はんぶんこ天使

いずみ

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第三章 悪魔になんかならないで!

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「悪魔になると、どうなるの?」
「そうなったらもう私の……天使の手には負えない。魂を救うこともできなくなって……消滅、させるしかないわ」
「消滅……?」
 それって……宮崎さんを? 消しちゃうの?
 あの姿は怖いけど、でも、あれは宮崎さんなんでしょ?

「だ、だめ、だよ。そんなの、絶対にだめ! 萌ちゃんお願い、宮崎さんを助けて!」
 萌ちゃんは私の顔を見て、ふんわりと微笑んだ。
「もちろんよ。助けるのが、私の仕事だもの」
 萌ちゃんに言われて、もう一度宮崎さんに視線をむける。真っ赤な目はつりあがって、きつく私たちを見ていた。
 背筋がぞわぞわとする……あれ? 
 その目からとめどなく流れているのは、涙?

「萌ちゃん。宮崎さん、泣いているの?」
「そう。まだ、心が残っているのよ」
 言いながら萌ちゃんは息を整えると、両方の手の平を上下に向かい合わせた。見ていると、その手の中が白く光りだす。まるでそこに、白いボールがあるみたいに。

 萌ちゃんは、そう、とその光るボールを宮崎さんへと押し出した。ふわりと萌ちゃんの手から離れたボールは、荒れ狂う風にそよとも押されることなくまっすぐ宮崎さんへと向かう。宮崎さんは、そのボールに気づくと逃れようとするようにもがき始めた。けれどすぐにそれは、宮崎さんの胸に吸い込まれるように消えていく。

 とたんに、宮崎さんが天をあおいですさまじい叫び声をあげた。私は思わずしゃがみこんで耳をおおう。
 やだ、怖い。なんてすごい声。あんな声、聞いたことない。聞きたくない!
 しばらく叫びながらもがいていた宮崎さんが、またこっちを向いた。

 あ。
 その顔が、さっきよりも少しだけもとの宮崎さんに近づいている。

「萌ちゃん、今のなに?」
「大きくなりすぎた闇の力を……私の力で……浄化、してるの……もう少し、あと数回……」
 かすれた声に顔をあげると、萌ちゃんが息をきらしていた。その顔色は、とても青い。

「萌ちゃん?! もしかして、さっきからそうやって力を使っていたの? だから、そんなに顔色が悪かったの?」
「うん……でも、今この力を使わなかったら、宮崎さんを助けられないから……」
 よろめいた萌ちゃんを、あわてて立ち上がって支える。ありがと、と小さい声で言って、萌ちゃんは宮崎さんを見すえた。

「宮崎さん、聞いて!」
 萌ちゃんが声をあげると、宮崎さんの真っ赤な目がまっすぐに萌ちゃんをとらえる。
「辛いって、言っていいの。苦しいって言っていいんだよ。でも、努力してきた今までの自分を、否定しないで!」
 ゆらり、と宮崎さんの体がかしいだ。大きく体はゆれるけれど、倒れずに顔だけがこっちをむいている。まるで、見えない糸に下げられた操り人形みたいだ。

「がんばったでしょ? きれいなモデルでいるために、いろんなものをたくさんがまんして一生懸命がんばったんでしょ? いつかその思いは報われる。だから、あきらめないで!」
「うるさい! あんたなんて何も知らないくせに!」
 宮崎さんの手から黒いムチのようなものが、しゅるりと伸びて勢いよく萌ちゃんに向かってきた。

「危ない!」
 とっさに、萌ちゃんの体をムチからかばうように抱きしめる。
「きゃっ!」
「美優ちゃん!」
 びり、と肩に熱を感じたと思ったら、その勢いではね飛ばされた。そのままごろごろと土の上を転がって、あまりの痛さにうごけなくなる。

「う……」
「美優ちゃん、大丈夫?!」
 萌ちゃんが、急いで助け起こしてくれた。
「う、うん……」
 とは言ったけど、さすがに涙が出てくる。痛いし怖いし……なんでこんなことになっちゃったんだろう。

「ありがとう。でも、だめよ、前に出ちゃ。危ないわ」
「でも……」
 ちら、と萌ちゃんの陰から宮崎さんをのぞく。泣きながら、宮崎さんはうなるような声を出してムチをふるっていた。

 その姿は、怖いはずなんだけど同時に痛々しくも感じられて、見ている私の胸まで締め付けられるように苦しくなる。
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