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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
ウィッタード公爵家。
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「アン姉、久しぶり。婚家暮らしはどう?」
次の日――私は小物入れを携えて、早速とばかりにウィッタード公爵家を訪ねていた。アン姉の結婚式以来である。
訪問とは言っても気軽なものなのでお気遣いなく、と事前にお知らせしてはあったものの、それでもウィッタード公爵夫妻が出て来て歓迎の挨拶をしてくれたのには非常に驚いた。
ちなみに義兄ザインの事を訊けば王宮に行ってるとかで留守。挨拶を終えた後、アン姉は応接室の一つに通してくれた。
やがて紅茶とお菓子が運ばれて来る。茶器はうちからアン姉が嫁入り道具として持って行ったやつだった。
「ありがとう、お義父様もお義母様もとっても優しくて、良くして頂いているわ。そちらはどう?」
「うん、皆元気にしてるよ!」
にこやかに笑うアン姉に内心ホッとする。嫁いびりとかは今のところ無いらしい。
久々に会うアン姉は前にも増して美しくなっていた。何というか、艶めいたものが出たような気がする。
「ところで。その分だと、夫婦生活は上手く行ってるようね」
ニヤリと笑うと、アン姉は紅茶を噴き出しかけた。
「な、何を言うの、マリーったら!」
「だって心配だったんだもの。この分だとクジャクを送り付ける必要は無さそうかな? マリーからの贈り物は役に立ったでしょ?」
私が言っているのはしれっと贈っていた精魂込めて作り上げたエロ下着である。勿論前世仕様でウスウススケスケのかなり破廉恥な奴。義兄ザインなら冗談抜きで鼻血出すかも知れない。
アン姉はすぐに思い当たったのか、顔を熟れたリンゴのように真っ赤にさせて「やっぱりアレは貴女だったのね、もう馬鹿マリー!」と珍しく声を荒げた。
耐え切れずお腹を抱えて笑い転げる私。アン姉は暫くそんな私を見ていたが、やがて毒気を抜かれたようにはぁっと息を吐いた。
「もう……相変わらずね」
それでも少し顔をむくれさせてめっと睨み付けるアン姉。顔が真っ赤になって涙目になっているのでいまいち迫力が無い。私はうふふと笑ってしまった。
さて、気を取り直して。
「ところで、今日はこれを持ってきたの。じゃん、先月グレイと行った感謝祭のお土産」
時間が掛かって今になってしまったけど、と箱を渡す。「何かしら?」と若干警戒したような顔で蓋を開けたアン姉は、一目見るなり目を輝かせた。
「まあ、素敵。何て綺麗な音色なの……!」
手に取る時に鳴った鈴の音に驚き、鳴らしてみたり施された白薔薇の装飾をうっとりと眺めている。
小物入れになっている事と、内側の鏡の仕掛けについて説明する。早速窓際に持って行って感動の声を上げながら楽しんでいた。
ちなみにアン姉へのメッセージは。
「『大好きなアン姉。離れていても心は傍に』――マリー。嬉しいわ、とっても。ありがとう、ありがとう!」
メッセージを見たアン姉は涙ぐみながら私を抱きしめ、お礼を繰り返す。私も抱きしめ返した。
――良かった、喜んで貰えて。
久々のアン姉の香りを堪能していると、アン姉の体が小刻みに震え始めた。
どうしたんだろうと思ってゆっくり体を話すと、とうとう声を上げて笑い始める。
「ああ、ダメ。どうしても園遊会の時の事を思い出してしまって!」
そう言えば遠目に見たけどアン姉達も来てたんだっけ。ソファーに座り直すと私はあの時の事をアン姉に話し始めた。
***
「――そんなこんなで。まぁ、結果としてアン姉達も近づけなかっただろうけど、それ以上に殿下達も夫人達を恐れて近づけなかったって訳よ。マリーの作戦勝ちね、ふふん!
