫だったの?」と逆に訊き返された。
「え?」
「さっき、難しい話をしていたでしょう? あのメイソンという男と」
心配げな顔でこちらを見てくるアン姉。ギャヴィンが忍び笑いを漏らした。
「面白い事をされていましたね、『誓約書』ですか。実は一部始終見ていたんです。アン様が問題のある男と共にこちらにやってくる貴女方を見付けられて」
万が一の事が無いか、三人とも物陰に隠れて成り行きを見守っていたらしい。私は誤魔化すように頬に手を当て笑みを浮かべた。
「まあ、あらあら。見られていたなんてお恥ずかしいですわ」
「……大事無くて良かった。私の出る幕は無かったようだな」
その声色におや、と思う。
クジャク野郎の癖にいざという時出てきて守ってくれるつもりだったのか。私はザインを少しだけ見直した。
「うふふ、大丈夫ですわ。グレイが居てくれましたもの」
言いながらグレイの肩に手を乗せる。ザインは随分仲が良いんだな、と目を丸くしていた。君も見習いたまえ。
「誓約書を見せて頂いても?」
ギャヴィンが興味深そうにしていたので「ええ、どうぞ」と渡す。彼は文面をじっくりと改めていた。
「……これ、どうしたって最後まで払えませんよね?」
呆れたように言う。私は肩を竦めた。
「条件を出した私も、まさか自信満々に受けて下さるとは思いませんでしたわ。ですから適当な所で手打ちに出来るようにとペナルティも緩めにしてありますのよ。不実な上、計算の勉強をおサボりになってきた殿方には良い薬になってよ?」
「成程、しかしメイソンがこのお金を払う為に重税を民に課すようになればどうします?」
眉を顰め、厳しい表情になったギャヴィンは私を真っ直ぐに見据えた。
人の気配と物音にそちらに視線を向ける。現れたのはアン姉だった。後ろにザイン・ウィッタードと見知らぬ男性を連れている。
私は姿勢を正すと淑女の礼を取った。
「まあ、ザインお義兄様。ご無沙汰しておりましたわ。そちらのお方も、お初にお目にかかります。マリアージュ・キャンディと申します」
そつなく挨拶をすると、グレイも慌てて礼を取り、名乗りを上げた。
見知らぬ男性は金髪碧眼で見目がかなり良い。ザインと共に現れたという事は第一王子殿下だろうか。そうでなくともそれなりの高貴な身分のお方には違いない。
視線を上げるとザインの青い瞳に一瞬怯えの色が見えた。気のせいだろうか。紳士の礼を取った後、前見た時の如く落ち着かなさげに斜め四十五度の角度の顔で、視線だけこちらへ流してその栗色の髪を掻き上げる。
メァオー! メァオー! バサァー。
クジャク再び。挙動のウザさなら先程のメイソンを上回る。ぶん殴りてぇ。
アン姉は「マリーったらいけない子ね、思い出してしまうわ」と言いながらクスクスと笑っている。知らぬはザインばかりなり。
「やあ、お久しぶりですね、マリアージュ。お元気そうで何よりです。グレイ・ルフナー殿も初めまして、お噂はかねがね。キーマン商会には当家も世話になっています。
それにしても久しぶりのキャンディ伯爵家、婚約式という晴れの舞台だというのに、私は先程までティヴィーナ様に笑顔で虐められていましたよ」
言って、スカした笑みを浮かべるザイン。どこを見ているのか視線をこちらにしっかり合わせて来ない。ルックスは悪くないのに色々と残念な男である。
「まあ、母は理由無く他人を虐めるような人間ではありませんわ。そう思われたのならご自分の中に何かやましいものがおありだったのではなくて?」
にっこり笑顔を作って小首を傾げながらチクリとしてやると、ザインの頬がピクリと動く。
助け船を出すつもりなのか、見知らぬ男性が紳士の礼を取り、声を掛けてきた。
「お初にお目にかかります、マリアージュ姫。私はウエッジウッド子爵ギャヴィンと申します。お会いできて光栄です」
「あっ、」
ザインが慌てたように口をパクパクさせた。ウエッジウッド子爵と名乗った男はそちらを見て一つ頷くと、こちらに向き直る。
「お話の腰を折るような不躾な真似をして申し訳ございません。事情を知る者としてご説明を、と思いまして。
先日、ザイン殿はけしてアン姫を蔑ろにした訳ではなく、命令で已む無く第一王子殿下の客人をエスコートしただけなのです」
事情を知る者ね。王子殿下の学友か何かだろうか。
しかし命令で客人をエスコート? 自分の客を他人に接待させるっておかしくないか。
「ウエッジウッド様と仰ったかしら。それならば何故王子殿下ご自身がエスコートなさらなかったのでしょう?」
突っ込むと、ギャヴィンは困ったような表情を浮かべ肩を竦めた。
「お立場上、無責任な噂が立ちやすいのですよ。その噂を利用して良からぬ考えを抱く者も多いものですから。客人もそれなりの身分のお方ですし、他の貴族に任せる訳にもいかなかったのです」
成程な。それなら納得出来なくもない。噂で周囲が勝手に動いて既成事実を作られる、第一王子ともなれば尚更だろう。
「……そう言う事でしたの。では、アン姉様との誤解は解けたと考えて差支えありませんかしら?」
アン姉を見ると、「ええ……マリーにも心配を掛けたわね」と微笑んで頷いている。
アン姉が泣く事にはならなさそうだ。安心して胸を撫で下ろしていると、「私の事よりも、マリー達は大丈夫だったの?」と逆に訊き返された。
「え?」
「さっき、難しい話をしていたでしょう? あのメイソンという男と」
心配げな顔でこちらを見てくるアン姉。ギャヴィンが忍び笑いを漏らした。
「面白い事をされていましたね、『誓約書』ですか。実は一部始終見ていたんです。アン様が問題のある男と共にこちらにやってくる貴女方を見付けられて」
万が一の事が無いか、三人とも物陰に隠れて成り行きを見守っていたらしい。私は誤魔化すように頬に手を当て笑みを浮かべた。
「まあ、あらあら。見られていたなんてお恥ずかしいですわ」
「……大事無くて良かった。私の出る幕は無かったようだな」
その声色におや、と思う。
クジャク野郎の癖にいざという時出てきて守ってくれるつもりだったのか。私はザインを少しだけ見直した。
「うふふ、大丈夫ですわ。グレイが居てくれましたもの」
言いながらグレイの肩に手を乗せる。ザインは随分仲が良いんだな、と目を丸くしていた。君も見習いたまえ。
「誓約書を見せて頂いても?」
ギャヴィンが興味深そうにしていたので「ええ、どうぞ」と渡す。彼は文面をじっくりと改めていた。
「……これ、どうしたって最後まで払えませんよね?」
呆れたように言う。私は肩を竦めた。
「条件を出した私も、まさか自信満々に受けて下さるとは思いませんでしたわ。ですから適当な所で手打ちに出来るようにとペナルティも緩めにしてありますのよ。不実な上、計算の勉強をおサボりになってきた殿方には良い薬になってよ?」
「成程、しかしメイソンがこのお金を払う為に重税を民に課すようになればどうします?」
眉を顰め、厳しい表情になったギャヴィンは私を真っ直ぐに見据えた。
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