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私はあわてて体をひく。がたんと扉に背中があたった。
「おい?」
久遠が不満そうな顔をした。
「だ、だって……なんで……?」
「今さらそれ聞く?」
めっちゃ顔をしかめられた。
だって……だって、今、あんた何しようとした!?
「だって、……クウヤは、みんなのアイドルで……私には手の届かない芸能人で……」
「誰だよ、そんなこと言ったの。だいたい今はクウヤじゃない。久遠だから」
そう言いながら久遠は、逃げられないように私の両側に手をのばして扉に押し付ける。思わず手で押し戻すと、久遠が不満げに眉をひそめた。
「嫌なのかよ? やっぱりなんたらとかいう課長が好きなのか?」
「違う! 私の好きなのは……!」
「好きなのは?」
じ、とまっすぐに見つめてくる。
「好きなのは……」
「うん」
「……し、知ってるくせに!」
「さあ?」
久遠は、にやにやとしか表現のしようがない笑顔だ。けど、ふと何かに気づいたような顔になる。
「お前、名前は?」
「え?」
「俺、お前の本当の名前、まだ知らない」
あ。
久遠の口調が怒っている様子ではないことに、少し安堵する。
私は、緊張しながら背筋をのばした。
「水無瀬……華、です。今まで嘘ついてて、ごめんなさい」
「会員証、偽名で作ったんだな。あの時名乗らなかったのは、まだ俺のこと信じてなかったんだろ」
「だって、仕方ないじゃない。あんな出会いだったんだもの」
「まあそうだな。で、訂正する機会を失ったまま、名乗りにくくなった、と」
「…………図星」
久遠が、に、と笑った。
「華、か。かわいい」
動揺する私を、久遠は目を細めて見つめてくる。
そんな風に人から言われたことないから、なんて返したらいいのかわからないじゃない。
「ま、俺もあんまりお前の事言えないけどな」
「え?」
「俺も、ちゃんと名乗っていなかった」
そういえば、久遠、しか知らないや。
「五十嵐」
「え?」
「五十嵐久遠。それが俺の名前」
「五十嵐?」
「そう。初めてお前のパス見た時にそれで気になったんだ。あの時、縁を切らなくてよかった。言っとくけど、どうでもいい女にMV貸すなんて口実、使わないからな。こないだのカフェで五十嵐って名前が出て、俺はどこぞの課長じゃないから誰のことだよ、って自分でも驚くくらい嫉妬した」
「嫉妬? 久遠が?」
驚いて声が出た。すると、急に久遠が真面目な顔になった。
「俺、華が欲しい」
ぼ、と顔が熱くなる。
「俺のものになってよ」
「わ、私は……」
「嫌?」
「………………」
「華?」
本当の名前を呼ばれて、体が熱くなる。
私の、名前。
久遠に呼んでもらうことが、こんなにも嬉しい。
「………………嫌じゃ、ない」
「ならおっけー」
久遠は、私に向かって手を差し出した。
「ラーメン、食いに行こ。コンサート終わってから、なんも食ってねえんだ」
「こんな時間に? 久遠と食べ歩いてたら、私、際限なく太りそう」
ため息をついた私に、久遠はまた、に、と笑った。
「太ってても痩せてても、華は華だろ?」
そう言われちゃうと何も言い返せない。
私は、少し考えてからその手をとった。
「半分こ、してくれるなら行く」
☆
「おい?」
久遠が不満そうな顔をした。
「だ、だって……なんで……?」
「今さらそれ聞く?」
めっちゃ顔をしかめられた。
だって……だって、今、あんた何しようとした!?
「だって、……クウヤは、みんなのアイドルで……私には手の届かない芸能人で……」
「誰だよ、そんなこと言ったの。だいたい今はクウヤじゃない。久遠だから」
そう言いながら久遠は、逃げられないように私の両側に手をのばして扉に押し付ける。思わず手で押し戻すと、久遠が不満げに眉をひそめた。
「嫌なのかよ? やっぱりなんたらとかいう課長が好きなのか?」
「違う! 私の好きなのは……!」
「好きなのは?」
じ、とまっすぐに見つめてくる。
「好きなのは……」
「うん」
「……し、知ってるくせに!」
「さあ?」
久遠は、にやにやとしか表現のしようがない笑顔だ。けど、ふと何かに気づいたような顔になる。
「お前、名前は?」
「え?」
「俺、お前の本当の名前、まだ知らない」
あ。
久遠の口調が怒っている様子ではないことに、少し安堵する。
私は、緊張しながら背筋をのばした。
「水無瀬……華、です。今まで嘘ついてて、ごめんなさい」
「会員証、偽名で作ったんだな。あの時名乗らなかったのは、まだ俺のこと信じてなかったんだろ」
「だって、仕方ないじゃない。あんな出会いだったんだもの」
「まあそうだな。で、訂正する機会を失ったまま、名乗りにくくなった、と」
「…………図星」
久遠が、に、と笑った。
「華、か。かわいい」
動揺する私を、久遠は目を細めて見つめてくる。
そんな風に人から言われたことないから、なんて返したらいいのかわからないじゃない。
「ま、俺もあんまりお前の事言えないけどな」
「え?」
「俺も、ちゃんと名乗っていなかった」
そういえば、久遠、しか知らないや。
「五十嵐」
「え?」
「五十嵐久遠。それが俺の名前」
「五十嵐?」
「そう。初めてお前のパス見た時にそれで気になったんだ。あの時、縁を切らなくてよかった。言っとくけど、どうでもいい女にMV貸すなんて口実、使わないからな。こないだのカフェで五十嵐って名前が出て、俺はどこぞの課長じゃないから誰のことだよ、って自分でも驚くくらい嫉妬した」
「嫉妬? 久遠が?」
驚いて声が出た。すると、急に久遠が真面目な顔になった。
「俺、華が欲しい」
ぼ、と顔が熱くなる。
「俺のものになってよ」
「わ、私は……」
「嫌?」
「………………」
「華?」
本当の名前を呼ばれて、体が熱くなる。
私の、名前。
久遠に呼んでもらうことが、こんなにも嬉しい。
「………………嫌じゃ、ない」
「ならおっけー」
久遠は、私に向かって手を差し出した。
「ラーメン、食いに行こ。コンサート終わってから、なんも食ってねえんだ」
「こんな時間に? 久遠と食べ歩いてたら、私、際限なく太りそう」
ため息をついた私に、久遠はまた、に、と笑った。
「太ってても痩せてても、華は華だろ?」
そう言われちゃうと何も言い返せない。
私は、少し考えてからその手をとった。
「半分こ、してくれるなら行く」
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