それにしてもアン姉が最初からギャヴィン・ウエッジウッドがアルバート殿下だって事教えてくれていれば……」
一歩間違えれば無理やりグレイと引き離されて殿下の嫁としてアブダクションされかねなかった。今も王位継承争いに巻き込まれかけている最中だ。
それに、殿下達はアン姉のお客様という名分でうちに来てた。アン姉にしてみれば殿下は婚約者繋がりで疎かに出来ないだろうし、王族からのお願いという命令があったのは仕方ないかも知れないけど。もし事前に教えてくれていたらと恨まずにはいられないのも事実。
アン姉の結婚式であった顛末も全て話し、ぷっと頬を膨らませてじとっとアン姉を見ると、素直に頭を下げられた。
「まさか結婚式の時もそんな事があったなんて……本当にごめんなさい。入れ替わりを秘密にして欲しいと殿下に言われていたというのもあるけれど、単にマリーをからかうだけのお遊びをしていらっしゃるだけだと思っていたの。だから、秘密を明かせないまでもマリーには忠告をしたつもりだったのだけれど」
「あれはやっぱりそういう事だったのね」
はぁ、と溜息を吐く。「アン姉はもっと人を疑った方が良いわ、それが誰であっても」
「実家が政治的な争いに巻き込まれていくのは私も望んでいないわ。今後は気を付けるわね。それと――」
重要な秘密は私に伝えないで欲しいとアン姉は言った。知らなければ秘密は洩らしようがないから。
ウィッタード公爵家は第一王子殿下寄りで、アルバート殿下もちょくちょく遊びにやって来るかららしい。
確かにその方が安全だろうと私は頷いた。
また小物入れについて家族にも理由を説明したように、暫くは仕舞っておいて社交界でも身に着けないで欲しいと頼んでおく。
アン姉は分かったわ、と微笑んだ。
その時、トントンとノックの音が響く。
「――若奥様、若旦那様がお戻りになりました。アルバート第一王子殿下もご一緒にいらっしゃっております。如何致しましょうか?」
応接室の扉の外から聞こえて来た内容に、私達は顔を見合わせた。
次の日――私は小物入れを携えて、早速とばかりにウィッタード公爵家を訪ねていた。アン姉の結婚式以来である。
訪問とは言っても気軽なものなのでお気遣いなく、と事前にお知らせしてはあったものの、それでもウィッタード公爵夫妻が出て来て歓迎の挨拶をしてくれたのには非常に驚いた。
ちなみに義兄ザインの事を訊けば王宮に行ってるとかで留守。挨拶を終えた後、アン姉は応接室の一つに通してくれた。
やがて紅茶とお菓子が運ばれて来る。茶器はうちからアン姉が嫁入り道具として持って行ったやつだった。
「ありがとう、お義父様もお義母様もとっても優しくて、良くして頂いているわ。そちらはどう?」
「うん、皆元気にしてるよ!」
にこやかに笑うアン姉に内心ホッとする。嫁いびりとかは今のところ無いらしい。
久々に会うアン姉は前にも増して美しくなっていた。何というか、艶めいたものが出たような気がする。
「ところで。その分だと、夫婦生活は上手く行ってるようね」
ニヤリと笑うと、アン姉は紅茶を噴き出しかけた。
「な、何を言うの、マリーったら!」
「だって心配だったんだもの。この分だとクジャクを送り付ける必要は無さそうかな? マリーからの贈り物は役に立ったでしょ?」
私が言っているのはしれっと贈っていた精魂込めて作り上げたエロ下着である。勿論前世仕様でウスウススケスケのかなり破廉恥な奴。義兄ザインなら冗談抜きで鼻血出すかも知れない。
アン姉はすぐに思い当たったのか、顔を熟れたリンゴのように真っ赤にさせて「やっぱりアレは貴女だったのね、もう馬鹿マリー!」と珍しく声を荒げた。
耐え切れずお腹を抱えて笑い転げる私。アン姉は暫くそんな私を見ていたが、やがて毒気を抜かれたようにはぁっと息を吐いた。
「もう……相変わらずね」
