11 / 45
- 11 -
しおりを挟む
「そ、そうよ。拾ってくれてありがとう」
「ほら。もう落とすなよ」
言われて、私はそれを受け取ろうと手を出す。
「よく、がんばったな」
微かに聞こえた声に、私は顔をあげた。薄いガラスの向こうの目が、驚くほど優しい。
「え……?」
「……あんたの方が、早かった。俺がもう少し早く気づいていれば、あんたにあんな怖い思いさせなくて済んだんだ」
さっきとは打って変わった優しい声に、私はぽかんとしたまま男を見上げている。照れくさいのか、少し視線をそらして男はパスケースを私に押し付けた。
「バカなんて言ってごめん。あんた……勇気あるよ。でも、無理はするな。俺みたいに、絶対、他に助けてくれる人はいるから」
え。まさか、謝ってもらえるなんて思わなかった。しかも、心配してくれてる……?
……今怒鳴ったばかりの女に、ごめんて言える方こそ勇気あるでしょ。
「ありがと……」
なんだかこっちも照れちゃって、戸惑いながらパスケースを受け取った。
じゃあ、と言ってそのまま駅に向かう男をなんとなく目で追っていると、ふいにふらりと体勢をくずして男はその場にしゃがみこんでしまう。
「え?! あの、どうしたの?!」
驚いた私は、膝をついてしまった男の横に同じようにしゃがみこむ。
「ああ……気にするな」
マスクのせいでよくは見えないけど、顔色が悪いような気がする。
「どこか具合でも悪いの?」
「そうじゃない。平気だから。じゃあな」
追い払うように私に手を振って立ち上がるけど、歩き始めた足元がふらふらと心もとない。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「なんでもない。ほっといてくれ」
苛立たし気に男が言った直後、すごい音が聞こえた。
「……もしかして、おなかすいてるの?」
私が言うと、男はあきらめたようにくたりと壁にもたれる。
「くっそ。昼も抜いたから限界……」
私は、パスケースをバッグにしまいながら、代わりに財布を取り出す。中を見て眉をしかめた。
……仕方ないか。
「はい」
「……なんだよ、これ」
男は、私が差し出した一万円札を見て不機嫌そうに言った。
「ほら。もう落とすなよ」
言われて、私はそれを受け取ろうと手を出す。
「よく、がんばったな」
微かに聞こえた声に、私は顔をあげた。薄いガラスの向こうの目が、驚くほど優しい。
「え……?」
「……あんたの方が、早かった。俺がもう少し早く気づいていれば、あんたにあんな怖い思いさせなくて済んだんだ」
さっきとは打って変わった優しい声に、私はぽかんとしたまま男を見上げている。照れくさいのか、少し視線をそらして男はパスケースを私に押し付けた。
「バカなんて言ってごめん。あんた……勇気あるよ。でも、無理はするな。俺みたいに、絶対、他に助けてくれる人はいるから」
え。まさか、謝ってもらえるなんて思わなかった。しかも、心配してくれてる……?
……今怒鳴ったばかりの女に、ごめんて言える方こそ勇気あるでしょ。
「ありがと……」
なんだかこっちも照れちゃって、戸惑いながらパスケースを受け取った。
じゃあ、と言ってそのまま駅に向かう男をなんとなく目で追っていると、ふいにふらりと体勢をくずして男はその場にしゃがみこんでしまう。
「え?! あの、どうしたの?!」
驚いた私は、膝をついてしまった男の横に同じようにしゃがみこむ。
「ああ……気にするな」
マスクのせいでよくは見えないけど、顔色が悪いような気がする。
「どこか具合でも悪いの?」
「そうじゃない。平気だから。じゃあな」
追い払うように私に手を振って立ち上がるけど、歩き始めた足元がふらふらと心もとない。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「なんでもない。ほっといてくれ」
苛立たし気に男が言った直後、すごい音が聞こえた。
「……もしかして、おなかすいてるの?」
私が言うと、男はあきらめたようにくたりと壁にもたれる。
「くっそ。昼も抜いたから限界……」
私は、パスケースをバッグにしまいながら、代わりに財布を取り出す。中を見て眉をしかめた。
……仕方ないか。
「はい」
「……なんだよ、これ」
男は、私が差し出した一万円札を見て不機嫌そうに言った。
13
あなたにおすすめの小説
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
ベッドの隣は、昨日と違う人
月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、
隣に恋人じゃない男がいる──
そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。
こんな朝、何回目なんだろう。
瞬間でも優しくされると、
「大切にされてる」と勘違いしてしまう。
都合のいい関係だとわかっていても、
期待されると断れない。
これは、流されてしまう自分と、
ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。
📖全年齢版恋愛小説です。
⏰毎日20:00に1話ずつ更新します。
しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる