貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
365 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

大事な臣下の食い扶持の為ならえんやこら。

 「では、お前達が来るのに合わせて私もそこへ行く。マリー、くれぐれも外で裸になるような事はするんじゃないぞ!」

 「しないわよっ、人の事を露出狂みたいに言うの止めてくれる!?」

 次の日の朝、鳥ノ庄の城門前。私達は父サイモンと別れて狼ノ庄に向けて出発することになった。父はもう暫く滞在した後でアルジャヴリヨンに戻るらしい。
 父のあんまりな別れ際の言葉に頬を膨らませていると、侍女エロイーズが近づいてきて淑女の礼を取る。

 「マリー様、皆様。お名残り惜しいですが、私はここで旦那様と共に領都へ戻ります。ここよりは狼ノ庄の彼女がご案内致します」

 するとエロイーズの背後から眼鏡をかけた侍女が前に進み出て礼を取った。栗色の髪をお下げにした、小柄で大人しそうな子だ。

 「リュシール・ギダパールと申します。お迎えに上がりました」

 眼鏡の侍女は珍しい。私は彼女に見覚えのあることに気付く。

 「貴女、たまにトーマス兄の世話をしてるわよね」

 「はい。トーマス様の近侍も専属の隠密騎士も狼ノ庄の者でございますので」

 侍女リュシールは頷く。
 そうだったのか、道理で。

 「宜しくね、リュシール」


***


 次に行った狼ノ庄では牧羊犬や猟犬の育成をしていた。猟犬は獲物を追いかける他、キノコ等を探し当てる訓練もしているらしい。リュシール曰く、狼ノ庄の者はアルジャヴリヨンの影の警備も大きく担っているそうだ。
 触らせて貰ったころころとした子犬は可愛かった。
 嗅覚が人間よりも優れている犬。警察犬のように特定の匂いをかがせて追いかける訓練をしているのかと訊けば、それは機密ですと声を潜められた。
 温厚な性格の犬は使えないと言っていたので盲導犬や介助犬、遭難救助犬の話をしてみる。
 犬の向き不向きで訓練と仕事を与えてみればどうかと言うと、興味深そうにしていた。特に雪山での遭難救助犬の話を聞きたがったのはアルトガル。

 歓待を受けた後、一泊してから狼ノ庄を出発する。
 侍女リュシールとはここでお別れである。狂犬病にはくれぐれも気を付けるように、とだけ言っておいた。あれは現代日本でも不治の病だからな。

 迎えに来てくれたのは山羊ノ庄出身の侍女ヴェローナ・バラスン。ふわふわとした金髪に青い瞳の可愛らしい感じの女の子だ。
 彼女とサリーナがやけに親しく話しているのを疑問に思っていると、なんと二人は同室なのだとか。

 二日後にたどり着いた山羊ノ庄では、狼ノ庄で育てた牧羊犬を使った大規模な放牧が行われていた。
 育てているのは山羊と羊。それぞれ育成に適した断崖のある山地と草原地帯を利用している。
 山羊の乳を使ったチーズの他、羊肉や羊毛製品を作っているそうだ。
 アルトガル曰く、山羊ノ庄は雪山に似ている、との事。
 一匹子ヤギが生まれたので見に行くと、名付け親を仰せつかった。
 ありがたく『デミウルゴス』と名付けさせて貰う。逆五芒星が似合いそうだ。
 その内不完全な天地創造が行われるかも知れん。

 それからも隠密騎士の里巡りの旅は、案内人を交代しながら順調に進んで行く。
 猿ノ庄が鍛冶、熊ノ庄が木工業が盛んだったり。それぞれの里によって特色があって面白かった。

 熊ノ庄では気球の実験場が作られていた。案内人は侍女ナーテ・マカイバリ。グレイ担当になったのに鳥ノ庄について来ないのを不思議に思ってたら先回りしていたという訳である。
 気球は結婚式で見た時よりも大型になっていて、ロープ付きだが人を乗せて飛ぶところまでクリアしたらしい。事故にはくれぐれも気を付けて欲しいものである。
 続けて案内された木工工房では、何やら私の愛馬に酷似した天馬の木馬をみてしまったが……熊ノ庄の職人も馬の脚共も良い笑顔だったので私は涙を飲んで黙殺した。
 申し訳なさそうなナーテ。グレイの同情の眼差しが更に追い打ちをかけてくる。
 既にアルジャヴリヨンで売られている玩具なのだとか……。
 くっ……キャンディ伯爵家の為に働いてくれている大事な臣下だ。お前達の食い扶持の為なら多少の黒歴史は我慢してやろう。

 熊ノ庄を出る時になって。
 ナーテも誰かと交代するかと思いきや、そのままついて来てくれるとの事。

 「龍ノ庄、ワイバーンのアーベルト・メレン。お迎えに上がりました!」

 迎えに来てくれたのは庭師――隠密騎士の一人。
 龍ノ庄に行く途中、南方にジュリヴァの港が見える絶景ポイントを通った。
 熊ノ庄を出て三日目で到着した龍ノ庄は隠密騎士の里でも最南端にあって結構栄えており、商人達で賑わっている。
 蛇ノ庄で仕入れた薬の行商他、ジュリヴァの港に品物を運んだり出稼ぎに出たりして生活しているらしい。銀製品ももれなくここ通るので流通の要と言ったところか。

 龍ノ庄当主やアーベルトに礼を言って別れた後は、少し北上する。
 行く先は――蛇ノ庄だ。

 「次は僕の番ですねー」

 とカール。
 彼が案内してくれるらしい。
感想 1,014

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」