それでも少し顔をむくれさせてめっと睨み付けるアン姉。顔が真っ赤になって涙目になっているのでいまいち迫力が無い。私はうふふと笑ってしまった。
さて、気を取り直して。
「ところで、今日はこれを持ってきたの。じゃん、先月グレイと行った感謝祭のお土産」
時間が掛かって今になってしまったけど、と箱を渡す。「何かしら?」と若干警戒したような顔で蓋を開けたアン姉は、一目見るなり目を輝かせた。
「まあ、素敵。何て綺麗な音色なの……!」
手に取る時に鳴った鈴の音に驚き、鳴らしてみたり施された白薔薇の装飾をうっとりと眺めている。
小物入れになっている事と、内側の鏡の仕掛けについて説明する。早速窓際に持って行って感動の声を上げながら楽しんでいた。
ちなみにアン姉へのメッセージは。
「『大好きなアン姉。離れていても心は傍に』――マリー。嬉しいわ、とっても。ありがとう、ありがとう!」
メッセージを見たアン姉は涙ぐみながら私を抱きしめ、お礼を繰り返す。私も抱きしめ返した。
――良かった、喜んで貰えて。
久々のアン姉の香りを堪能していると、アン姉の体が小刻みに震え始めた。
どうしたんだろうと思ってゆっくり体を話すと、とうとう声を上げて笑い始める。
「ああ、ダメ。どうしても園遊会の時の事を思い出してしまって!」
そう言えば遠目に見たけどアン姉達も来てたんだっけ。ソファーに座り直すと私はあの時の事をアン姉に話し始めた。
***
「――そんなこんなで。まぁ、結果としてアン姉達も近づけなかっただろうけど、それ以上に殿下達も夫人達を恐れて近づけなかったって訳よ。マリーの作戦勝ちね、ふふん!
それにしてもアン姉が最初からギャヴィン・ウエッジウッドがアルバート殿下だって事教えてくれていれば……」
一歩間違えれば無理やりグレイと引き離されて殿下の嫁としてアブダクションされかねなかった。今も王位継承争いに巻き込まれかけている最中だ。
それに、殿下達はアン姉のお客様という名分でうちに来てた。アン姉にしてみれば殿下は婚約者繋がりで疎かに出来ないだろうし、王族からのお願いという命令があったのは仕方ないかも知れないけど。もし事前に教えてくれていたらと恨まずにはいられないのも事実。
アン姉の結婚式であった顛末も全て話し、ぷっと頬を膨らませてじとっとアン姉を見ると、素直に頭を下げられた。
「まさか結婚式の時もそんな事があったなんて……本当にごめんなさい。入れ替わりを秘密にして欲しいと殿下に言われていたというのもあるけれど、単にマリーをからかうだけのお遊びをしていらっしゃるだけだと思っていたの。だから、秘密を明かせないまでもマリーには忠告をしたつもりだったのだけれど」
「あれはやっぱりそういう事だったのね」
はぁ、と溜息を吐く。「アン姉はもっと人を疑った方が良いわ、それが誰であっても」
「実家が政治的な争いに巻き込まれていくのは私も望んでいないわ。今後は気を付けるわね。それと――」
重要な秘密は私に伝えないで欲しいとアン姉は言った。知らなければ秘密は洩らしようがないから。
ウィッタード公爵家は第一王子殿下寄りで、アルバート殿下もちょくちょく遊びにやって来るかららしい。
確かにその方が安全だろうと私は頷いた。
また小物入れについて家族にも理由を説明したように、暫くは仕舞っておいて社交界でも身に着けないで欲しいと頼んでおく。
アン姉は分かったわ、と微笑んだ。
その時、トントンとノックの音が響く。
「――若奥様、若旦那様がお戻りになりました。アルバート第一王子殿下もご一緒にいらっしゃっております。如何致しましょうか?」
応接室の扉の外から聞こえて来た内容に、私達は顔を見合わせた。
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