推しがいるのはナイショです!

いずみ

文字の大きさ
29 / 45

- 29 -

しおりを挟む
「え、ホントに知らなかったの? ごめん久遠、ばらしちゃった♪」
 口では謝っているけど、全く悪びれない様子でイチヤは久遠の肩に手を置く。それを見ながら、タカヤが苦笑して言った。
「だから僕はやめようって言ったんだよ」
「え、だって久遠が女とデートしてるんだよ? こんな面白い場面、見過ごすことなんてできないっしょ」
 あっけらかんとイチヤが答える。タカヤは、きっちりと私の方を向くとわずかに腰を曲げて言った。

「驚かせてすみません、お嬢さん。僕たちは、てっきりあなたが僕たちの事を知っているものと思い込んで話しかけてしまいました」
「は、はあ……」
「俺たちの名前がわかるってことは、もちろんRAG-BAG知ってるんだよね。俺はイチヤこと、菊池康でーす」
「僕は、吉井直人。いつも久遠がお世話になっております」
 深々と頭を下げられて、私も姿勢を正すと同じように挨拶をする。

「こ、こちらこそ、お世話に……」
 別に世話してないしされてもいないけど、他になんて言ったらいいんだ。
「それでこれが、俺たちの甘えんぼの弟、クウヤでーす」
 イチヤは仏頂面で座っている久遠に背中から抱き着いて、思い切り振り払われていた。それを私は呆然と見ている。

「嘘……」
「信じられない気持ちはわかるよ。こいつ、あまりにもステージの上と普段の性格違いすぎるよな」
 イチヤがわざとらしくうんうんと頷いてた。
「もういいだろ。さっさと行けよ」
 久遠がぶっきらぼうに言ってイチヤを睨む。

「はいはい、邪魔はしないよ。けれど久遠、今日は3時から稽古始まるからね。時間変更になってるけど忘れてないよな?」
 あ、と久遠が声を上げたところをみると、忘れていたらしい。今日は夜に用事があるからって朝も早くからの待ち合わせだったんだけど、用事ってそれか。

「じゃ、僕たちは先に行ってる」
「じゃーねー、彼女さん。今度は俺たちとも遊んでねー」
 突風のように二人は去っていった。残された私たちの間に、沈黙が落ちる。
「あの」
「なに」
 おそるおそる声をかけると、淡々とした声が返ってきた。

「……まさか、本当に、クウヤ、なの?」
 久遠は、テーブルに頬杖をついて横を向いたままだ。
「そう言ったじゃん」
 えー、だってそんなの信じるわけないじゃん。騙されないかとか言ってたし普通は冗談だと思うじゃない!!
 私は、思い立ってテーブル越しに手を伸ばすと、久遠の長い前髪を片手であげた。久遠はうるさげにこちらを向いたけど、私の手を振り払うことはしなかった。

 この髪と瞳が青で、目のところに仮面をつけたら……
「うわ……クウヤだ……」
 しかもすさまじく機嫌の悪い。めずらしいもの見ちゃった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

処理中です...