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第三章 悪魔になんかならないで!
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「力を貸してもらう?」
「ええ。さっき翼に光が集まったでしょ。あれは、この世界にいるあらゆる命から、少しずつ貸してもらった力なの。あの力を借りて、闇を浄化するのよ」
「そうなんだ」
私が感心していると、萌ちゃんは立ち上がって片手を空に向かって思い切りのばした。
「萌ちゃん?」
「うん」
目を閉じた萌ちゃんは、しばらくそのままでいた。私も立ち上がってその姿を、じ、と見ていると、萌ちゃんはぱかりと目をあけて私を見る。
「……ごめんね、美優ちゃん。後処理のために、もう少しだけここにいてくれる?」
「うん、いいけど……後処理って何するの?」
私が聞くと、萌ちゃんはなぜか急に悲しそうな顔になってしまった。
「今、こちらの件が終わったことを天界に報告したの。もうすぐここへ、もう一人、天使がやってくるわ。私はもう力が使えないから、後処理をお願いするのよ。私一人じゃ、宮崎さんをおうちまで届けることはできないし」
「その人を待っているの?」
私と萌ちゃんじゃ、背の高い宮崎さんを運ぶのは大変だもんね。ということは、来るのは大人の天使なのかな。
その人も、翼を持っているのかな。……きれいな翼かな。
ぽやんとその姿を想像している私を萌ちゃんは複雑そうな顔で見つめながら、ぼそりとつぶやいた。
「あのね、美優ちゃんの記憶……私が天使だったって記憶を、消させてもらう」
「記憶? ……を、消す?」
いきなり聞かされた不穏な言葉に、私はきょとんと目を丸くした。
「私たちのことを生きている人間に知られるわけにはいかないの。でも美優ちゃんには私の力が効かないみたいだから、もっと力のある上の天使様にお願いしたのよ」
「萌ちゃんのこと、忘れちゃうの?!」
驚いて叫ぶと、萌ちゃんは首を振った。
「ううん、私のことは忘れない。私が天使だったってことと、闇の事や宮崎さんの関わったこの事件のことだけを忘れてもらうの」
「そんなこと、できるの?」
「私には無理だけど、もっと上の天使様ならできるわ」
「上って……」
「私は、級で言ったら下級に位置する天使なの。その上に、中級、上級天使様がいて、さらにその上には最高位に位置する大天使様がいらっしゃるわ。これからいらっしゃるのは、私の直属の上司にあたる中級天使様。とてもきれいな方よ」
萌ちゃんはそう言って笑うけど、私はそれどころじゃない。
だって、その天使様が来るときは、萌ちゃんを忘れちゃうときなんでしょう?
そう言おうと口を開きかけると、萌ちゃんが何かに気づいたように空を見上げた。
「ほら、来たわ……え?」
萌ちゃんの視線を追って空を見上げた私は、思わずぽかんと口をあけてしまった。
うわあ……ほんとだ。なんて、きれいな人なんだろう。
茜色の空の中、大きないちょうの木のさらに上から降りてくるのは、本で見た天使そのものだった。着ているのがスーツということを除いては。
長い金髪がゆらゆらと揺れるその人は、大人の男の人だった。そして、その背中にある大きな翼。その人の体の二倍以上もありそうなほどその翼は、うっすらと透き通っている萌ちゃんの翼とは違って真っ白に光り輝いている。ちょうど、夏の入道雲が光っているみたいに。
その男の人は、翼をゆっくりとはためかせながら私たちの前に降りてきた。
「お疲れ様、榊君。一人でよく頑張ったね。無事で、なによりだ」
「ありがとうございます。でも、こんなにちょこちょこと下界にいらっしゃっていると、また皆さんに探されますよ? 大天使様」
「大天使様?」
私が首をかしげると、萌ちゃんは複雑な顔で言った。
「ええ。さっき翼に光が集まったでしょ。あれは、この世界にいるあらゆる命から、少しずつ貸してもらった力なの。あの力を借りて、闇を浄化するのよ」
「そうなんだ」
私が感心していると、萌ちゃんは立ち上がって片手を空に向かって思い切りのばした。
「萌ちゃん?」
「うん」
目を閉じた萌ちゃんは、しばらくそのままでいた。私も立ち上がってその姿を、じ、と見ていると、萌ちゃんはぱかりと目をあけて私を見る。
「……ごめんね、美優ちゃん。後処理のために、もう少しだけここにいてくれる?」
「うん、いいけど……後処理って何するの?」
私が聞くと、萌ちゃんはなぜか急に悲しそうな顔になってしまった。
「今、こちらの件が終わったことを天界に報告したの。もうすぐここへ、もう一人、天使がやってくるわ。私はもう力が使えないから、後処理をお願いするのよ。私一人じゃ、宮崎さんをおうちまで届けることはできないし」
「その人を待っているの?」
私と萌ちゃんじゃ、背の高い宮崎さんを運ぶのは大変だもんね。ということは、来るのは大人の天使なのかな。
その人も、翼を持っているのかな。……きれいな翼かな。
ぽやんとその姿を想像している私を萌ちゃんは複雑そうな顔で見つめながら、ぼそりとつぶやいた。
「あのね、美優ちゃんの記憶……私が天使だったって記憶を、消させてもらう」
「記憶? ……を、消す?」
いきなり聞かされた不穏な言葉に、私はきょとんと目を丸くした。
「私たちのことを生きている人間に知られるわけにはいかないの。でも美優ちゃんには私の力が効かないみたいだから、もっと力のある上の天使様にお願いしたのよ」
「萌ちゃんのこと、忘れちゃうの?!」
驚いて叫ぶと、萌ちゃんは首を振った。
「ううん、私のことは忘れない。私が天使だったってことと、闇の事や宮崎さんの関わったこの事件のことだけを忘れてもらうの」
「そんなこと、できるの?」
「私には無理だけど、もっと上の天使様ならできるわ」
「上って……」
「私は、級で言ったら下級に位置する天使なの。その上に、中級、上級天使様がいて、さらにその上には最高位に位置する大天使様がいらっしゃるわ。これからいらっしゃるのは、私の直属の上司にあたる中級天使様。とてもきれいな方よ」
萌ちゃんはそう言って笑うけど、私はそれどころじゃない。
だって、その天使様が来るときは、萌ちゃんを忘れちゃうときなんでしょう?
そう言おうと口を開きかけると、萌ちゃんが何かに気づいたように空を見上げた。
「ほら、来たわ……え?」
萌ちゃんの視線を追って空を見上げた私は、思わずぽかんと口をあけてしまった。
うわあ……ほんとだ。なんて、きれいな人なんだろう。
茜色の空の中、大きないちょうの木のさらに上から降りてくるのは、本で見た天使そのものだった。着ているのがスーツということを除いては。
長い金髪がゆらゆらと揺れるその人は、大人の男の人だった。そして、その背中にある大きな翼。その人の体の二倍以上もありそうなほどその翼は、うっすらと透き通っている萌ちゃんの翼とは違って真っ白に光り輝いている。ちょうど、夏の入道雲が光っているみたいに。
その男の人は、翼をゆっくりとはためかせながら私たちの前に降りてきた。
「お疲れ様、榊君。一人でよく頑張ったね。無事で、なによりだ」
「ありがとうございます。でも、こんなにちょこちょこと下界にいらっしゃっていると、また皆さんに探されますよ? 大天使様」
「大天使様?」
私が首をかしげると、萌ちゃんは複雑な顔で言った。
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