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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
大事な臣下の食い扶持の為ならえんやこら。
「では、お前達が来るのに合わせて私もそこへ行く。マリー、くれぐれも外で裸になるような事はするんじゃないぞ!」
「しないわよっ、人の事を露出狂みたいに言うの止めてくれる!?」
次の日の朝、鳥ノ庄の城門前。私達は父サイモンと別れて狼ノ庄に向けて出発することになった。父はもう暫く滞在した後でアルジャヴリヨンに戻るらしい。
父のあんまりな別れ際の言葉に頬を膨らませていると、侍女エロイーズが近づいてきて淑女の礼を取る。
「マリー様、皆様。お名残り惜しいですが、私はここで旦那様と共に領都へ戻ります。ここよりは狼ノ庄の彼女がご案内致します」
するとエロイーズの背後から眼鏡をかけた侍女が前に進み出て礼を取った。栗色の髪をお下げにした、小柄で大人しそうな子だ。
「リュシール・ギダパールと申します。お迎えに上がりました」
眼鏡の侍女は珍しい。私は彼女に見覚えのあることに気付く。
「貴女、たまにトーマス兄の世話をしてるわよね」
「はい。トーマス様の近侍も専属の隠密騎士も狼ノ庄の者でございますので」
侍女リュシールは頷く。
そうだったのか、道理で。
「宜しくね、リュシール」
***
次に行った狼ノ庄では牧羊犬や猟犬の育成をしていた。猟犬は獲物を追いかける他、キノコ等を探し当てる訓練もしているらしい。リュシール曰く、狼ノ庄の者はアルジャヴリヨンの影の警備も大きく担っているそうだ。
触らせて貰ったころころとした子犬は可愛かった。
嗅覚が人間よりも優れている犬。警察犬のように特定の匂いをかがせて追いかける訓練をしているのかと訊けば、それは機密ですと声を潜められた。
温厚な性格の犬は使えないと言っていたので盲導犬や介助犬、遭難救助犬の話をしてみる。
犬の向き不向きで訓練と仕事を与えてみればどうかと言うと、興味深そうにしていた。特に雪山での遭難救助犬の話を聞きたがったのはアルトガル。
歓待を受けた後、一泊してから狼ノ庄を出発する。
侍女リュシールとはここでお別れである。狂犬病にはくれぐれも気を付けるように、とだけ言っておいた。あれは現代日本でも不治の病だからな。
迎えに来てくれたのは山羊ノ庄出身の侍女ヴェローナ・バラスン。ふわふわとした金髪に青い瞳の可愛らしい感じの女の子だ。
彼女とサリーナがやけに親しく話しているのを疑問に思っていると、なんと二人は同室なのだとか。
二日後にたどり着いた山羊ノ庄では、狼ノ庄で育てた牧羊犬を使った大規模な放牧が行われていた。
育てているのは山羊と羊。それぞれ育成に適した断崖のある山地と草原地帯を利用している。
山羊の乳を使ったチーズの他、羊肉や羊毛製品を作っているそうだ。
アルトガル曰く、山羊ノ庄は雪山に似ている、との事。
一匹子ヤギが生まれたので見に行くと、名付け親を仰せつかった。
ありがたく『デミウルゴス』と名付けさせて貰う。逆五芒星が似合いそうだ。
その内不完全な天地創造が行われるかも知れん。
それからも隠密騎士の里巡りの旅は、案内人を交代しながら順調に進んで行く。
猿ノ庄が鍛冶、熊ノ庄が木工業が盛んだったり。それぞれの里によって特色があって面白かった。
熊ノ庄では気球の実験場が作られていた。案内人は侍女ナーテ・マカイバリ。グレイ担当になったのに鳥ノ庄について来ないのを不思議に思ってたら先回りしていたという訳である。
気球は結婚式で見た時よりも大型になっていて、ロープ付きだが人を乗せて飛ぶところまでクリアしたらしい。事故にはくれぐれも気を付けて欲しいものである。
続けて案内された木工工房では、何やら私の愛馬に酷似した天馬の木馬をみてしまったが……熊ノ庄の職人も馬の脚共も良い笑顔だったので私は涙を飲んで黙殺した。
申し訳なさそうなナーテ。グレイの同情の眼差しが更に追い打ちをかけてくる。
既にアルジャヴリヨンで売られている玩具なのだとか……。
くっ……キャンディ伯爵家の為に働いてくれている大事な臣下だ。お前達の食い扶持の為なら多少の黒歴史は我慢してやろう。
熊ノ庄を出る時になって。
ナーテも誰かと交代するかと思いきや、そのままついて来てくれるとの事。
「龍ノ庄、ワイバーンのアーベルト・メレン。お迎えに上がりました!」
迎えに来てくれたのは庭師――隠密騎士の一人。
龍ノ庄に行く途中、南方にジュリヴァの港が見える絶景ポイントを通った。
熊ノ庄を出て三日目で到着した龍ノ庄は隠密騎士の里でも最南端にあって結構栄えており、商人達で賑わっている。
蛇ノ庄で仕入れた薬の行商他、ジュリヴァの港に品物を運んだり出稼ぎに出たりして生活しているらしい。銀製品ももれなくここ通るので流通の要と言ったところか。
龍ノ庄当主やアーベルトに礼を言って別れた後は、少し北上する。
行く先は――蛇ノ庄だ。
「次は僕の番ですねー」
とカール。
彼が案内してくれるらしい。
「しないわよっ、人の事を露出狂みたいに言うの止めてくれる!?」
次の日の朝、鳥ノ庄の城門前。私達は父サイモンと別れて狼ノ庄に向けて出発することになった。父はもう暫く滞在した後でアルジャヴリヨンに戻るらしい。
父のあんまりな別れ際の言葉に頬を膨らませていると、侍女エロイーズが近づいてきて淑女の礼を取る。
「マリー様、皆様。お名残り惜しいですが、私はここで旦那様と共に領都へ戻ります。ここよりは狼ノ庄の彼女がご案内致します」
するとエロイーズの背後から眼鏡をかけた侍女が前に進み出て礼を取った。栗色の髪をお下げにした、小柄で大人しそうな子だ。
「リュシール・ギダパールと申します。お迎えに上がりました」
眼鏡の侍女は珍しい。私は彼女に見覚えのあることに気付く。
「貴女、たまにトーマス兄の世話をしてるわよね」
「はい。トーマス様の近侍も専属の隠密騎士も狼ノ庄の者でございますので」
侍女リュシールは頷く。
そうだったのか、道理で。
「宜しくね、リュシール」
***
次に行った狼ノ庄では牧羊犬や猟犬の育成をしていた。猟犬は獲物を追いかける他、キノコ等を探し当てる訓練もしているらしい。リュシール曰く、狼ノ庄の者はアルジャヴリヨンの影の警備も大きく担っているそうだ。
触らせて貰ったころころとした子犬は可愛かった。
嗅覚が人間よりも優れている犬。警察犬のように特定の匂いをかがせて追いかける訓練をしているのかと訊けば、それは機密ですと声を潜められた。
温厚な性格の犬は使えないと言っていたので盲導犬や介助犬、遭難救助犬の話をしてみる。
犬の向き不向きで訓練と仕事を与えてみればどうかと言うと、興味深そうにしていた。特に雪山での遭難救助犬の話を聞きたがったのはアルトガル。
歓待を受けた後、一泊してから狼ノ庄を出発する。
侍女リュシールとはここでお別れである。狂犬病にはくれぐれも気を付けるように、とだけ言っておいた。あれは現代日本でも不治の病だからな。
迎えに来てくれたのは山羊ノ庄出身の侍女ヴェローナ・バラスン。ふわふわとした金髪に青い瞳の可愛らしい感じの女の子だ。
彼女とサリーナがやけに親しく話しているのを疑問に思っていると、なんと二人は同室なのだとか。
二日後にたどり着いた山羊ノ庄では、狼ノ庄で育てた牧羊犬を使った大規模な放牧が行われていた。
育てているのは山羊と羊。それぞれ育成に適した断崖のある山地と草原地帯を利用している。
山羊の乳を使ったチーズの他、羊肉や羊毛製品を作っているそうだ。
アルトガル曰く、山羊ノ庄は雪山に似ている、との事。
一匹子ヤギが生まれたので見に行くと、名付け親を仰せつかった。
ありがたく『デミウルゴス』と名付けさせて貰う。逆五芒星が似合いそうだ。
その内不完全な天地創造が行われるかも知れん。
それからも隠密騎士の里巡りの旅は、案内人を交代しながら順調に進んで行く。
猿ノ庄が鍛冶、熊ノ庄が木工業が盛んだったり。それぞれの里によって特色があって面白かった。
熊ノ庄では気球の実験場が作られていた。案内人は侍女ナーテ・マカイバリ。グレイ担当になったのに鳥ノ庄について来ないのを不思議に思ってたら先回りしていたという訳である。
気球は結婚式で見た時よりも大型になっていて、ロープ付きだが人を乗せて飛ぶところまでクリアしたらしい。事故にはくれぐれも気を付けて欲しいものである。
続けて案内された木工工房では、何やら私の愛馬に酷似した天馬の木馬をみてしまったが……熊ノ庄の職人も馬の脚共も良い笑顔だったので私は涙を飲んで黙殺した。
申し訳なさそうなナーテ。グレイの同情の眼差しが更に追い打ちをかけてくる。
既にアルジャヴリヨンで売られている玩具なのだとか……。
くっ……キャンディ伯爵家の為に働いてくれている大事な臣下だ。お前達の食い扶持の為なら多少の黒歴史は我慢してやろう。
熊ノ庄を出る時になって。
ナーテも誰かと交代するかと思いきや、そのままついて来てくれるとの事。
「龍ノ庄、ワイバーンのアーベルト・メレン。お迎えに上がりました!」
迎えに来てくれたのは庭師――隠密騎士の一人。
龍ノ庄に行く途中、南方にジュリヴァの港が見える絶景ポイントを通った。
熊ノ庄を出て三日目で到着した龍ノ庄は隠密騎士の里でも最南端にあって結構栄えており、商人達で賑わっている。
蛇ノ庄で仕入れた薬の行商他、ジュリヴァの港に品物を運んだり出稼ぎに出たりして生活しているらしい。銀製品ももれなくここ通るので流通の要と言ったところか。
龍ノ庄当主やアーベルトに礼を言って別れた後は、少し北上する。
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